薬草園便り

1999年5月〜2003年3月 (文・堀田 清 薬用植物園 園長(当時)) 


2003年3月 <再度、北方系生態観察園>

 薬草園便り1, 2月号に引き続き薬学部附属薬用植物園に関わった7年間の総括についてお話をさせていただきます。今月は薬草園園長の任期内の最後の薬草園便りになります。1, 2月号では北方系生態観察園についての「売り」になる部分だけについてお話させていただきましたが、今後将来的に来園者数が増加し続けた場合に色々な問題が生じる可能性があります。その事についてお話します。
1)保安林の管理
 北方系生態観察園を利用した色々なイベントが考えられるが、そのためには園内の状態を最低でも現状維持する必要があります。一年を通して保安林内を注意深く散策してみて分かることですが、常時、枯れ枝が遊歩道の上に落ちてきたりドングリ(ミズナラ)が遊歩道に芽吹いていたりするので、最低限のメンテナンスを恒常的に行う必要があります。また、里山的な位置づけで利用するのならば、北方系生態観察園内の植生をもとに戻すために、クマイザサなどのササ類を最低3年間駆除し続けなければなりません。
2)保安林を一般の人たちに開放した時に貴重な植物などが本当に守られるか?
 『北方系生態植物園』を一般の人たちに開放すると、来園する人たち全てが良識をもった人たちとは限らないので、盗掘などで貴重な個体数が減る可能性が大いにあります。ではどのように防ぐのか?
 現状では、以前お話した通り、ほとんどマナーの良い人たちばかりであるので、盗掘の被害は皆無です。
3)一般の人たちに保安林を開放した時の安全管理
 小学生の遠足からかなり年配の方たちまで幅広い年齢の方が来園していることを考慮すると、一般の人たちに北方系生態観察園を一般の人たちに開放した際に、保安林内で転んでケガをしたり、マムシなどのヘビに咬まれたりすることも想定されるので、安全確保やいざという時のための保険なども必要になる可能性もあります。
4)人材の確保
 1)〜3)を遂行するためには、約153,000m2におよぶ広大な北方系生態観察園内のメンテナンスをするためにはどうしても、色々な種類の植物の植生、栽培まで幅広い知識を持つ人をどうしても確保し、また同時にそれらの豊富な知識を受けついでいく人を育てる必要があります。
 付け加えさせてもらいますと、この4年間でようやくスタートラインについたのが現状であることは以前の薬草園便りでお話した通りでありますが、仮にここで全てをやめてしまった場合、沢地についてはオニシモツケやエゾニュウなどの繁殖力旺盛で背の高い植物、その他の場所については他の植物を駆逐してしまうオオアワダチソウやクマイザザばかりの劣悪な植生の北方系生態観察園に2〜3年で戻ってしまうことでしょう。私個人的には北方系生態観察園が益々発展して、北海道医療大学の誇ることのできるアイテムの一つになってもらいたいと心から願うばかりです。
 以上で北海道医療大学附属薬用植物園園長として任期最後の薬草園便りとさせていただきます。次期園長について2月下旬の時点ではまだ決まっていないようですが、皆さんがこの薬草園便りを読まれるころには薬学部教授会にて決定されているはずです。私の在任4年間で何とか全ての土台作りが出来たと思っておりますので、次期園長が誰であってもこれまで以上の北方系生態観察園、薬用植物園になっていくと思います。学内の皆さまのこれまで以上のご愛顧とご支援、よろしくお願い申し上げます。なお、薬用植物園のホームページとサイト内の『maruho健康ランド』については、新しい園長が決まり次第残念ですが閉鎖させていただきます。4年前園長就任の命があった時に私と私のスタッフが大学のためになればと思い、北方系生態観察園が完成する以前の3年間で個人的に集めた写真などを使って無理無理作ったもので、とても満足いく出来ではありません。いつも更新しなければと思っていたのですが、データの半分しか入力できず、いつも自己嫌悪になっている代物です。薬用植物園のホームページについても新しい園長がきっと私以上のすばらしいホームページを立ち上げてくれるはずです。こちらの方も大いに期待していて下さい。私のホームページは残りのデータを加え、全く別のデータベースサイトとしていつの日かまたどこかに『新maruho健康ランド』として立ち上げるつもりですので合わせて期待していて下さい。 
 粗末なホームページにもかかわらず多くの方のアクセスがあり、涙が出る程感謝しております。ホームページを利用していた方に厚く御礼申し上げます。また1月になって、学内の色々な方から心温まる励ましの言葉をいただきました。本紙面をお借りして感謝申し上げます。
 雪解けのころから私は北方系生態観察園にかなりの頻度で出没する予定です(三脚とカメラをかついでいますからすぐ分かると思います)。将来、北方系生態観察園内の写真集でも出版できれば・・・・などと思いつきましたので・・・・。顔が大きく一見すると怖い顔の45歳の心優しいオヤジです(^_^)。一目で「コイツだ」と分かると思います。北方系生態観察園内の野草については何がどこにいるのか全て頭の中に入っていますので気軽に声でもかけて下さい。おもしろい話がいっぱい飛び出すはずです。
 それでは北方系生態観察園内、あるいは機会があればこの紙面上でまたお目にかかりましょう。
 皆さまの益々のご健康とご発展を祈念して・・・。
 ありがとうございました。

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2003年2月 <薬学部附属薬用植物園>

 薬草園便り1月号に引き続き薬学部附属薬用植物園に関わった7年間の総括についてお話をさせていただきます。今月は薬草園内の薬用植物たちを中心にお話させていただきます。
 先ず、約150種類程ある薬草園内の標本園の薬用植物たちの中で最も重要なものとして位置づけされなければならないのは以下に述べる8種類です。
1. ムラサキ(紫根): 絶滅危惧種 (レッドデータ) に指定されている日本産のムラサキ(現在武田製薬の薬草園で精力的に増やすことが行われている。)。本学の薬用植物園のムラサキは貴重な純粋な日本産のムラサキである。
2. ゲンチアナ: ヨーロッパ産でリンドウ科の薬用植物。代表的な北方系の薬用植物。
3. ウラルカンゾウ(甘草):神農本草経に上品として収録されている代表的な北方系薬用植物の一つ。醤油の味付け、漢方薬などに頻用される重要な北方系薬用植物。中国からの輸入に頼っていたが、中国国内での自生地の激減、中国国内での需要増加のため中国からの輸入が困難。本薬草園内に栽培されているウラルカンゾウは全国的にみても高品質であることが分かっている。
4. ミシマサイコ(柴胡):神農本草経に上品として収録されている代表的な北方系薬用植物の一つ。やはり漢方薬などに頻用される重要な薬用植物。
5. マオウ(麻黄):やはり漢方薬などに頻用される重要な北方系薬用植物。鎮咳薬として知られているエフェドリンを含有している。中国からの輸入でまかなっていたが、ウラルカンゾウと同じ理由で近い将来輸入できなくなる薬用植物。
6. モッコウ(木香):神農本草経に上品として収録されている代表的な北方系薬用植物の一つ。
7. オタネニンジン(人参):神農本草経に上品として収録されている代表的な北方系薬用植物の一つ。皆さんご存知の朝鮮人参のこと。栽培園内のニンジンは連作障害でこのままではあと2〜3年で全滅する。4年前に北方系生態観察園内の7カ所に播種したが、昨年それらのうちの1ヶ所で発芽、3枚の葉が出た。朝鮮人参の野生化に挑戦中。 
8. ホッカイトウキ(当帰):北方系の重要生薬で北海道産生薬でもあるホッカイトウキ(茎が薄緑色のもので薬用成分の含量が高くさらに収量が多い、ヤマトトウキの茎は薄赤紫色)。昨年秋、道内に自生している野生のトウキ(当帰)属4系統[ミヤマトウキ(定山渓、八剣山)、トカチトウキ(太平洋沿岸系統)、ホソバトウキ(夕張など中央分水嶺系統)、トウキ(積丹、雄冬など日本海側系統)]の種子を集めた。北方系生態観察園内の笹を駆除して、播種し系統保存を行う。トウキ属の自生環境は非常に限られており(例えば、襟裳岬の先にある黄金道路の切り立ったガケの中腹のようなところしか自生できない)、その自生環境はガケ崩れ防止の工事のためどんどん減少しており、北海道に自生するトウキ属の多くが向こう5年間の間に激減するであろうといわれている。 

