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ブログ「堀田清の元気が出るお話」

すずしろの花



北海道医療大学 薬用植物園・北方系生態観察園

鍋のお話

鍋は究極の薬膳だ!

「真鱈」、「鮭」、「牡蠣のむき身」、「カニ」、「エビ」、「骨付き鳥肉」、「キャベツ」、「白菜」、「春菊」、「ネギ」、「大根」、「しいたけ」、「マイタケ」、「エノキ」、「シメジ」、「豆腐」、「厚揚」、「昆布」、「鰹」、「味噌」ときたら皆さんはいったい何を思い浮かべるでしょう?・・・。そうなんです、タイトルにもありますが、全て冬になるとどうしても食べたくなる鍋料理に使われる食材なんです。春から秋にかけて太陽の日差しをいっぱいに浴び、大地からたくさんの栄養分をもらってすくすくと育った野菜たち・・・。同じようにそれらを食べて成長した動物たちのお肉。海洋生物だって同じですね。秋にとれる魚や貝類はやはり非常に美味しいです。いずれにしても、どんな鍋の食材も春から秋にかけて太陽と大地のめぐみをいっぱいに受けて育ったものばかりです。言い換えるならば秋に収穫される食材の一つ一つが太陽や大地からもらった【生命エネルギー(気)】で一杯で、そしてそれらが一同に会する場所が鍋なのです。ということは、鍋料理の【鍋】の中は生命エネルギーが一杯の料理なのでは・・・と言ってしまうと少し飛躍し過ぎでしょうか・・・

鍋料理の【鍋】ではなく調理器具としての【鍋】の歴史は相当古く、人類が火を使って調理することを覚えた時から始まります。早くから金属文化の発達した中国などとは異なり、日本では縄文時代の土器から土師器(はじき=素焼き土器)、陶器の鍋へと変遷を重ね、平安時代あたりから鉄製の鍋が登場します。ここで土師器(はじき=素焼き土器)というのが実は鍋料理を作る調理器具として重要なポイントとなります。今でも本格的な鍋料理を作る時に用いられるのは土鍋です。実はこの土鍋という代物は熱の伝動が非常に悪く、鉄製の鍋に比べると沸騰にはとても時間がかかります。しかしながら、それだけに加熱が穏やかになるという特徴があります。その上、熱容量も大きく保温力もあるので土鍋は、生命エネルギーに満ちあふれた食材中に含まれる大切な栄養素の熱による変化を最小限に抑える調理器具であり、鍋料理には欠くことできないものなのです。

さてとても美味しい鍋料理ですが、ここでその中にどのくらい身体に良いものが含まれているかを本稿の冒頭に述べた食材を例にして、代表的な栄養成分に限って(もちろん一つ一つの食材にはここで取り上げた以上の栄養成分が含まれていることは言うまでもありません)ピックアップしてみます。

「真鱈」には良質のタンパク質ビタミンAビタミンD、交感神経を抑制して高血圧を改善するタウリンが、「鮭」には良質のタンパク質の他に動脈硬化の予防に良いとされるEPADHA、ガン予防に効果のあるとされる身の赤い色素、アスタキサンチン、各種ビタミン類(ビタミンB1,ナイアシン, ビタミンB2)が豊富に含まれています。「牡蠣のむき身」にはやはり良質のタンパク質が含まれる他、牛乳に匹敵するミネラル分(吸収の良いヘム鉄亜鉛)やタウリン。「カニ」や「エビ」にはタウリン、その殻にはがん抑制作用のあるキチンキトサン。「骨付き鳥肉」にはビタミンAや老化を防ぎガン予防が期待されるコラーゲン。「キャベツ」には胃炎や胃潰瘍の予防に大変効果的であるとされるキャベジンビタミンU)や L-グルタミン酸が大量に含まれる他、美肌効果のあるビタミンC や、イライラを解消する働きやカルシウムも多く含まれています。その他にガン予防に大きな効果があるインドール化合物イソチオシアナートが、「白菜」にはキャベツと同様やはりビタミンC やミネラルであるカルシウムカリウムマグネシウムイソシアネートなどが豊富に含まれています。「春菊」には腸管からのコレステロール吸収を抑制して血中コレステロール値を低下させる食物繊維β-カロチンの他に鉄分やカルシウム、胃腸の働きを促進させ胃のもたれを解消してくれるペリルアルデヒドα-ピネンも含まれています。「ネギ」はビタミンC が驚くほど豊富(アボガドに匹敵する)でその他に殺菌作用や抗菌作用が高くかぜの予防にも効果的な硫化アリル、葉の緑の部分にはβ-カロチンがいっぱいです。「大根」にはビタミンCイソチオシナートが含まれます。「しいたけ」、「マイタケ」、「エノキ」、「シメジ」などのキノコ類にはガン予防効果の高いβ-グルカン食物繊維が含まれていますし、「しいたけ」にはビタミンD前駆物質であるエルゴステリンが含まれており骨粗しょう症予防にもってこいの食材であることは皆さんご承知のことと思います。「豆腐」、「厚揚」にはやはり良質の植物性タンパク質オリゴ糖やポリフェノールの一種であるイソフラボン、生活習慣病予防効果の高いとされる大豆サポニングリシニンレクチンが含まれています。また鍋料理の出汁をとるのに必須である「昆布」はカリウムマグネシウムなどのミネラル分や食物繊維β-カロチンなどが豊富です。
 まあざっと上げただけでも健康に良い栄養成分で一杯であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

