北海道は、広域ゆえに「ICT」活用の重要性はより大きく、また「食」と「健康」の成長を促進する必要がある。そのためにも産学官の連携を一層推進し、新事業の展開や研究開発を進めることが要請される。また、地域経済の活性化を支援する中小企業の育成・強化・支援が求められるものである。地域医療の分野で活躍できる専門職者を育成するための教育内容を、本取組においては修士課程に編成する。
 札幌医科大学、北海道医療大学、千歳科学技術大学、室蘭工業大学、小樽商科大学は、北海道にある大学として地域の課題に取り組むために、それぞれ連携を進めてきた。本申請は5大学がもつ資源を結集して、その具体化を図る第一歩である。

 各大学から公開されている研究シーズには、地域、特に医療の領域で生かすことに繋がるものが数多く存在している。これらのシーズを大学院教育の中に取り入れることで、人材育成への発展が期待できる。医療の分野で活躍するためには、人という個人、すなわち人の存在が見えなければならず、また援助という行為がわからなければ技術力を実践に生かすことはできない。
 医療系大学は、医療の実践面での協力を、そしてその他の大学は、ICT、工学系技術、経営面からの協力が可能である。これらすべてを教育内容に加え、従来にない大学院教育を行うことで、マルチスキルを備えた職業人、すなわち医療行為のための開発にも繋がる実践力を伴った人材の輩出を行うという大学院連携の成果が期待される。

 「地域医療共通プログラム@(選択科目)」と「地域医療共通プログラムA(必修科目)」を設定する。地域医療共通プログラムによる基礎教育から各大学大学院専門教育への橋渡しを2段階で積み上げ式に行う。
 地域医療共通プログラム@では、医療系および非医療系大学の学士課程卒業者に向けた内容の2つのプログラムを用意する。非医療系大学卒業者向けには将来地域医療に貢献するための基盤となる教育(講義と演習-臨地実習を含む-)を行う(同時に医療系学生のリメディアル教育ともなる)。また、医療系大学卒業者には医療アドバンス教育を行う。
 地域医療共通プログラムAでは「地域医療管理プログラム@・A」「地域医療情報プログラム」「地域医療工学プログラム」「地域医療経営プログラム」を置き、その後のより専門的教育に繋がることを目的として、系統立てて教育プログラムを組み立てる。この教育を受けることにより、将来従事する職種に関連するであろう、医療職者との共通認識の上にコミュニケーション力を育むことができることを目指す。以下に各科目の内容を簡単に示す。

医療基礎プログラム(コーディネータ:札幌医科大学)

  • ○ 各専攻に共通する医療に対する基本的理解につなげるための概論(人体形態機能の基礎)
  • ○ 診断方法、シミュレーターを用いた実践的教育(病態と診断基礎)
  • ○ 病者・高齢者・障害者体験等、実践教育(生活行動援助に関する学習)
  • ○ 医療にかかわる者として必要な倫理的知識の習得(医療倫理)
  • ○ 地域医療者、行政者の講義による北海道の保健医療教育(臨床保健医療)

医療アドバンスプログラム(コーディネータ:北海道医療大学)

  • ○ 薬剤の基礎と薬剤管理、薬物治療と評価の基礎教育(日本薬事法概論)
  • ○ 講義と演習による高度フィジカルアセスメント教育(病態生理学)

A 地域医療管理プログラム@(コーディネータ:札幌医科大学)

  • ○ 保健医療の供給システム、医療を構成する各種資源(人的・物的・経済的資源)、及び法律・行政(医療システム)
  • ○ 地域医療実践にかかわる倫理的課題のその分析方法、倫理的判断の基礎となる理論、課題解決のための介入法と政策立案(地域医療倫理)
  • ○ 地域の保健医療にかかわる施設管理、運営管理(組織・財務・物流)、活動管理(病院機能・サービス管理)(医療管理と医療活動評価)

B 地域医療管理プログラムA(コーディネータ:北海道医療大学)