 4年前、私が園長になった時には上記した重要な薬用植物8種類を含め、標本園内の植物たちはほとんど消滅の危機に瀕していました。具体的な原因は以下の3つが考えられ、この危機的状況を改善するために可及的速やかになんらかの行動をおこす必要がありました。
a) 長年にわたるバーク堆肥の大量かつ長期の使用における栽培土壌の劣化(通気性が良く水はけの良い、全く保水能力のない土壌になってしまっている)。
b) 20年以上植え替えをした形跡がないことから連作障害を起こしている。
c) 消滅した植物の種子、苗を再確保するための他の薬用植物園、植物園等との交流がなかった。
 そこで、全国的に評価が高く色々な人脈を持ち、薬用植物に限らず植物全般に幅広く豊富な知識と栽培技術を持つ人を招いて、私自身と宮本氏(薬草園の担当者)の2人が植物に関して猛勉強できる環境を作ることを真っ先にしなければいけないことでした。この件に関しては、関係各位のおかげで北大薬学部附属薬用植物園を30年以上にわたって担当されていた吉田尚利氏を本学に招へいすることができ、多くの問題点を解決できそうなメドがたちました。また c) に関しては、吉田氏の個人的人脈だけでは限界があると思われたので、3年計画で日本植物園協会への入会を目指しました(この協会に入会すると世界中の植物園から無料で色々な植物の種子を入手することが可能になる)。但し、入会条件(植物の種類、社会的貢献度)はかなり厳しく、植物の種類だけに関しても薬用植物園、温室内の植物数だけではとても条件を満たすことができませんでした。入会条件を満たすために、どうしても北方系生態観察園内の木本類、草本類の植物を薬用植物園内の薬用植物とセットにしなければならなかったのです。先月号でも述べさせていただきましたが、北方系生態観察園内の詳しい植物調査と整備は、日本植物園協会に入会するためにもどうしても行わなければならないことだったのです。
 以下に私が薬用植物園の園長に就任してからの本学薬草園への来園者件数と人数の推移を示しました。( )内の人数は学外からの来園者数です。明らかに北方系生態観察園の完成時を境に来園者数が増加しています。昨年の薬草園便り12月号にも述べさせていただきましたように、学外からの来園者の中には野草等に関してプロ顔負けの知識を持った方がリピーターとして来園するようになりました。こちらが知ったかぶりをするとバカにされてしまいますので、知らない事は教えていただくという気持ちでおつき合いさせていただいています。
 1999年(平成11年):11件  506名(424名)
 2000年(平成12年):16件  565名(401名)
 2001年(平成13年):26件  934名(794名)[北方系生態観察園完成]
 2002年(平成14年):51件 1547名(1155名)
 
 以上、薬用植物園の園長としてのこの4年間、危機的状況であった薬用植物園内の植物たちの元気を取り戻すために具体的な行動を起こすことができたと思っています。但し、危機的状況は完全に去ったわけではなく、植物たちが完全に元気になるためには現状のまま推移しても今後最低4年程度はかかるものと考えられます。以前にも述べさせていただきましたように、全てはようやくスタートラインに立ったといのが現状であります。日本植物園協会の4部会からも高く注目されている事を考慮すると、大学に隣接する北方系生態観察園は特に、本学の大きな特徴になる可能性を秘めています。
 全国的に国公私立を問わず、薬学部の附属施設である薬用植物園が軽視されている中で、薬学部、大学事務局、法人事務局など多方面からの多大なサポートがなければやってこられなかった事を強調させていただきます。
 また西部三省名誉教授、故縣名誉薬用植物園園長をはじめ開園当時のご苦労があった基礎の上に今日があることを重々承知の上であえて薬用植物園の現状の問題点を指摘させていただきました。ご無礼の談、あったかと思いますがお許しいただけると幸いです。政府予算における医療関係予算の減少、少子化による受験生の減少、薬科大学新設ラッシュ、薬学部6年制など薬学部にとって近い将来相当厳しい状況になることが予想される中で、北海道医療大学が他大学にはない特徴の一つになるはずだという信念でやってきました。
 
 なお、植物の知識に関して全くの素人だった私が色々な知識を身に付けられるようになったのも、一重に重責ある薬用植物園園長にさせていただいたことに他なりません。本学薬学部の教授会メンバーに感謝いたします。
 本稿の最後に、心から本学薬用植物園、北方系生態観察園のさらなる発展を祈念するものであります。機会があれば、これらのイベントにぜひ参加させていただき、本学発展の一助になれる事を願って薬学部附属薬用植物園園長としての4年間のまとめとさせていただきます。

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2003年1月 <北方系生態観察園&北海道医療大学薬学部附属薬用植物園>

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。今年も薬用植物園ならびに北方系生態観察園をよろしくお願いいたします。おモチやお節料理を食べ過ぎたり、お酒などもちょっとだけ飲みすぎたりした方もいらっしゃるのではないでしょうか。さて、私事で恐縮なのですが、薬用植物園の園長の任期も今年度3月までとなってきました。2期4年間にわたって園長を努めさせていただきました。来年度については未定でありますが、とにかくこの4年間、本学の薬用植物園、北方系生態観察園が対外的に高い評価を得るために全力をつくしてきました。残り3回の薬草園便りの紙面をお借りして園長在任期間を含めた合計6年間の総括をさせていただきます。
 はじめに
 北海道医療大学はこの薬草園に隣接している約153,000m2におよぶ広大な山林を所有していることをご存知の方はあまりいらっしゃらなかったのではないでしょうか。しかしながら、山林全体が保安林に指定されているために開学以来全く手付かず状態のままでした。平成9年度から北海道医療大学の自己点検評価「重点課題」の1つとして、本学が所有している広大な未利用地(保安林)を活用するプロジェクトへの具体化に向け、裏山全体の植物調査を初代薬草園園長であり名誉薬用植物園園長である故縣功先生と共に行いました。初年度の平成9年は4月から年8月まで計7回、裏山の地図を用い植物の開花期、存在場所、群落の形成状況(写真付き)などが一目で分かるようにした報告書、『北方生態植物園実施調査報告』を作成しました。残念ながら植物調査初年度は約 153,000m2の保安林全体には道らしいものが全く無く、笹藪状態で、植物調査を行う際には、薮こぎしながら進まなければならないため、1回の調査を行うだけでも4時間程度必要であり、年間を通して十分な調査を行うことができませんでした。平成10年になり、保安林内の「大沢」西側の尾根への植林事業とだき合わせで保安林内に散策路(遊歩道)を作る事が許され、平成11年から段階的に工事が行われ、平成13年6月に保安林内に総延長2Km に及ぶウッドチップを敷きつめた散策路が完成しました。この散策路の概要は次に述べることとして、平成11年6月からは工事の進行とともに約 153,000m2に及ぶ保安林全体の植物調査がそれまでとは比較にならない程容易になり、平成9年には年間7回だった調査回数が平成11年からは雪解けの4月から11月の雪が積もるまでほとんど毎日植物調査を行うことが可能になりました。

 北方系生態観察園内の自然環境と散策路の概要
 散策路の概要は下図に示されている通りです。保安林内のほぼ中央に「大沢」がありその下流には農業用水に利用されていたと思われるため池があり、「大沢」に沿って湿地帯を形成されています。この「大沢」を中央に挟んで、図の左側を「西側の尾根」、右側を「東側の尾根」と呼んでいます。植物調査を行っているうちに田舎といえどもそう簡単に見ることのできなくなったエゾサンショウウオ、シオカラトンボ、オニヤンマ、エゾハルゼミ、アブラゼミ、クワガタ類、アゲハ、キアゲハ、カラスアゲハなども多数生息していることも分かってきました。このことは保安林の周辺が田畑で囲まれているにもかかわらず、田畑で用いられる殺虫剤や除草剤などの農薬の影響を全く受けてないことを意味しています。この理由は保安林全体が動植物にとって特異で恵まれた自然環境にあることに起因しているのです。すなわち、保安林全体が周囲の田畑よりも高いところに位置しているうえに、湿地帯を形成している「大沢」一帯の水分の供給が年間を通して、冬の雪解け水と雨水その他一部の覆流水だけに依存しているので、周囲からの農薬の影響を全く受けないということなのです。
      
 植物の植生に関して言えば、「大沢」を挟んで東西で植生は驚くほど異なり、「東側の 尾根」一帯の方が「西側の尾根」よりもかなり腐葉土に富んだ肥沃な土壌であることが分かりました。また、「大沢」については「東側の尾根」一帯よりも肥沃な土壌であることも分かってきました。すなわち東西の両斜面に自生している広葉樹がたくさんの枯れ葉を堆積させるうえに、初夏から初秋にかけては樹齢の高い広葉樹の葉が太陽の光を遮断し水分の蒸散を防ぐので、「大沢」一帯の湿地帯は年間を通して冷涼で適度な湿度が保たれるのです。事実、植物調査で見つかった貴重な植物の多くは、この「大沢」から「東側の尾根」にいたる一帯に自生しています。
 さて、散策路の入口は2箇所で、地図からも分かるようにいずれも薬用植物園の裏手になります。どちらの入口から入っても「大沢」にかかっている2つの橋を使って東西の両尾根へ行くことができます。西側の尾根は等高線からも分かりますように、なだらかな丘陵地帯になっており植林事業が行われています。残念ながら図の西側の尾根沿いの直線ルートだけは植林事業の作業道路として利用されているためジャリ道になっています。「大沢」から西側の尾根にかけてはそれ程多くの植物を見つけることができませんでした。今回の調査で見つけることのできた重要度の高い植物の多くは「大沢」から「東側の尾根」にかけてであり、春は4月の中旬から秋は10月まで色々な植物の花や実を楽しむことができます。