さらにおもしろい事があります。私の専門は天然物有機化学ですが、大きなフラスコを使ってよく植物などから色々な成分を抽出することがあります。色々な植物をフラスコに入れて水やアルコールなどの有機溶媒を使ってグツグツ煮て行う事が多いのですが・・・。鍋料理の調理器具である土鍋をフラスコと置き換えてみると、鍋料理というのは色々な食材から水を使って健康に良い栄養成分を抽出していることに他ならないのです。栄養成分の多くは有機化合物ですし、これは正に天然物有機化学の最高傑作と言わざるを得ないのです。なんたって誰もが美味しく食べることができるのですから・・・
 栄養成分の中にはビタミンCなどのように熱に弱い物質も多く、先に述べたように土鍋を使う理由も論理的に説明できます。

鍋料理を漢方薬の視点から見てもおもしろいことに気がつきます。漢方薬の多くは色々な生薬を混ぜ土瓶を使って煎じて(水を使って抽出する)飲むことが多いのですが、これは鍋料理と共通する点であると思います。このようにして天然物有機化学、漢方の視点から鍋料理を眺めてみるとそのスープには先に述べたような健康に良いアイテムがいっぱい溶け込んでいることが容易に分かります。漢方薬は病気になってから飲むものですが、鍋料理というのは病気にならないように食べる(スープは飲む)ための『究極の薬膳』と言ってしまっては言い過ぎでしょうか・・・

「鍋料理は塩分(食塩)を摂取し過ぎるのでは・・・」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。もちろん色々な病気で塩分を制限されている方はきちんと塩分をコントロールしなければならないことは言うまでもないことです。しかしながら、多くの健常人の方はそれほど心配することはないのです。先に述べたように鍋料理に使われる多くの野菜や昆布などにはカリウムがいっぱい含まれています。カリウムがナトリウム(食塩=NaCl)を排泄して塩分を過剰にとるリスクを軽減させるので、「キャベツ」、「白菜」、「春菊」、「ネギ」などの野菜をいっぱい使った鍋料理は塩分の取りすぎのリスクよりも、健康に良い栄養成分を摂取するメリットの方が大きいのです。とかく日本人は「○○○は身体に良い」という事を耳にするとそれだけをたくさん食べたり飲んだり(例えば赤ワインなど)しがちな民族ですが、何事も「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」で食事についても例外ではありません。その点鍋料理は色々な栄養成分がまんべんなく入ったまさにバランスのとれた理想的な料理であることは明らかです。

さらに一つだけ。鍋料理には栄養成分以外にも免疫力を高める非常に有効な作用があることを皆さんご存知でしょうか。それは鍋を食べる時には『笑いや笑顔』があるということです。皆さんが鍋料理を食べる時はお一人で食べることはほとんどないと思います。どんな人と食べることが多いのでしょう?少なくともあまり気の合わない人と食べることはほとんどないのではないでしょうか。やっぱり鍋料理を食べる時には家族や気の合った仲間、友人などと楽しい話題を肴にして食べるというのが一番ピッタリの料理です。少量のアルコールなども口を滑らかにさせ、楽しいおしゃべりに役立つアイテムの一つになります。私の専門ではありませんが、ストレスが一番免疫力を低下させると言われています。楽しい事や笑いはNK細胞を活性化させて免疫力を高めると言われています。鍋料理というのは色々な角度からやはり一番の『薬膳料理』であると私は思っています。これからはどんどん寒くなっていきますが、楽しい仲間と鍋をつつきながらインフルエンザや風邪を予防しましょう。もちろん、いくら鍋料理が健康に良いと言ってもお酒の飲みすぎはいけません。

飲ん兵衛さんは飲みすぎにちょっとだけ気をつけて! 

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