分子生命科学(生化学)

研究実績

研究概要

1)がん細胞の低酸素応答の分子機構に関する研究

固形がんの深部に存在するがん細胞では、動脈血から拡散される酸素が十分に浸透できないため低酸素状態に陥る。低酸素状態に暴露されたがん細胞では、転写因子HIF-1 (hypoxia-inducible factor )の活性化が起こり、HIF-1依存的に解糖系亢進や血管新生の誘導、浸潤・転移能の上昇などの低酸素応答反応が誘導される。当研究室では、がん細胞悪性化の一因である低酸応応答のメカニズム明らかにするために、HIF-1を介した遺伝子発現調節機構の分子生物学的解析を行っている。

 

2)翻訳後修飾による細胞がん化シグナルの制御機構に関する研究

タンパク質の翻訳後修飾は、細胞内シグナル伝達の制御において極めて重要であり、その破綻は発がんの原因となり得る。当研究室では、細胞のがん化における主要なシグナル伝達系であるNFκB経路やNRF2経路などに着目し、これらのシグナル伝達の制御における翻訳後修飾(リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化など)の役割とその修飾異常によるがん化機構の解明を目的に、生化学・分子生物学・細胞生物学的手法を用いて解析を行っている。

 

3)Dialdehyde Cellulose Disk(DACD)の作製と応用に関する研究

タンパク質や核酸など生体分子の固定には、ナイロン膜やPVDF膜などが用いられる。しかし、添加する緩衝液の影響により、固定した標的分子が膜から解離してしまうことがある。そこで、簡便かつ強固に標的分子を固定することを目的として、「ろ紙」を過ヨウ素酸ナトリウムで処理したDACDの作製法と、その応用法について検討している。

  1. Tsuchida S., Takahashi R., Yabe K., Hamaue N., Aoki T., Cellulose, https://doi.org/10.1007/s10570-022-04503-y (2022)

 

4)UDP-glucuronosyltransferase (UGT) 1Aプロモーター領域の遺伝子多型に関する研究

薬物代謝酵素の一つであるUGT1Aは約530のアミノ酸からなるタンパク質ファミリーである。UGT1AファミリーのうちUGT1A1には以前より遺伝子多型の存在が知られており、遺伝子疾患との関連が明らかにされている。また、近年UGT1A1以外にも多くの遺伝子多型が発見され、これらの遺伝子多型により種々の薬物代謝が影響を受けることが報告されている。当研究室では現在、UGT1A1, 8, 9, 10のプロモーター領域について遺伝子多形の検出を行っている。

  1. Tsuchida S., Himi N., Miura Y., Kodama S., Shindo T., Nakagawa K., Aoki T., PLoS One, 18(8): e0289506, (2023)
  2.  Tsuchida S., Hirayama T., Nunose H., Suzuki H., Hakota R., Shindo T., Nakagawa K., Heliyon, 10(9): e30465, (2024)

 

5)培養細胞およびモデル動物を用いたうつ病発症のメカニズムに関する研究

うつ病は年々増加しており、患者の社会活動に大きな弊害をもたらす。発症には様々な要因が複雑に絡まり、その具体的な病態や発症メカニズムは未解明な点が多い。当研究室では、主にビタミンAや甲状腺ホルモンの運搬に関わっているタンパク質「トランスサイレチン (TTR) 」に着目し、その変化や異常を分子レベルで解析している。近年、TTRは認知症やうつ病などの脳神経疾患との関連性が示唆されており、我々もTTRに隠されたうつ病発症への影響や、新たな役割の解明を目指している。