 ラン科の植物オニノヤガラ(天麻)の群生地
 本学の北方系生態観察園内に自生している貴重な植物の中で最も特筆しなければならないのは、4年前に、ラン科植物のオニノヤガラ(鬼の矢柄)Gastrodia elata Blume を「大沢」の3ケ所以上30株程の群生地を確認できたことです。その後毎年調査を行い、オニノヤガラの自生地の全体像をほぼ特定できました。この間、30株程のオニノヤガラを毎年確認しています(オニノヤガラの写真は附属薬用植物園のホームページ内の『園長オススメの旬の植物』内に掲載されています)。オニノヤガラの根茎を調製乾燥させたものは天麻(てんま)と呼ばれ、鎮痛、鎮痙作用などがあり、頭痛、めまい、ヒステリー、リウマチなどの処方に用いられ、次の日本薬局方の改正で収載されることになっている薬用植物です。中国では天麻は「目虚して頭旋し、虚風内におこれば、天麻にあらざれば除くことあたわず」と言われるほどめまいに一番効くとされていて、中国漢方において各種の処方に配剤される非常に重要な生薬の一つです。またその茎を煎じたものは強壮薬としても用いられる他に、天麻は食用に供することもでき、身体の新陳代謝を良くする「天麻胡桃松子粥ティエンマーフータオスンズォウ(天麻入りくるみ、松の実粥)」、イライラを和らげ、肝機能を高める「天麻炒猪肝ティンマーツァオヅーカン(豚レバーの天麻炒め)」、内臓諸器官の機能を高め、イライラをとる「鯛の天麻煮」などの薬膳料理の重要な食材として用いられています。
 中国ではオニノヤガラは漢方生薬としての重要性から、その栽培技術が確立されていて人工的に広く栽培されていますが、日本では人工的な栽培、育成を行っているところはほとんど無く、日本での栽培研究例は漢方薬メーカーである(株)ツムラの研究所が最近になって始めただけであり、種子からの栽培方法につては日本国内では皆無です。本観察園内でのオニノヤガラにつて4年前から毎年詳しく観察し基礎的データを収集し、昨年夏、ようやくその完熟した種子を得ることに成功し、園内の数ヶ所に播種し日本で初めての種子からの栽培方法を確立するための試みを開始しました。今年度3年がかりでようやく入会できた日本植物園協会の第4部会のメンバーからもこのような試みのできる北方系生態観察園を持つ本学に非常に注目が集まっています。

「東側の尾根」一帯の植物調査
 平成9年に植物調査を開始した時点では、「東側の尾根」一帯は山全体が背の高いクマイザサでおおわれ踏み分け道すらなく、足を踏み入れても笹こぎするのが精一杯で、平成10年の散策路の整備事業が始まるまでは十分な植物調査を行うことができませんでした。しかしながら散策路を利用した植物調査の結果、日本薬局方にも収載されている重要な薬用植物で、ウコギ科植物のトチバニンジン(生薬名;竹節人参)の大群落を発見しました。大群落というよりは山全体がトチバニンジンで一杯であると言った方がおそらく正しい表現と言えます。ざっと数えただけでも450株を越える個体数のトチバニンジンを確認しました。今年もたくさんの種子を山全体に落としており、散策路の整備事業と人為的な笹の駆除によって、森林内の植物たちの天然更新に有害である笹が必然的に駆除され林床に日の光が当たるようになり、植物達の受粉に必要な昆虫達も飛び回れるようになって、本来森林の持っていた植生が次第回復されそれと共にトチバニンジンの個体数が今後さらに増えていくと予想されます。
 トチバニンジンの生育環境は弱光条件下冷涼かつ湿潤であることが要求されます。「大沢」から「東側の尾根」一帯は、太陽の日差しが強くなる5月中旬以降キハダ、ニガキ、ホウノキ、ハリギリ、ミズナラ、シナノキ、シラカバなどの胸高25 cm, 樹高15 m 以上の広葉樹の葉が太陽光を遮るようになり、地表面の温度もそれほど上がらず、水分蒸発も抑えられ、地表面の湿気も適度に保たれていることが分かりました。もちろん、秋になるとこれらの広葉樹はいっせいに落葉するので「大沢」から「東側の尾根」一帯は腐葉土に覆われた肥沃な土壌になっています。
 トチバニンジンの他にもミカン科のキハダ(生薬名;黄柏、健胃薬)、ニガキ科のニガキ(生薬名;苦木、健胃薬)、モクレン科のホウノキ(生薬名;和厚朴、健胃薬)などの日本薬局方に収載されている薬木が多数自生していて、それらいずれもが貴重な標本木として十分に評価に耐えうるものばかりであることを確認しました。現在、自生している日本薬局方収載生薬が文献通りに有効成分が含まれているかどうかを確認する実験を行い生薬学会等で発表し、本学の特徴を色々な場所でアピールしていく予定です。
 
 まとめ
 平成9年度から6年間にわたって行ってきた保安林内での植物調査結果を高木類、現時点で木本類67種類、草本類145種類、合計すると200種類以上の植物の自生が確認されました。特に「大沢」から「東側の尾根」にいたる一帯にはオニノヤガラやトチバニンジンなどの貴重な薬草の群生地や樹齢の高いりっぱなキハダ、ホウノキ、ニガキなどの薬木群が存在していることが分かりました。現在薬用植物園、温室内の植物約1000種類の植物標本リストを作成中であります。
 これまでの植物調査は約 153,000m2の保安林全体のごく一部で行われたに過ぎません。まだまだ未調査の所がたくさん残されています。来年度は昨年9月号の薬草園便りでも述べさせていただいたように、北方系生態観察園内に繁茂しているクマイザサは天然林内の色々植物の天然更新に有害であることが営林署、林務書などの資料から明らかになりました。今後北方系生態観察園内の徹底した植物調査と里山の植物たちの天然更新に有害であるササの駆除を行うことによって、北方系生態観察園内の本来持っている植生の回復をはかると共に、北方系生態観察園が大学の私有地であることを最大限いかし、絶滅危惧種に指定されているような北方系の薬用植物、野草の系統保存を行なっていくつもりです。
 このように大学キャンパスのそばに、貴重な薬草を含め、色々な植物を年間通して毎日でも観察できる広大な森を有する大学は日本でもそれほど多くはありませんし、植物の他に、色々な昆虫や鳥類、リスやタヌキなどの小動物も生息していますので、今後、北方系生態観察園が豊かな自然を丸ごと観察できる里山として学内はもとより学外にも広く利用される可能性を秘めていると考えています。今年度ようやくそのスタートラインに立てたというのが現状です。
 北方系生態観察園内の植物と四季の風景については、北海道医療大学附属薬用植物園のホームページ(アドレス:http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~yakusou/index.html)に掲載しましたので興味をもたれた方はアクセスしていただきたいと思います。
 本稿の最後にあたり、薬用植物園園長4年間を含めたこの6年間、全国的に国公私立を問わず、薬学部の附属施設である薬用植物園が軽視されている現状において、薬学部、大学事務局、法人事務局など多方面からの多大なサポートがなければやってこられなかった事です。深く感謝いたします。6年前に園内の植物調査を行うきっかけを与えていただき、平成13年2月に急逝された縣功名誉薬用植物園園長に深く感謝するとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。さらに6年間にわたる保安林内の植物調査は、多くの学生たちの協力無しにはできなかったことです。散策路の整備されていなかった植物調査初期のころ、一緒に笹こぎをして汗をかき傷だらけ泥だらけになって手伝ってくれた全ての学生達にもこの場をかりて感謝いたします。

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2002年12月 <鍋、再び!>

 今月の薬草園便りは『鍋、再び!』です。『鍋』のお話は一昨年の薬草園便り12月号にも書かせていただきましたが、鍋の季節ですので別バージョンで鍋のお話をさせていただきます。
 先ず初めに「薬膳」のお話から・・・。
 中国では古くから滋養強壮の目的で、また病気の治療効果を高めるために、漢方薬と食材を組み合わせた調理方法がありました。これが薬膳の原形です。不老不死、長寿をめざした中国独特の食文化として今に伝えられています。薬膳には「食療」と「食養」の2つの考え方があります。
 「食療」:病気の治療を目的とする薬膳
 「食養」:病気にならないように未病の状態を保つ(病気の予防を目的とする)薬膳
いずれの考え方でも、薬膳の基本は「食べ物全体に流れる気(生命エネルギー)を体内に取り入れ元気になる。」ということにほかなりません。「-------元気になる。」を医学的な言葉に置き換えるならば「-------免疫力、自然治癒力を高める」ということになるのでしょう。
薬膳の考え方は中国独特の食文化から生まれ発展してきたわけですが、中国の薬膳料理全てが日本人あるいは世界の色々な国の人たちにそのまま当てはまるのでしょうか・・・・?私は「否」だと思います。なぜなら、それぞれの国の食文化だって、食事に利用される野菜、魚、肉などの食材の種類だってそれぞれの国によって大きく異なっているからです。インド人のようにほとんど肉を食べない国だってありますし、新鮮な魚が取れない国だってetc・・・。もちろん中国の薬膳料理を否定するつもりは全くありませんが、「その国々で取れる食材を使った、その国々にあった薬膳料理があるのではないか」というのが最近の私の独自の結論です。もちろんそれが薬膳料理とは呼ばれていない料理も含めてです。
 薬膳の基本が「食べ物全体に流れる気(生命エネルギー)を体内に取り入れ元気になる。」といことであるならば、鍋は日本人にとって独自の薬膳と言えるのではないでしょうか?
 すなわち、春から秋にかけて太陽の日差しをいっぱいに浴び、大地からたくさんの栄養分をもらってすくすくと育った野菜たち・・・。同じようにそれらを食べて成長した動物たちのお肉。海産物だって同じですね。秋にとれる魚貝類はやはり非常に美味しいです。いずれにしても、どんな鍋の食材も春から秋にかけて太陽と大地のめぐみをいっぱいに受けて育ったものばかりです。言い換えるならば秋に収穫される食材の一つ一つが太陽や大地からもらった【生命エネルギー(気)】一杯で、そしてそれらが一同に会する場所が鍋なのです。ということは、鍋料理の【鍋】の中は生命エネルギーが一杯の料理なのでは・・・と言ってしまうと少し飛躍し過ぎでしょうか・・・。さらに、鍋を食べる時には気の合った仲間、家族などいつも楽しい話や笑いがありますから免疫系のNK細胞が活性化されます。お酒さえ飲み過ぎなければとても身体に良いこと請け合いです。これから寒い季節になっていきます。風邪の予防のためにも日ごろからの食生活に気をつけましょう。私の所属している生薬学教室では10月末から週に3回は白菜、大根一杯の鍋を食べています。たぶん、学生も私も今年の冬は風邪にかからないのではないかと思っています。注目していて下さい。
 鍋の食材について表にまとめてみたので何かの参考にしていただけると幸いです。また表の最後にある構造式は一般のカロチノイドと呼ばれているものの代表的な化合物を示してあります。皆さまにお伝えしたいことは一つです。言葉では色々な化合物があるように見えますが、構造的にはどれも同じカテゴリーであり、科学的性質もほとんど同じだということです。

