北海道医療大学

第3回将来ビジョン講座 開催報告

令和5年10月17日に第3回将来ビジョン講座が開催されました。講師に地域医療機能推進機構(JCHO)下関医療センター薬剤部長 吉国健司先生をお迎えして「心不全パンデミックの心構え~心臓リハビリテーションと地域連携~」という演題でご講演いただきました。

はじめに、日本の主な死因別にみた死亡率の年次推移のデータを示されて、心疾患が悪性新生物に次いで2番目となっていることを示されました。さらに、国内の将来人口推計と推定心不全患者数の推移のデータを示されて、2030年には心不全患者数が120万人を超える予想となり、心不全パンデミックが到来するということでした。心不全パンデミックに備えて、心不全の病態や治療薬についての知識を確認しておくことが重要と述べられました。

続いて、心不全の病態の基礎についてお話しされました。左心不全と右心不全で起こる症状の違いや、収縮不全と拡張不全の分類、左室駆出率(LVEF)の評価方法や心不全のステージ分類等、心不全に関する病態や検査、経過について詳しく解説していただきました。

次に心不全治療薬の最近のトピックについてお話がありました。ミネラルコルチコイド治療薬、β遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、SGLTⅡ阻害薬の4つの治療薬、fantastic four の出現によって、診療ガイドラインの治療戦略が変わってきているというお話や、これまで HFpEF の確立された治療薬はなかったものの、エンパグリフロジンで初めて HFpEF 患者に有効性が示されたという論文のデータをご紹介いただきながら、最近の話題について解説していただきました。

続けて心不全治療薬に関するポイントについてお話がありました。吉国先生は心不全治療薬による治療においては、利尿剤や血管拡張薬等によって、うっ血の解除や心拍数の適正化等の目に見える治療であるか、あるいはβ遮断薬や ARB 等による心臓リモデリングの抑制や、長期予後の改善等の目に見えない治療であるかを分けて考えておくことが肝要であるということを述べられました。また、心不全治療薬については、薬剤師が用いる薬剤情報提供書の内容が、治療意図と異なる表現となっている場合が、しばしば見受けられることを懸念されておりました。特に、他職種が患者に説明する場合は、薬剤情報提供書を用いて説明することがほとんどのため、患者に誤解を与えてしまい、治療の妨げになってしまうこともあるため、注意が必要ということでした。そこで吉国先生は、心不全手帳を有効に活用することをお勧めされました。心不全手帳には、薬剤について心不全の治療意図に合わせた表現となっており、患者に薬物治療について理解してもらい易い表現になっているということでした。

その後、吉国先生はアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬とSGLTⅡ阻害薬に焦点を当てて、それぞれの薬剤の特徴と注意点について解説されました。またその他に、心不全の増悪因子となる薬剤として、 NSAIDs やアントラサイクリン系の薬剤、免疫チェックポイント阻害薬について、心不全で注意すべきポイントを示しながら解説されました。

続いて心臓リハビリテーションについてお話がありました。急性・慢性心不全ガイドラインの中でも、心臓リハビリテーションは多職種による疾患管理および運動療法として、早い段階から介入が必要、という重要な位置付けとなっているということでした。心臓リハビリテーションは単に運動療法を示すわけではなく、医学的評価や患者教育、カウンセリング、疾病管理など多くの要素から構成されていて、目的は再入院防止をはじめとして抑うつ改善やフレイル予防、QOL の向上のためなど様々であるということでした。

吉国先生は心臓リハビリテーションについて時期区分や対象疾患の一覧、各職種の役割について示しながら解説されました。そして、心臓リハビリテーションによる効果のデータや、薬剤師が理学療法士と連携しながら薬剤による副作用の発見に至った実例や、リハビリをしているのに心拍数が上がらない、という事についてβ遮断薬を服用している影響を患者に説明した事例を挙げながら、心臓リハビリテーションに影響を及ぼし得る薬剤管理のポイントついて解説されました。

さらに臨床的な話題の続きとして、高齢循環器疾患患者の副作用モニタリングの注意点や、その中でポリファーマシーが問題として挙げられること、心不全緩和ケアについて、定義やがん患者に対する緩和ケアとの違う部分、これら様々な問題に介入してケアに当たっていく上で、地域連携が非常に重要であることから、実際に使用している施設間情報連絡書について記載例や実例を示しながら解説されました。短い時間の中で、心不全の病態や治療薬の基礎から、心臓リハビリテーションや心不全緩和ケアなど、臨床で行われていることを非常に分かりやすく解説していただきました。

これから近い将来やってくる心不全パンデミックには、多くの薬剤師が、心不全の知識や個々の患者に対する対応方法を身につけておくことが肝要であることが、最後の質疑応答の中で吉国先生と受講者の間で共有されていました。今回お話しいただいた内容が、広い地域で共有されて心不全治療の前進に寄与できることを願っているという吉国先生の思いをお話しいただきました。

ポートフォリオより、心臓の検査の仕方、薬剤の使い方などが良くわかった、といった意見や、ポリファーマシー解消と地域連携を行った具体例についてわかりやすい説明であった、という意見がありました。

薬剤師支援
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