山椒
ミカン科のサンショウZanthoxylum piperitum DC. は落葉低木で、実は辛味、葉は香り、風味豊かな香辛料です。古くは縄文時代の遺跡の中から山椒の入った土器が出土されていることからも分かるように、日本最古の香辛料といえるでしょう。古名を「はじかみ」ともよばれましたが、生姜が中国の呉国から伝来すると、生姜が「くれ(呉)のはじかみ」、山椒は「なるのはじかみ」とよんで区別されるようになりました。中国最古の薬物書、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に蜀椒の名で下品(げぼん)の一つとして収録されているほど大昔から薬として重宝されてきました。
日本人はこの日本最古の香辛料を長い年月をかけ、葉、花、実、幹、樹皮に至るまで、全てを利用する術を身につけてきました。3月頃から出回る山椒の新芽、木の芽は焼き物や煮魚に添え、味噌と混ぜて木の芽味噌に、4〜5月に咲く黄色の花は醤油で煮て酒の肴やご飯のおかずに、6月の未の小粒でもピリリと辛い未熟な青い実山椒は茄であく抜きした後、塩や醤油に漬けて保存します。また秋になると山椒の実が熟してはじけ、黒い実(実は硬くて食べることができない)をのぞかせますが、この実を包んでいる外皮が最も香り高く、この皮を細かくしたのが粉山椒で、蒲焼きにふりかけたり七味唐辛子に用いられます。さらに、山椒の木はとても硬いのですりこぎや杖として利用されます。
山椒の辛味成分は分子内に4つの二重結合を含むアミド化合物、サンショール(sanshool)であり、唐辛子や胡椒の辛味成分と同じ種類です。青山椒の実を噛むとただ辛いだけではなく舌がピリピリと痺れますが、これはサンショールに麻痺(局所麻酔)作用があるためです。中国漢方では、この成分が胃腸を刺激し、機能を亢進させるため様々な処方薬に使われてきました。すがすがしい香りの成分はシトラネロールです。中国の混合スパイス花椒塩に利用されている花椒は別種のZ.
bungeanum です。漢方処方薬でもあり、よく鎮痛鎮痙薬、駆虫薬とみなされる処方に配合されています。
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