1.だし汁

コンブ  グルタミン酸を多量に含むのでうまみが強い。このうまみは、魚肉のイノシン酸と合わせると、相乗効果によって増大する。体内で甲状腺ホルモンとなり、新陳代謝などの重要な働きをするヨードを100g中200〜1000mgも含んでいます。食物繊維, β-カロチン, K(カリウムイオン)なども豊富。
 食物繊維:動物が消化できない植物細胞壁成分。(ペクチン、リグニン、ヘミセルロース)
シイタケ  生シイタケも干しシイタケもビタミンB1, B2が多く糖質や脂質が効率良くエネルギーに変換されるのをサポートする、その他の食物繊維もかなりの量が含まれます。1回量では生シイタケの方が効率良く摂取することができます。共に制癌物質を含むことも分かっています。干しシイタケの香りは水で戻すと高まり、料理の風味を高めるが、そのうまみ成分グアニル酸はグルタミン酸と合わさると、強い味の相乗作用を示す。干しシイタケにはプロビタミンDであるエルゴステロールが多量に含まれており、天日乾燥すると紫外線作用でビタミンD(骨粗しょう症に良い)に変わります。血中コレステロールを下げるエリタデニンも含まれます。
かつお節
(鰹)
 脂のあまりのっていない春節が、上質とされる。昔から出汁汁とりに欠かせないもので、うまみ成分はイノシン酸などに由来します。不足すると下痢や神経痛、不眠などが起こるナイアシンを豊富に含みます。

2.魚貝類

キチジ
(喜知次)
北海道、東北地方ではキンキン、茨城ではアカジ、東京ではキンキと呼ばれる。白身魚ではあるが、DHA, EPAを比較的多く含む。タウリンに富み、心臓を強化するとともに、心不全、血栓症、動脈硬化を予防する効果があります。
シャケ
(鮭)
 良質のたんぱく質と各種ビタミン類(ナイアシン, ビタミンB1, B2)が多く含まれます。他の白身魚に比べてDHA, EPAなどの不飽和脂肪酸も豊富です。 ビタミンB2 は過酸化脂質の発生を抑えて(活性酸素を除去する)血管の老化を防ぐので動脈硬化の予防にも役立ちます。シャケの身の赤い色素成分はアスタキサンチンと呼ばれ、発ガン過程で活発に働くリン脂質の合成を抑制する効果があるとされているので、ガンの予防に効果があります。食材として選ぶ場合にはエラが鮮やかな朱色で赤身の色が退色していないものを選ぶべきです。
タラ
(鱈)
 代表的な白身魚。たんぱく質を16%も含むのに対して脂肪は0.4%と極端に少ない。タラは身ばかりでなくその肝臓も美味で鍋に入れるとまろやかな味になる。このタラの肝臓にはビタミンA, Dが大量に含まれる他、コレステロールを下げたり、心臓の機能を良くするタウリンや肝臓の解毒機能を助けるグルタチオンも含まれます。
カキ
(牡蠣)
 牛乳に匹敵するミネラルをバランス良く含んだ栄養満点の食材です。ビタミンA, ビタミンB1, B2,葉酸などの重要なビタミン群を多く含む。 鉄それも吸収率の高いヘム鉄の含有量が高くカキの身を8粒食べるだけで一日の必要量の半分が摂取できるのです。ヘム鉄は赤血球のヘモグロビン、筋肉のミオグロビンなどの構成成分で酸素を細胞に運ぶ働きがあるので、鉄欠乏性貧血を予防、改善する効果があります。タウリンも多く含むので血管系の疾病の予防効果があります。その他にも生体にとって重要な微量金属である亜鉛, 銅などもかなり含まれる。このように非常に重要な成分が含まれているので「海のミルク」とも呼ばれているのです。カキのシーズンは秋から始まるのでまさに鍋料理には最適な食材です。ただしカキはとてもいたみやすいので殻つきの生きたものがベストでしょう。
 またカキの殻は牡蠣(ボレイ)と呼ばれ、胃酸過多や不眠などに効く生薬として古くから利用されてきました。
エビ
(海老)
 高たんぱく、低脂肪の食材です。20%前後を占める良質のたんぱく質にはリジン、トリプトファンなど、穀類に不足しているアミノ酸が多く含まれています。海産物に多く含まれているタウリンがやはり多い。殻にはカルシウムが豊富で殻ごと食べることのできるエビはカルシウムの供給源になります。エビの殻の成分はキチン質と呼ばれる食物繊維の一つです。キチン質は腸管内の塩化物イオンを吸着して体外に排出させるため、高血圧の予防効果があります。その他キチン質には免疫力を高める作用があるので癌予防効果があると言われています。エビの赤い色はシャケの色素成分と同じアスタキサンチンですからガン予防にも効果があります。
カニ
(蟹)
 多くの種類があるが、栄養価はさほど変わらず、低脂肪、低コレステロール食品です。カニ特有のうまみはグルタミン酸や遊離アミノ酸などの成分によります。タウリン、キチン質を含みます。
アサリ  縄文時代から活躍した元気の出る食材の一つです。カキと同じようにヘム鉄が豊富ですから貧血に予防効果があります。ビタミン群の中ではビタミンB12が多く含まれますからやはり貧血の予防になります。魚介類に共通に含まれているタウリンも豊富ですし、ミネラル分としてはマグネシウムが多いのが特徴です。マグネシウムには血管壁へのカルシウムの付着を防ぐ効果があるので血栓や動脈硬化の予防に効果があります。

3.肉類

鶏肉  良質のたんぱく質に富んでおり、脂肪酸は不飽和脂肪酸の割合が多い。鉄、マグネシウム, 亜鉛, 銅などのミネラルやビタミンA, ナイアシン, ビタミンB1, B2 多く含みます。手羽元などの骨部分にはコラーゲンが豊富ですから肌のはりとつやを保つ働きがあります。
鶏内臓  鶏モツの煮込み料理に使われる鶏の内臓(レバー, ハツなど)はビタミンの宝庫でことにビタミンAは内臓類の中でも最高です。また、鉄分も多く貧血の予防に役立ちます。亜鉛, 銅, マグネシウムも含まれ、皮膚炎、成長障害を防ぎます。プリン体が多く含まれますので尿酸値の高い人は避けるべきです。
豚肉  バラ肉やロースはエネルギーが多いものの、ヒレやモモは白身魚の鱈よりも低エネルギーです。コレステロールは牛肉より少なく、ビタミンB1は牛肉の10倍。その他ビタミンA , Eも含まれます。脂質は牛肉の7倍のリノール酸を含み、良質なたんぱく質源です。ただ、高温で調理すると発癌物質であるアミノイミダゾアザアレンが多く生じ、大腸癌のリスクが高くなるという報告があるので注意が必要です。

