がん看護コース 緩和ケアアウトリーチナース養成プログラム研修会

 新型コロナウィルスが蔓延しはじめてから、私たち医療者には、さまざまなことが起こっています。具体的には、病院での新型コロナ感染患者の受け入れに際し、看護という専門職特有の患者との接触が制限され、また患者と家族の交流を制限するということも起こりました。このような状況の中、2021年度がんプロの研修会で吉田みつ子先生をお迎えし、「コロナ禍におけるがん患者を取り巻く倫理的問題」というテーマでご講演いただきました。
 まず、新型コロナ感染症は『社会に何をもたらしたのか』について、新型コロナ感染症に左右される生活、つまり刻々と変わる状況に応じながら自分の習慣を常に変化させる生活になっていること、また、人と繋がることを禁じられ、ときに自分だけでなく他者の行動にまで厳しく振る舞うこともあるなど様々な影響を受けてきたことをお話しされました。『医療に何をもたらしたのか』では、家族との面会制限や亡くなった患者に家族が会うことができず悶々としていた看護師は少なくないなど、私たち看護師が受けてきた影響を振り返る機会が得られました。『がん医療にどの様な倫理的な問題をもたらしたのか』というお話では、看護師にとっての新型コロナ感染症の倫理的課題は、看護師・患者・同僚・家族の安全を守るために、最善とはなんであるか変化する感染状況において日々考え続けていたこと、不足する医療資源の中でのトリアージに関する倫理、患者・家族の面会が制限されるといったこれまでとの状況の変化の中、フロントラインに看護師はおり心を痛めながら医療を提供していたということをお話しいただきました。
 さらに医学的無益性を考えていく場面では、価値判断と科学的判断が組み合わさったものであり、正解がないからこそ話し合うことが重要性であることや、今起こっている医療者の苦痛の原因は社会的構造の中にあるという道徳的負傷についてお話しいただきました。
 終了後のアンケート結果では、「患者家族の面会時間がうばわれている状況下で、私自身がジレンマを抱えているというだけでなく、道徳的負傷も経験していることに気づくことができた」「この状況において解決の糸口を見つけることができるかも知れないというプラスの面もあることに気づくことができた」など様々な意見が寄せられました。
 現在、新型コロナウィルス感染症の終息が見えない状況です。感染拡大を防ぐために日々の変化があり、その変化によって患者・家族そして医療者のそれぞれの思いが動きます。人の感情が動くときには倫理的問題が起こりやすいので、倫理的問題が起こったときには、人の言葉に耳を傾け、何が良きことなのか探し求めていくことの大切さを学ぶ機会となりました。


~アンケートより~
  • 感染対策に伴う面会制限という日常から逸脱した状況が、患者・家族・医療者に与える影響について振り返り、そのことに関する研究の情報を得て、今後の支援の可能性(コミュニケーションのあり方など)を考えることができた。
  • 自施設で生じていた出来事を思い出しながら話を聞き、道徳的負傷という言葉がすごく胸に響きました。今後自分でも調べて、自施設のスタッフのサポートをするうえで、この知識を活かしたいと思いました。
  • 自身がコロナ禍で現場で感じている葛藤は、医療界全体に起こっていることで、皆悩みながら進んでいることが感じられた、葛藤して然りなんだと思うと、少し気持ちが楽になったように思う。