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ブログ「堀田清の元気が出るお話」

すずしろの花



北海道医療大学 薬用植物園・北方系生態観察園

野菜と果物のお話

ニンジン 

薬学で「ニンジン」というとウコギ科のオタネニンジン(高麗ニンジン)Panax ginsengのことですが、野菜の「ニンジン」は薬用ニンジンとは全く異なりセリ科の1〜2年草のことです。「ニンジン」という名は、先に述べたウコギ科の薬用ニンジンの根に似ていることに由来しているです。「ニンジン」の野生型はノラニンジン(野良人参)と言われており、8〜9月ころにセリ科特有の白い花を咲かせます。札幌近郊で容易に見つけることができる植物です。このノラニンジンは、根が黄白色で、野菜のニンジンのようにオレンジ色にはなりませし、食用にすることはできません。このようなニンジンの野生種の原産地はアフガニスタンのヒマラヤ山脈とヒンズークシ山脈の合流する山麓地帯であるとされており、アフガニスタンで栽培化され東西に広がり、金時ニンジン、大長ニンジンなどのように長い根の東洋系の「ニンジン」と五寸ニンジンに代表される短根の西洋系の「ニンジン」になったのです。日本への伝来は、江戸時代初期の『多識編』という文献に初めて「ニンジン」が登場していることから、17世紀前半にであったとされています。もっとも最初に伝来したのは長い根の東洋系の品種であり西洋系の「ニンジン」ではありません。西洋系の「ニンジン」が伝来したのは江戸時代後期だったようです。品質的には東洋系の「ニンジン」の方が上なのですが、明治以降、長根で収穫しにくいので、短根で扱いやすい西洋系の「ニンジン」に主役の座を奪われたのです。

「ニンジン」に含まれている代表的な有用成分は、なんと言ってもβ-カロチンです。β-カロチンは動物体内に取り込まれるとビタミンAに変化するのでプロビタミンAとも呼ばれます。「ニンジン」に含まれているβ-カロチンの量はビタミンAに換算すると約1万3000IU(国際単位)と野菜の中でずば抜けて高い量なのです。ちなみに「ニンジン」1/2本(80g)で大人一人の一日あたりの所要量の1.5倍に達する量のβ-カロチンが含まれているのです。また「ニンジン」にはβ-カロチンの他にα-カロチンという物質も含まれており、数ある野菜の中の「カロチン大将軍」と言っても良いでしょう。これまでの薬草園便りで何度かお話ししてきた通り、カロチン類には生体内で発生するフリーラジカル(活性酸素)をトラップする働きがあるので、癌予防に効果があります。その他にも視覚、聴覚、生殖機能維持、免疫機能を高める作用も報告されています。

カロチンは水には溶けず、油に溶けやすい性質がある上に比較的熱に対して安定であるので、油を使って調理する方が効果的にカロチン類を摂取できます。

その他に水溶性の食物繊維ペクチンも含有されており、これには余分な中性脂肪を体外に排出する働きがありますから、血管を正常な状態に保ち、高血圧、動脈硬化の予防にも役立ちます。

「カロチン大将軍」である「ニンジン」のただ一つの欠点は、「ニンジン」の細胞にはビタミンCを酸化して還元作用(活性酸素を除去する能力)を失わせるアスコルビナーゼという酵素が含まれているということです。アスコルビナーゼは空気にふれると働きだしますから、生ニンジンのすり下ろしやそのジュースは自身のビタミンCを破壊するだけでなく、その他のいっしょに用いた野菜や果物に含まれるビタミンCをも破壊してしまいますのご注意下さい。なお、このビタミンC分解酵素、アスコルビナーゼは2分間加熱するか酸(たとえば酢)を加えると失活します。

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