4.野菜類

白菜
(アブラナ科)
 水分が95〜96%ですが、色々な栄養素が微量ながらまんべんなく含まれています。ビタミンC やミネラルであるカルシウム、カリウム、マグネシウムの他にアブラナ科(大根、かぶなど)の辛味成分であるイソチオシアネートなども含まれています。カリウムはナトリウムと拮抗しますから高血圧の予防に効果があります。アリルイソチオシアネートにはがんや動脈硬化を予防するといわれています。白菜をたくさん食べて栄養素を効果的にとるためには、スープ煮、煮込み、炒め物、鍋物の具にするのが良いでしょう。当然ですが食物繊維は豊富に含まれています。
春菊
(キク科)
 キク科の代表的な葉菜で β-カロチン, ビタミンB1, ビタミンB2, 鉄, カルシウム, カリウム, 食物繊維などが含まれていますが、特にβ-カロチンの含量が多いのです。β-カロチンはビタミンAの前駆体として重要であるばかりではなく、生体内で常に生成している活性酸素をトラップする作用があるので、細胞の老化や癌化に歯止めをかけます。葉菜の中ではカルシウムの含量が多く、牛乳と同じくらい含まれているので骨粗しょう症などの予防に効果的な食材の一つです。塩(NaCl)かげん控えめな鍋にすると水に溶けやすい成分(例えばビタミンB1, ビタミンB2, カリウム など)でも煮汁を食べることによって丸ごと摂取できます。さらに春菊に特有の香りの成分はα−ピネン, ペリルアルデヒドと呼ばれる比較的分子量の小さな揮発性の物質で、胃腸の働きを促進する作用が有り、胃のもたれを解消し、胃酸過多による不快感を取り除いてくれます。また緑黄色野菜の代表的な葉菜であるホウレンソウ(アカザ科)に比べ、アクの成分であるシュウ酸含有量がホウレンソウの4%ほどしかなく、そのまま食べられるのも大きなメリットの一つです。
キャベツ
(アブラナ科)
 代表的なアブラナ科の葉菜である生キャベツにはキャベジン(ビタミンU)が大量に含まれる他、キャベジンと同じ作用を持っている グルタミン酸が大量に含まれるため、胃炎や胃潰瘍の予防に大変効果的であるとされています。また、ビタミン C やカルシウムも比較的多く含まれており、ビタミン C は春菊の2倍、カルシウムはグリーンアスパラの2倍に及びます。美肌効果や、イライラを解消する働きがありそうです。その他にインドール化合物やイソチオシアナートなどが含まれており、これらはビタミン C とともにガン予防に大きな効果があります。食物繊維も当然豊富です。
ネギ
(ユリ科)
 ネギには大きく分けて白い部分の多い「根深ネギ」と全体が緑色の「葉ネギ」と呼ばれる2種類がありそれぞれ少しずつ含まれているものの割合が異なります。
「葉ネギ」:緑の葉にはカロチンやビタミンCが多く、カルシウムやカリウムなどのミネラル分も豊富に含まれており、緑色の濃い葉ネギに含まれるカロチンの量はグリーンアスパラを上回っていますし、ビタミンCの量もアボガドを上回っているのです。
 「根深ネギ」:特有の刺激性の芳香のもとは硫化アリルという硫黄原子を含む低分子有機化合物のせいなのですが、この硫化アリルという化合物には殺菌作用や抗菌作用、身体を温める作用があるのでかぜの予防に非常に適しています。また血液をサラサラにする作用もあるので、血栓の予防効果も期待できます。さらに硫化アリルは消化液の分泌を促し、食欲を増進させ、肉や魚の生ぐささを消す作用もある他、体内でビタミンB1と結合してその吸収を良くするのでエネルギー代謝をスムーズにするので疲労回復にも役立ちます。
セリ
(セリ科)
 春の七草の一つで、古代からリウマチ、神経痛、血圧降下に薬効があるとされてきました。カルシウム, カロチン, ビタミンC が多く、増血を促す葉酸, 鉄なども含まれます。これらの成分の生理作用に関しては上記に記載してある通りです。
ダイコン
(アブラナ科)
 大根をすりおろすと組織が分解され、酵素の働きによって辛味を生じます。この辛味成分は山葵のそれに似ていますが、その化学構造が微妙に異なるため、舌にピリピリくる独自の辛味となります。根部に消化酵素アミラーゼ(ジアスターゼ)とビタミンCが多量に含まれる他、葉にはカロチンがいっぱいです。根部を食する時はアミラーゼ(ジアスターゼ)とビタミンCが熱に弱いのでダイコンおろしなどの生食がよいのです。
ニンジン
(セリ科)
 代表的な有用成分は、なんと言ってもβ-カロチンです。β-カロチンは動物体内に取り込まれるとビタミンAに変化するのでプロビタミンAとも呼ばれ野菜の中でずば抜けて高い量なのです。ニンジン1/2本(80g)で大人一人の一日あたりの所要量の1.5倍に達する量のβ-カロチンが含まれているのです。また「ニンジン」にはβ-カロチンの他にα-カロチンという物質も含まれており、数ある野菜の中の「カロチン大将軍」と言っても良いでしょう。カロチン類には生体内で発生するフリーラジカルをトラップする働きがあるので、癌予防に効果があります。その他にも視覚、聴覚、生殖機能維持、免疫機能を高める作用も報告されています。カロチンは水には溶けず、油に溶けやすい性質がある上に比較的熱に対して安定であるので、油を使って調理する方が効果的にカロチン類を摂取できます。その他に食物繊維ペクチンも含有されており、余分な中性脂肪を体外に排出する働きがありますから、血管を正常な状態に保ち、高血圧、動脈硬化の予防にも役立ちます。ニンジンにはビタミンC失活させるアスコルビナーゼという酵素が含まれているので生食は避けるべきです。もっとも鍋に使う時には熱をかけますから、この心配は全く必要ありません。

5.その他の具

豆腐  マメ科大豆の種子から作られる豆腐は食物繊維以外の大豆の効用をほとんど受け継ぎ、しかも大豆よりも消化吸収が良い機能性食品です。グリシニンというタンパク質が含まれており、コレステロール値を低下させることが知られています。ポリフェノールの1つであるイソフラボンという物質も含まれており、これが女性ホルモン様の働きをして、更年期障害や骨粗しょう症の予防にも役立つ他、最近では、このイソフラボンと大豆サポニンという物質が大腸癌、乳癌、前立腺癌などの発生率を低下させているという報告もあります。ビタミン E には抗酸化作用もありますし、大豆レシチンが血液中のコレステロールが固まるのを防いで血液をサラサラにし、脳の働きを活発にする働きもあります。
 その他鍋に使われる厚揚げや味噌なども大豆製品の一種であり、効能はほとんど豆腐と同じと考えて良いです。
糸こんにゃく  体内で消化されない食物繊維の一種、グルコマンナンがほとんどの成分です。その他サトイモ科の植物から作られるのでカリウムが豊富に含まれています。グルコマンナンはほとんど消化吸収されないため、腸の働きを活発にし、便をやわらげて排便を促します。同時に老廃物や癌細胞などを作り出す毒素を吸収しながら腸内を移動して、最後はそのまま体外に排泄してくれるので、大腸癌の予防に有効です。またグルコマンナンは、腸からのコレステロールと糖質の吸収を抑えるため、コレステロール値や血糖値の急激な上昇を防ぎますし、腸内で膨張しながらゆっくり移動していくために早く満腹感が得られるので、食欲をセーブして肥満の予防にも効果があります。

 最後になってしまいましたが、今年5月、本学の薬用植物園及び生態観察園(遊歩道の事です)が日本植物園協会にようやく入会が認められました。日本植物園協会は世界植物園協会という大きな組織の下部団体でアジア地区の一支部になっています。日本植物園協会への入会条件はけっこう厳しく、3年前からの懸案事項でした。入会を認められたことによって世界中の植物園協会に加入している植物園から無料で色々な植物の種子を得ることができるようになりました。もちろん当薬用植物園も、もし世界中の植物園から種子の要請があった場合には同じように対応する義務が生じていますので、レッドデータになっている、あるいは将来絶滅しそうな北方系の野草、薬草の系統保存にはこれまで以上に頑張らなければと思っています。
 ところで、今年(平成14年)4月から平成14年10月末までの薬用植物園、北方系生態観察園への来園者総数は1542名でした。4年前、園長に就任した時には500名でしたから、来園者数はおよそ3倍以上になりました。実数には表せませんが、個人的に散策をしたり、薬草園内の植物の写真をとったりするリピーターもいらっしゃって、学外(札幌市、江別市、千歳市、石狩市、当別町など)からは延べ1300名くらいの方が訪れました。総来園者数の内84%が学外からということになります。すでに来年の予約も数件はいっているので、来年度は2000名を越える来園者が予想されます。学外からの来園者の中には北大の植物園などで定期的に勉強しながら野草調査など幅広く活動していて野草に関する知識も相当レベルが高くプロ顔負けの知識を持っている札幌市の「野の花の会」、「花散歩の会」、北広島市の「森の倶楽部」、「北海道自然観察協議会」などのメンバーも常連になっていただき、高い評価をいただいております。本学の薬草園、生態観察園の対外的な知名度は確実にアップしているものと思われます。また、3年前から北方系生態観察園の整備を担当して下さっている吉田尚利氏の幅広いご人脈や、やはり3年前に私が個人的に作ったホームページから道内のみならず全国の色々な方からのアクセスがあり、今では熊本大学、富山医科薬科大学、厚生省筑波栽培試験場、厚生省種子島栽培試験場、摂南大学、米国ロードアイランド大学などの色々な大学、施設の薬草園、植物園関係者との交流も始まりました。さらに、当別町の中小屋中学校や東裏小学校の生徒の研修や遠足などにも使っていただけるようになった他、3年前から始まった当別町の教育委員会とのジョイントでの生涯学習、「ゆとりっちセミナー」も今年は子供からお年寄りまで70名以上(3年前は25名)の人たちが参加していただけるようになり、地元当別町の人たちとの交流もかなり深まってきました。
 本学の薬用植物園ならびに北方系生態観察園もようやく軌道に乗りかけ初めてきたというのが現状であります。対外的に広く認知してもらうにはこれまで以上の努力が必要です。今後も大学の皆さまに色々なアイデアを出していただき、薬用植物園と北方系生態観察園の整備をさらにしっかりして、色々な方に利用される施設にしていきたいと考えております。電話、メール等(薬草園のホームページからでもアクセスできます)での学内の方からのご意見、ご要望などお待ちしております。
 本当の最後に、今年も薬用植物園、北方系生態観察園をご支援いただきありがとうございました。新しい年が皆さまにとって幸多いことを祈念して平成14年最後の薬草園便りとさせていただきます。
 良いお年をお迎え下さいませ・・・

