分子生命科学(生化学)

研究実績

研究概要

1) 蛍光タンパク質 (green fluorescent protein : GFP) に関する研究

 オワンクラゲから分離されたGFP遺伝子をクローニングして、種々の遺伝子工学的実験法やイムノアッセイに応用する研究を進めている。

・GFPを用いた遺伝子変異解析法の開発
ヒトゲノム中に存在する一塩基多型 (single nucleotide polymorphism : SNPs) は種々の疾病に関与し、それらの解析は個人の薬剤感受性、副作用の予測に役立つものと期待されている。当講座は新規SNPs解析法の開発を目的として、標的遺伝子とGFP遺伝子を融合し、融合タンパク質を解析することにより簡単に遺伝子変異を検出する方法について研究している。

1. Aoki T., Tahara T., Fujino H., Watabe H., Anal. Biochem., 103–106 (2002)
2. Aoki T., Tahara T., Satoh K., Fujino H., Watabe H., Anal. Biochem., 107–115 (2003)
3. Aoki T., Satoh K., Imamura T., Watabe H., J. Biochem. Biophys. Methods. 61–67 (2004)

・GFPを用いた均一蛍光濃縮法 (HAFCOM) の開発
ナイロン膜などに固定されたリガンドと蛍光標識アナライトとの反応を蛍光マイクロプレートリーダーで測定すると、経時的な蛍光強度の上昇が観察される。この原理に基づく親和性解析法を蛍光均一濃縮法 (homogeneous assay for concentrated on membrane : HAFCOM) と名付け、GFPと融合させたアナライトへ導入したアミノ酸変異とリガンドとの親和性解析を通してHAFCOMの有用性について検討している。

1. Aoki T., Kazama H., Satoh M., Mizuki K., Watabe H., Anal. Biochem., 344, 25–32 (2005)
2. Aoki T., Imamura T., Ozaki H., Ideuchi H., Tsuchida S., Watabe H., Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1921–1927 (2006)
3. Aoki T., Tsuchida S., Yahara T., Hamaue N., Anal. Biochem. 132–137 (2008)
4. Tsuchida S., Shigematsu T., Yahara T., Nunome K., Hamaue T., Aoki T., Biosci. Biotechnol. Biochem., 869–871 (2010)
5. Tsuchida S., Takahashi R., Yabe K., Hamaue N., Aoki T., Cellulose, https://doi.org/10.1007/s10570-022-04503-y (2022)

・GFPを用いた新規クローニングベクターの開発
DNAクローニングにおける大腸菌形質転換株のスクリーニング法としては、blue/white selectionが一般的であが、目的とする組み換えプラスミドを保持しないコロニー(blue)と保持するコロニー(white)とを選別するために、β-D-1-thiogalactoside (IPTG)や5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactoside(X-gal)を培地に添加する必要がある。またインサートが短い場合、偽陽性コロニーの形成により、選別が困難となる場合がある。そこで、より簡便かつ信頼性の高いスクリーニング法の開発を目的として、クローニングサイトをベクターのGFP遺伝子内、あるいはGFPの発現を阻害する配列の直前に構築し、GFPの蛍光の有無を指標とする新規スクリーニング法の開発を試みている。

1. Tsuchida S., Tamura M., Hamaue N., Aoki T., Biochem. Biophys. Res. Commun., 452. 32–35 (2014)
2. Tsuchida S., Kanashiki T., Izumiya S., Ichikawa T., Kurosawa R., Hamaue N., Aoki T., FEBS Open Bio, https://doi.org/10.1002/2211-5463.12445 (2018)

 

