薬剤学(薬剤学)

研究実績

薬剤学講座(薬剤学)では,医療現場での薬の適正使用に寄与することを目的に,特にトランスポーターが関与する薬の体内動態(ADME)の解明に関する研究に取り組んでいます.
近年「ポリファーマシー(polypharmacy; PP, 多数の薬を併用する患者において薬による有害事象が起こっている状態)」が医療現場で問題視されています.薬のADMEは治療効果の決定因子の一つであると共に,相互作用や副作用の発現,個体差などの関与を通じてPPの発現にも深く関わっています.よってPPを回避あるいは改善するためには,その原因についてADMEの観点からの情報収集が必要不可欠です.
現在,当研究室では「慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)や薬剤性急性腎障害(acute kidney injury; AKI)患者での薬のADMEの変化」に関する様々な研究を行っています.近年著しく増加しているCKD患者は高齢者に多く,糖尿病や脂質異常症,高血圧症などの合併症を有するため多剤併用が一般的であり,また,腎機能低下により薬が体内に蓄積しやすい状態にあるため,PPのリスクが特に高いと言えます.しかし,例えば「この薬をCKD患者に投与する際は投与量を減ずること」と添付文書に記載されていてもその理由は明確でなく,曖昧な情報のまま患者に投与されている例が数多くあります.また,CKDが進行した末期腎不全では,本来は尿を介して排泄される物質が体内に蓄積し,これらの中には「尿毒症物質」として薬のADMEに大きな影響を及ぼすものがあります.
このような現状を背景に,現在は以下のテーマを中心とした研究を展開しています.総合薬学研究では,研究室配属学生の興味を基に個別のテーマが与えられ,各々に合ったペースで研究を進めて行きます.個々の学生が総合薬学研究で見出した知見は先輩から後輩へと引き継がれ,蓄積したデータは日本薬学会,日本医療薬学会,日本薬物動態学会,日本腎臓病薬物療法学会等で発表しています.
・CKD及び薬剤性AKIにおけるADME及びトランスポーターの機能変化の検討
CKDに関しては,ラットを用いてインドキシル硫酸などの尿毒症物質がADMEに及ぼす影響に関する研究を継続しています.また,薬剤性AKIが惹起されるとき,消化管吸収に関わる薬物トランスポーター(OATPやP-gp,BCRP等)の輸送機能がどのように変化するかについて研究を推進しています.またCKD患者で多発する高リン血症の治療薬の相互作用についても検討しています.
・抗がん剤の静脈内投与後に発現する消化管障害の機序に関する検討
P-gpが関わるADMEの研究は,当研究室のメインテーマとして20年以上に亘って継続され,多くの知見を医療現場に提供してきました.「生物薬剤学Ⅰ・Ⅱ」の講義で習ったように,P-gpはがん細胞の多剤耐性化のみならず,抗がん剤始め多くの薬物の生体内運命にも密接に関与しています.抗がん剤の中には静脈内投与後に副作用として下痢などの重篤な消化管障害を引き起こすものがあります.この機序として,血液中の抗がん剤がP-gpにより消化管内に分泌されることで消化管が抗がん剤に曝露されることが引き金になると推測し,ラットを用いてそれを実証する研究を行っています.
調査研究ではこれらのテーマに関して,文献検索により関連情報の収集と整理を行っています.他に,臨床現場でCKDや精神疾患,がん化学療法に携わっている薬剤師との共同研究を推進しています.常に医療現場にフィードバックできる研究を目的とし,教職員,学外研究員と共に研究を進めています.
(文責:小田)

研究概要