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2002年11月 <七味唐辛子のお話 その2>

 前回に引き続き、七味唐辛子の2回目のお話です。

 2−3.その他の七味唐辛子屋さん
 さて皆さん、前回の薬草園便りでお話しましたように、日本で最も古い七味唐辛子屋さんは、東京にある『やげん堀』の七味唐辛子であることがお分かりいただけたことでしょう。ところで、日本には『やげん堀』の他に江戸時代から続いている2軒の七味唐辛子屋さんがあることを、そしてその2軒の七味唐辛子屋さんが使っている七種類の素材も『やげん堀』のそれとは少しずつ違っていることを知っていますか。ここでは2軒の唐辛子屋さんの紹介とブレンドされている素材の種類が違っている理由について考えてみます。
 江戸庶民の間で人気になった『やげん堀』の七味唐辛子はしだいに東京(江戸)から関西(京都、大阪)へと広がり、やがて長野の善光寺と京都の清水寺の参道に、その土地の食文化に適した独自の七味唐辛子を売る店が現れました。それが『八幡屋礒五郎(やはたやいそごろう)』(長野)と『七味家(しちみや)本舗』(京都)の2軒の七味唐辛子屋さんです。
 『八幡屋礒五郎』の七味唐辛子に使われている七種類の薬味は「赤唐辛子」、「生姜」、「陳皮」、「山椒」、「黒胡麻」、「青紫蘇」、「麻の実」です。また、『七味家』が使っている薬味は「赤唐辛子」、「山椒」、「白胡麻」、「黒胡麻」、「青紫蘇」、「青海苔」、「麻の実」の七種類です。
 『やげん堀』、『八幡屋礒五郎』、『七味家』で使われている七味の薬味の違いを一目で分かるように表にまとめてみました(表1)。『八幡屋礒五郎』、『七味家』とも、最も古い歴史がある『やげん堀』の七味の素材とちょっとだけ違うことが分かります。その違いとはいったい何でしょう?江戸、長野そして京都へと西に向かうにしたがって、辛味よりも香りを重視したブレンドになっているように思われます。東の江戸と西の京都で比べてみましょう。『やげん堀』のブレンドでは七種類の薬味のうち二つが「赤唐辛子」で、実際に使われている素材は七種類ではなく六種類です。また、ウンシュウミカンの皮を乾燥した「陳皮」には苦味もあります。一方、『七味屋』の七味唐辛子には香りの良い「白胡麻」、「黒胡麻」、「青紫蘇」、「青海苔」の四種類の薬味がブレンドされています。また苦味のある「陳皮」は使われていません。ちなみに、京都『七味家』の七味唐辛子もブレンドされている七種類の薬味のうち二つが「胡麻」(白と黒)ですから、実際には、江戸『やげん堀』と同じように六種類の薬味で作られていることになります。

表1. 日本三大七味唐辛子の七味
やげん堀
(江戸)
赤唐辛子(生) 赤唐辛子(焙煎) 粉山椒 黒胡麻 陳皮 けしの実 麻の実
八幡屋磯五郎
(長野)
赤唐辛子(乾燥) 生姜 粉山椒 黒胡麻 陳皮 青紫蘇 麻の実
七味屋本舗
(京都)
赤唐辛子(乾燥) 青海苔 粉山椒 黒胡麻 白胡麻 紫蘇 麻の実

 これまでのお話から、"七味唐辛子" と一口に言っても 日本には300年以上の時を刻んだ3種類の七味唐辛子があるという事がお分かりいただけたのではないかと思います。
 さて、それでは次に何故、日本三大七味と言われる『やげん堀』、『八幡屋礒五郎』、『七味家』でブレンドされている素材に違いがあるのかを考えてみましょう。
 その答えはそう簡単ではなさそうですが、関東と関西の食文化の違いに一番の理由がありそうです。それは「蕎麦(そば)」と「うどん」の文化と置き換えることができます。豊かになった現代でこそ、私たちは七味唐辛子を使って色々な料理を味わうことができます。しかしながら、江戸時代当時、関東では「蕎麦(そば)」、関西では「うどん」が最も庶民的な食べ物でした。そして、蕎麦つゆが濃い口の醤油味であるのに対して、うどんのそれは昆布やかつおの風味を大切にした薄口の醤油味であることが両食文化の違いを如実に表しています。『やげん堀』の七味唐辛子は濃い口の醤油味に合うように辛味を強調したブレンドに対して、『七味家』の七味唐辛子は風味を大切にした薄口の醤油味に合うように香りの良い薬味が多く使われているのです。
 このように、 関東の【"濃い味" 文化】と関西の【"薄味" 文化】が七味唐辛子に使われる薬味のアレンジを変えたと結論することができます。
 狭い日本だけでもそれぞれ地方の食文化にあった3種類(現在ではもっと色々発売されていますがそのことについてはまた後日に・・・)「七味唐辛子」が存在していることを考慮して世界中の香辛料を眺めて見るときやはりそこには世界中のそれぞれの地方の食文化にあったブレンドの仕方があるのでしょう。「食と健康」といっても本当に奥の深いものだとあらためて考えさせられます。

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2002年10月 <七味唐辛子のお話 その1>

 西洋の「スパイス」という言葉に対して日本では「薬味」という言葉が一番良く似合う香辛料。何が違うのでしょうか?例えば、西洋では「ジンジャー」と呼ばれるものは日本では「生姜」ですね。そうなんです、西洋では香辛料は乾燥した(ドライ)ものを混合(ミックス)して用いるのが一般的ですが、日本では単品で生のものを使うのが一般的です。その理由はとても面白いのですが、とても長いお話になってしまうので、機会があればどこかでお話することとして、日本で古くから使われているドライで混合スパイスで、日本が世界に誇ることのできる七味唐辛子のお話を何回に分けてお話させていただきます。

 1.初めに
 「赤唐辛子(あかとうがらし)」、「陳皮(ちんぴ)」、「山椒(さんしょう)」、「胡麻(ごま)」、「芥子(けし)の実」、「麻(あさ)の実」、「青紫蘇(あおじそ)」、「生姜(しょうが)」、「青海苔(あおのり)」と聞いて、すぐにこれらが日本が世界に誇る七味唐辛子の中身だと言い当てることのできる人が何人いるでしょうか? 七味唐辛子は日本の食文化史上稀に見るドライスパイス(香辛料)を用いた混合スパイスです。ところで、「ひとつ、ふたつ、みっつ・・・・・・・、アレッ? 七味唐辛子は七種類の薬味のはずなのに、九種類もあるぞ・・・」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
 日本人の食生活に欠かかすことのできない七味唐辛子、私たちはそのことについて知っているようで実はあまり分かっていないような気がします。そこで今回は、七味唐辛子のルーツ、七つの薬味のブレンドの仕方、効能や食材との関わりなどについてお話をしていきたいと思います。

2.七味唐辛子のルーツ

2−1.トウガラシの歴史
 先ず、七味唐辛子を語る前に中に入っている七種類の薬味のうち辛味成分であり、かつ七味唐辛子の主役であるトウガラシのお話から始めましょう。
 トウガラシは中央アメリカ、南アメリカおよび西インド諸島が原産地であり、すでにおよそ9000年前に栽培され常食されていたとされており、中南米のインデイオ達がトウガラシを薬用に使用していて、「アヒ」と呼んで痙攣や下痢を治療するのに服用していました。今では世界の三大スパイスといわれている「ペパー(胡椒)」、「シナモン(桂皮)」、「クローブ(丁子)」と肩をならべるほど、いや、ある意味ではそれ以上に世界中で広く使われているトウガラシですが、このスパイスが中南米以外の地で認知された時期はペパーなどに比べると驚くほど最近なのです。
 トウガラシ(チリ)を世界中に広めた人物は、かの有名なクリストファー・コロンブスです。コロンブスは新大陸を発見した1493年にコーカサスのペパー(胡椒)よりももっと辛く、種類も色彩も豊富なトウガラシ(チリ)を偶然発見し、それをスペイン(ユーラシア大陸)に持ち帰ったとされています。さらに50年後の16世紀中頃には南米を出たトウガラシが日本へ渡来することになります。