2) 変異型MFE2-ヒドラターゼの作製と酵素活性の測定

 Multifunctional enzyme type 1 (MFE1) およびtype 2 (MFE2) は、ペルオキシソームにおける脂質のβ酸化に関与する酵素であるが、互いに異なる分子構造を持ち、trans-2-enoyl-CoAに水分子を付加する際にMFE1はS体、MFE2はR体の3-hydroxyacyl-CoAを与える。この相違がもつ生理学的意義については未だ不明であるが、MFE2を欠損した場合、あるいはMFE2の特定の位置にアミノ酸変異が生じた場合、重篤な脂質代謝異常症が惹起されると報告されている。当講座ではこれまでMFEの生理学的役割を明らかにするために、キラルカラム装着型HPLCによる3S-と3R-hydroxyacyl-CoAの分離分析法を開発してきた。現在、この方法を用いてMFE2のヒドラターゼ領域 (MFE2H) の変異が酵素活性に与える影響を解析している。

1. Tsuchida S., Kawamoto K., Nunome K., Hamaue N., Hui SP., Murai T., Aoki T., Kurosawa T., J. Oleo Sci., 60, 87–92 (2011)
2. Tsuchida S., Kawamoto K., Nunome K., Hamaue N., Yoshimura T., Aoki T., Kurosawa T., J. Oleo Sci., 60, 221–228 (2011)
3. Tsuchida S., Kawamoto K., Endo N., Nunome K., Hamaue N., Aoki T., J. Oleo Sci., 61, 443–450 (2012)
4. Tsuchida S., Osaka A., Abe Y., Hamaue N., Aoki T., Mol. Genet. Metab. Reports, 2, 41–45 (2015)
5. Tsuchida S., Tenma A., Homage N., Murai T., Yoshimura T., Aoki T., Kurosawa T., J. Oleo Sci., 66, 745–751 (2017)

 

3) UGT1Aプロモーター領域の遺伝子多型に関する研究

 薬物代謝酵素の一つであるUGT (UDP-glucronosyltransferase) 1Aは約530個のアミノ酸からなるタンパク質ファミリーである。UGT1AファミリーのうちUGT1A1には以前より遺伝子多型の存在が知られており、Gilbert’s症候群などの遺伝子疾患との関連が明らかにされている。また、近年UGT1A1以外にも多くの遺伝子多型が発見され、これらの遺伝子多型により、種々の薬物代謝が影響を受けていることが報告されている。当講座では現在、UGT1A1、8、9、10のプロモーター領域について遺伝子多型の検出を行っている。

1. Xiao Z., Nunome K., Yahara T., Inoue E., Nabeshima M., Tsuchida S., Hamaue N., Aoki T., Drug Metab. Pharmacokinet., 29, 90–93 (2014)

2. Tsuchida S., Himi N., Miura Y., Kodama S., Shindo T., Nakagawa K., Aoki T., PLoS One, 18(8): e0289506, (2023)

 

4) イサチンとパーキンソン病との関連性

 イサチンは生体内に存在し、内因性モノアミンオキシダーゼ (MAO) を阻害することが知られている。イサチンは日本脳炎ウイルス接種により作製したパーキンソン病モデルラットの脳内神経伝達物質濃度を上昇させ、その運動機能を改善することから、イサチンはパーキンソン病に関わる重要な生体内物質であると推察される。そこで当講座ではHPLCを用いてパーキンソン病患者と健常者の血清中イサチン濃度を比較し、イサチンとパーキンソン病との関連性について検討している。また健常人のMAO活性は年齢とともに変化するので、ヒト血清中イサチン濃度と年齢との関係についても精査している。

1. Hamaue N., Minami M., Terado M., Hirafuji M., Endo T., Machida M., Hiroshige T., Ogata A., Tashiro K., Saito H., Neurotoxicology, 205–213 (2004)
2. Hamaue N., Ogata A., Terado M., Ohno K., Kikuchi S., Sasaki H., Tashiro K., Hirafuji M., Minami M., Neurochem. Res., 1451–1455 (2006)
3. Hamaue N., Ogata A., Terado M., Tsuchida S., Yabe I., Sasaki H., Hirafuji M., Togashi H., Aoki T., Brain Res., 110–115 (2010)