  • ○ 医療の場が抱えるリスク、リスクマネージメント、安全管理の概念と方法、及び院内感染の概念、院内感染予防の基本的な方法(医療における安全管理(院内感染と医療安全))
  • ○ 北海道の保健医療事情、医療政策・医療行政の実際(臨床保健医療管理)

C 地域医療情報プログラム(コーディネータ:千歳科学技術大学)

  • ○ 情報処理、データベース技術、インターネット技術、セキュリティ技術(情報システム基礎)
  • ○ 医療情報の定義、活用方法、問題点、医療情報共有プロトコル(医療情報デザイン)
  • ○ 医療システム、電子カルテ、医療事務システム、病院間データ互換システム、オープンソースと地域医療連携システム(医療情報システム)
  • ○ 医療オントロジー、ラフ集合理論、知識発見システムの基礎など(医療データマイニング)
  • ○ 遠隔地間での医療保健、会議、教育を支援する通信システムおよび医療センサネットワークによる医療支援情報通信システム(医療情報通信システム)

D 地域医療工学プログラム(コーディネータ:室蘭工業大学)

  • ○ 電気・電子工学、医用システム制御、医用電子機器(血圧計、血流計、生体用増幅器、脳波計、心電計、筋電計など)、医用分析機器、医療に使用される機器の基礎(CT、MRI、PET、SPECTなど)、医用画像・信号処理技法、放射線治療計画システムなど 医療に必要な基本的情報の基礎(医用情報工学基礎)
  • ○ 画像誘導による微小マニピュレーション、遠隔コミュニケーションシステム、義足、歩行支援ロボットスーツ、イメージング技術とその応用など(バイオメカニクス(治療支援技術))
  • ○ レーザーなど光技術の基礎。医療応用事例として、医用レーザー、レーザー医療及び診断・治療、光ファイバースコープ等(医用光工学)
  • ○ 医療に応用される医療材料、機能代替・再生のための生体材料(材料物性及び材料工学基礎)。材料とシグナル物質、組織接着、抗感染機能、骨形成促進等(医療・生体材料)
  • ○ 感性工学の基礎と医療への応用、健康相談システム開発、生活支援機器開発(感性工学)

E 地域医療経営プログラム(コーディネータ:小樽商科大学)

  • ○ 医療経済の概念と国民生活における医療経済の位置づけ等(医療経済の基礎)
  • ○ 保健医療施設の経営に必要な戦略、組織、管理の基礎的概念と手法(医療経営基礎)
  • ○ 社会保障法、医療法、商法、経済法、民法、特許法等(関連法規)

 「地域医療共通プログラム」を受けて卒業した人材の地域での活躍を評価した上で、より発展が期待できる総合力を持つ新しい人材育成を目指す。この共同大学院では、専門のコメディカルスタッフ、遺伝カウンセラー等、公衆衛生学修士(MPH)学位を授与することを含めた組織としていく。そのために、平成22年度より組織委員会を設立し、詳細な検討に入る。

実施体制

 「地域医療共通プログラム」の構築と実施、及び評価、そして共同大学院の設立へと発展させるために共同のサテライトオフィスに専任の教員・事務組織を配置する(「(4)評価体制等」参照)。このオフィスには「地域医療共通プログラム@、A」の実施のための教室、備品(スキルズラボを兼ね備える)を同時に備え、専門スタッフが常に管理運営に努める。教育は各大学教員が兼任する。すなわち本プログラム遂行のための重要な拠点となる。 実際に教育プログラムを構築する上で、運営委員会と評価委員会を結成する。運営委員会では、各大学教員2名がメンバーとなり、教育プログラムの構築運営の責任(単位認定等)を負う。各教育プログラムは、上記のコーディネータ大学が中心となって具体的内容を決め、運営委員会での承認を経て実施することとなる。評価委員会は外部メンバーを選出し、教育プログラムの見直しや提言を行う組織とする(評価体制等参照)