2−2.七味唐辛子の誕生
 日本での七味唐辛子のルーツは1625年(寛永2年)、初代からしや徳右衛門という人が江戸、薬研堀(やげんぼり)で売り出したことから始まります。薬研堀は現在の東京は両国橋のあたりで、「薬研(やげん)」とは当時の薬(漢方薬)をすり潰す道具の事であり、その名の示すように周囲は医者や薬問屋が集まっていた所だそうです。当時、漢方薬を食に利用できないかと考案されたのが七味唐辛子です。この最も古い歴史を持つ『やげん堀唐辛子本舗』(以下『やげん堀』と略します)の七味唐辛子は「生の赤唐辛子」、「煎った赤唐辛子」、「粉山椒(こなさんしょう)」、「黒胡麻」、「芥子の実」、「麻の実」、「陳皮」の七種類の薬味が入っています。当時、江戸庶民のポピュラーな食べ物であった蕎麦(そば)にピッタリと合う薬味であったので人気が高まりました。後の項で詳しくお話しますが、これら七つの薬味の多くは風邪にとても良く効く漢方薬であり、江戸庶民が七味唐辛子をかけた熱い蕎麦を食べて風邪を予防していたのではないかと考えることができます。
 蕎麦と七味唐辛子の中の辛味であるトウガラシだけに焦点を当ててみてもおもしろい事実が分かります。蕎麦を作る原料のそば殻にはルチン (1) (ポリフェノールの一種)という水溶性ビタミン(ビタミンPと呼ばれる)に似た働きをする物質が大量に含まれており、このルチンが毛細血管を強化する働きで高血圧や心臓病、脳血管障害を予防するなど高い薬効性を示す他、体のほてりを抑える働きがあります。一方、トウガラシに含まれている辛味成分はカプサイシン (2) という化学物質です。このカプサイシンは今注目されている化合物の一つで、人体に対して非常に良い働きがあることが分かっています。中でもカプサイシンにはアドレナリン分泌促進作用があるため、油分(脂肪)を身体の中で燃焼させ脂肪組織重量、血清トリグリセリド(血液中の中性脂肪)を低下させることが科学的にも実証されています。このような理由から近年、若い女性を中心にトウガラシが「ダイエットに良い」ということで騒がれていることは皆さんご承知の通りです。もちろん、寛永年間の江戸時代に唐辛子ダイエットが流行ったわけがないでしょうが・・・
 風邪でほてった体を蕎麦で冷まし、発熱による悪寒を新陳代謝促進作用のあるトウガラシで発汗させて解消する。科学的根拠の無い江戸時代に、江戸の人々は理にかなったすばらしい風邪撃退法を実践していたわけです。このことからも七味唐辛子のルーツは医食同源そのものであると言い切っても良いでしょう。
 『やげん堀唐辛子本舗』の七味唐辛子が、当然のこととはいえ、古くは江戸時代の寛永年間から350年余りを経た今でも伝統を守り続けていることに感動を覚えるのは筆者だけでしょうか。

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2002年9月 <ササ(笹)>

 今月は最近健康食品等などでなにかと注目されているイネ科の植物、「ササ(笹)」のお話です。山菜にも民間薬にもなる「ササ(笹)」について私もあまり知らなかったので詳しく調べてみました。
 先ず、北海道に自生している笹の種類ですが、「チシマザサ」, 「クマイザサ」, 「ミヤコザサ」など亜種、変種を含めると15種類です。中でも主流を占めているのが「チシマザサ」と「クマイザサ」です。北海道でタケノコとは「チシマザサ」の新芽ことで、幹の下部が傾斜地の下の方向に向かって曲がって生えてくるので別名「ネマガリダケ」とも呼ばれています。皆さんもご存知のように、ネマガリダケのタケノコは本州の孟宗竹のそれとは形状がかなり異なり、あたかも若い笹の葉の衣を着たようにも思え、その衣を剥ぐと象牙色のツルツルとしたタケノコが顔を見せます。中身はとても柔らかく昆布出汁のきいた煮付けも良いですが、私個人的にはササの葉の衣を着たまま炭火で焼いて、塩をちょっとだけつけて食べるのが一番美味しいと思っています。一方、「クマイザサ」は一本の茎から八枚から九枚の大きな緑の葉をつける(通常は七枚)ので「クマイザサ(九枚笹)」と名がついたようです。ちなみに俗に私たち「クマザザ(熊笹)」というのは背丈の大きい「チシマザサ」のことを言います。正式な「クマザサ」は北海道には自生しておらず、葉の緑のふちが薄い褐色になり、それがまるで疲れた時に目の回りできるクマのような形状になります。私たちがタケノコを食べたり、オムスビやお餅を殺菌作用のあるササの葉で包んだり結構有用に思えるササも繁茂し過ぎると、里山(集落の近くに位置し、用材や落葉の採取などにより、継続的に手入れされてきた森林のこと)にとってはとても良くない植物であることが分かりました。いくつか資料を調べてみると以下のような事が書かれています。
 1) 『樹木の成長には光が不可欠ですが,択伐によって森林内が明るくなり,稚樹や残った周囲の樹木の成長が促進されます。しかし、天然更新がいつも順調に行われるとは限りません。北海道の天然林はそのほとんどの林床にクマイザサ,チシマザサなどのササ類が繁茂し,天然更新の邪魔をしています。そのため、天然更新によって十分な後継樹が得られない場合には、ある程度人手が加えられます。成長が衰退してきたものから伐採するため、枯死木はほとんどみられない。ただし、林床にササ類が繁茂する林分では、伐採によって林内が明るくなるためササ類の密度が増加し、天然更新は不良となる(夕張択伐試験地)。』 
 2) 『劣悪な自然条件等により長期に更新が完了されず、機能の低い森林がある。ササ型林床の森林もその一つで、ササの繁茂により稚幼樹の成長が阻害され、更新完了に至っていない箇所について、過去の施業経緯や林況、植生等各種データを収集・調査し公益的機能の高い森林整備の推進に資する(中部森林管理局 名古屋分局)。』
 3) 『エゾヤチネズミはクマイザサ群落が最適の生息地です。食物(ササの芽、タケノコ)が豊富にあり、そのうえササ薮の中は風雨をまともにうけることもなく、気象的にとても温和な条件がそろっている上に、キツネなどの天敵の目から逃れやすく、生息条件としては一等地と言えます。造林木への食害は、普通根雪になったらすぐに始まり積雪期間中続く。量的には2〜3月に多いようです。食べているのは生きている細胞層である形成層と内皮です。(根室地区林業指導事務所)。』私事で恐縮ですが、山を持っていた祖父がよく「里山は人が手をかけ(ササを刈ったり、コクワやヤマブドウなどのツル性の植物をある程度人為的に制御すること)愛してあげないと価値のない山になってしまう」と言っていましたが、やっと理解することができました。北海道でのササの繁茂している山林の多くは、北海道の開拓が始まってから燃料、家屋などにするために有用な木を天然林から伐採して放っておいた結果であると言っても言い過ぎではありません。薬草園裏にある保安林も同じ状況でした。これは本来、林床植物として自生していたものがササのために日陰になったり、ササの繁茂のために植物の受粉に必要な小さな昆虫類が飛べなかった等々で発芽できなくなってしまうのです。ササの繁茂による林床植物の影響は上に述べた資料にも書かれているように非常に大きいのです。この6年間本当に色々と手をかけてきましたが、6年前に比べて本当に植物の種類が増えました。渡辺山の山頂に向かう西側斜面のカタクリの群落も昨年の秋にササをかったせいで数が増えましたし、結実した実の数も昨年の3倍にはなっています。将来さらに色々な植物が育っていくことは確実で、とても感心のもたれるところです。今年の薬用植物園、北方系生態観察園への来園者数は8月2日現在で1300人(内学外関係の方は908人)です。今年度の総来園者数は1500人を越えることは確実となってきました。私が4年前に園長を仰せつかった時には500人でしたからおよそ3倍の人が一年を通して来園していることになります。特に薬草園裏の保安林内の整備の充実度と比例して来園者が増え、春雪解けから、冬雪が積もるまで来園する人が絶えなくなり、一年で複数回も訪れる人(リピーターと呼んでいます)がかなりの数になります。これは一重に理事長はじめ大学関係者と薬学部をはじめ大学諸先生方の多大なご支援のおかげだと思っています。今後も大学の皆さまに色々なアイデアを出していただき、薬草園と保安林内の散策路の整備をしっかりして色々な方に利用される施設にしていきたいと考えております。電話、メール等(薬草園のホームページからでもアクセスできます)でのご意見、ご要望などお待ちしております。
 ところで、里山の植生の天然更新とって害あるササですが、最後にササの良いお話を一つ書いて終わりにしたと思います。最近サプリメントとして「クマ笹(本州に自生するクマ笹)エキス」が注目されています。栄養がとても豊富なんです。栄養成分としては脂肪、たんぱく質、ビタミンB1, B2, K, カルシウムの他、マグネシウム、リン、ミネラルを含んでいるため、栄養価の高いサプリメントの一つとされています。さらに最近になって、北海道幌加内町にある日本植物活性研究所から出されたクマ笹のエキスにはピロリ菌の除菌作用があると平成13年の国際ピロリ菌学会(ドイツ、ハンブルグ)で報告されて、静かに注目されているそうです。その他クマ笹には昔から健胃、高血薬、糖尿病、慢性肝炎、口内炎、口臭、かぜなどに民間薬として広く用いられてきました。

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2002年8月 <ユズ(柚子)>

 今年も早いものでもう8月になってしまいました。今年の山菜シーズンも終わりといったところですので山菜のお話は一休みさせていただきます。なお、これまで毎月書かせていただいた「薬草園だより」は薬草園のホームページ内にある『Maruho健康ランド(健康に関する情報満載!)』に掲載されていますので、興味のある方はアクセスしてみて下さい。http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~maruho/index.html がアドレスです。
 さて、山菜をテーマにした後のお話、何にしようか考えました。今後も薬用(私の場合、薬という意味ではなく健康を維持するという意味です)植物(最近私は薬用食物と書いたりしています)と『健康』に関するテーマでお話を続けていきたいと思っています。
 そこで先ず8月は「柚子」のお話をさせていただきます。「柚子」の学名はCitrus junos といいミカン科を基原とする植物の果実です。中国原産で比較的寒さに強い品種なので日本では東北以南で広く栽培されている常緑小高木です。徳島(阿波)のスダチ(酢橘)、九州のキズ(木酢)、高知(土佐)の餅柚などは全てユズの雑種とみられています。酸味と香りが日本料理に珍重されていて、皮は薄く切り取って汁物の吸口とし、千切りにして焼き物や煮物にのせ、あるいはおろし金でおろして、みそに加えてユズみそにしたりします。果汁はダイダイ、スダチなどと同様、刺し身のつけじょうゆに加えて料理を楽しむこともしばしばです。もちろん、冬の寒い季節に欠かせぬ鍋料理(特にちり鍋)などのつけ汁に使うとこれまた鍋料理の価値が2倍は上がるのではないかと思える程美味しくいただけることになります。その他に果肉をくりぬいて中に酢の物や和え物を詰めて食べる柚釜やユベシなども逸品です。以前にもお話したように、日本人にとって「香辛料」とか「スパイス」という言葉はあまりしっくりきません。『薬味』、この言葉こそが日本人にとって一番自然に受け入れることのできる名ではないでしょうか。西洋人にとっての「スパイス」、「香辛料」と日本人の使う『薬味』とでは意味合いが全く違うのです。機会があれば詳しくその相違点についてお話しますが、「スパイス」、「香辛料」と『薬味』の決定的な違いは「ドライ(乾燥)」しているか『生』であるかの差です。例えば「ジンジャー」に対しては『生姜』、「ガーリック」に対して『ニンニク』など・・・。いずれにしても西洋人と日本人の食文化のルーツを理解すると簡単に説明することができますが、この事についてはとても長くなってしまいますのでいずれ機会があれば・・・・。これまでお話してきましたように「柚子」は日本人の食生活に欠かせぬものですが、その他にも冬場のヒビやアカギレをいやすとか、風邪を予防したりするために柚子をお風呂に入れて「ユズ湯」に利用します。この「ユズ湯」などは今流行りのアロマセラピーと類似した使い方と言えましょう。
 「柚子」に含まれる成分は次の通りです。皮に含まれる良い香りのもとはイモールやペリルアルデヒドなどのモノテルペン類、またほろ苦味のもとはこれまたヘスペリジンというビタミンP(フラボノイド)の一種で健康にとても良い物質です。その他すっぱさのもとはクエン酸や酒石酸と呼ばれる有機酸の一種でこれまた健康にはとても良いのです。その他、柚子100 g 中には40 mg ものビタミンCが含まれていて(レモンに匹敵します)疲労回復にはもってこいです。これからは暑い季節になります。疲労回復に「柚子」に限らずレモン、グレープフルーツ、ナツミカンなど、いわゆるシトラス(Citrus)の仲間を食べ、ビタミンCをたくさんとって頑張りましょう。

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2002年7月 <コシアブラ>

 5枚の葉が掌状についている「コシアブラ」、学名はAcanthopanax sciadophylloidesで薬用の「ニンジン(Panax ginseng)」と同じウコギ科に属します。このAcanthopanax属には最近健康食品で注目されている「エゾウコギ」もこの仲間になります。「コシアブラ」の樹皮はなめらかで、若芽は油っこく光沢があって、黄色味を帯びているのが特徴で北海道から九州まで広く分布しています。「コシアブラ」の名前はその昔、樹脂をこして、金属のさび止め油を採ったことに由来してます。
 若芽を食用にします。「コシアブラ」はけっこう大きな木に成長するのでその若芽は採取し難いですが、若い木を探して枝をたぐりよせると食べきれない程の収穫になります。味はウコギ科特有の香りと苦味があり、栄養価も高くタラノキ(これもウコギ科です)とともにまさに山菜中の山菜と言えましょう。あくは強い方ですが、抜きすぎても味気がなくなります。生のまま天ぷらにして塩をふって食べるか、茹でてから水にさらしてゴマ和え、バターや油で炒め物、汁の実にして食べます。
 「コシアブラ」の他にウコギ科の野草には先に述べた「エゾウコギ」、「ウド」、「タラノキ」、「ハリギリ」これらの若芽はいずれもが栄養価高い山菜として知られています。ウコギ科の植物は全てアクが強いのですが、またそれゆえに山菜好きな人にとってたまらないものなのでしょう。私個人的には「ハリギリ(Kalopanax 属)」,「エゾウコギ(Acanthopanax 属)」,「コシアブラ(Acanthopanax 属)」,「ウド(Aralia 属)」の順にアクが強いと思っているのですがいかがでしょう。山菜好きの方のご意見をうかがいたいと思っております。
 ところでこの「コシアブラ」、薬用植物としても知られています。若葉にはケンフェロール、クエルセチン配糖体、イソクエルチトリンなどが含まれており、イソクエルチトリンには血圧降下作用が認められています。事実昔から若葉を生あるいは日干しにしたあと、煎じて飲むと高血圧にも効果があるとされていますし、健康食に若葉に塩を少量加えて短時間でゆで、お浸しにして食べると良いとされています。
 さて、この「コシアブラ」山菜として食べるだけではなく、紅葉の季節に視覚的にも楽しませてくれます。本学の薬用植物園裏にある保安林内にも何本か自生していますが、「コシアブラ」の葉は全く紅葉せず、葉の色が白く透き通っていきます。回りのイタヤカエデ、ハウチワカエデ、ヤマモミジなどの色鮮やかな中の透明感のある白い葉の「コシアブラ」はなかなかステキです。この頃になると山の中には虫も飛ばなくなりますし、ぜひ一度散策してみていただきたいと思います。野幌の森林公園内にも「コシアブラ」の木が多数自生しており、個人的には野幌森林公園内の晩秋の「コシアブラ」が一番ステキに思えます。

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2002年6月 <ワラビ(蕨)>

 山菜ソバ、山菜ウドン、山菜茶漬け、山菜の炊込みご飯といえば必ず入っているのが「ワラビ(蕨)」です。私個人的にはこれまでお話してきた「ギョウジャニンニク」や「ウド」などが山菜として親近感がありますが、「ワラビ(蕨)」は私たちの食材の中に季節を問わず何気なくいつもいる、ある意味で非常に大衆化されていて山菜の代名詞にされています。「ワラビ」は源氏物語にも「早蕨の巻」のあるのをはじめ万葉集にもその名がありますから食用としてのかなり古い歴史をもっていることが分かります。
 さてこの「ワラビ」、学名はPteridium aquilinum var. latiusculumで、ワラビ科多年生のシダ植物です。日当たりの良い草原、谷地、原野などに自生しており、成長すると0.5〜1m くらいの背丈になります。食用として利用されるのは、まだ葉の開いていないものか、やや開きかけた若い茎を手で簡単に折れる部分から刈り取ります。刈り取ったものを、手で握っていると硬くなるので、早めに木灰などを刈り取った切り口につけておきます。
 「ワラビ」のアクは山菜の中でもかなり強い方で、しかも生のままではビタミンB1を破壊するアノイリナーゼという酵素や発ガン性物質が含まれているので、ていねいにアク抜きをしなくてはいけません。アク抜きには、木灰をよくまぶして半日ほどおき、その上から熱湯をかけ、重石をのせ一晩放置後、苦味がなくなるまで水にさらしてから使用するのが一般的です。木灰の量はワラビの重さの1割まし程度で木灰の代わりに石灰か重曹でも代用できます。アクを十分抜いた「ワラビ」はオヒタシや和え物、煮物、汁の実、おでんの材料、天ぷらなどにして食べます。もちろん文頭に書いた4種類の料理にも使われることは言うまでもありません。
 ところで、「ワラビ」の地下茎には良質のデンプンが含まれていることを皆さんご存知でしょうか。「ワラビ」の地下茎から澱粉を採る技術はずっと古くて、日本に稲作が渡来する以前からありました。ドングリや野生のイモ類から澱粉を得ていた頃ですから少なくとも縄文時代からあったというのは驚きです。

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2002年5月 <ヨブスマソウ>

 「ヨブスマソウ(夜衾草)」はあまりなじみのない方もいらっしゃるのではないかと思いますが、「ボウナ(棒菜)」と書くと少しはどこかで聞いたことのある山菜かなあとおっしゃる人もいるのではないでしょうか。この「ヨブスマソウ」、森林や谷間に群れをなして生えるキク科の多年草で、道内のどこにでも見ることができます。名の由来は、その特徴的な大きな三角形の葉にあります。三角形の葉の形が夜具似ているからとか、「矢ぶすま」で春先に太い芽が並んでたったところを矢がささっているとみたから等の語源が考えられているようですが、一方では「ヨブスマ」はムササビやコウモリの方言名で葉の形が肢間の皮膜を広げて空を飛ぶ様に似ていることからついたという説もあります。私個人的には後者の意見に賛成です(個人的にムササビを飛ぶところなど実際に見たことはないですが・・・)。「ヨブスマソウ」の特徴は葉の形だけではありません。その背丈も非常に高く2mを越えるものもあるほどです。キク科でこれほど背の高くなる植物は「ヨブスマソウ」くらいしかなく「セイタカワダチソウ」でも及びません、他の植物と比べて見ても北海道でこれほど背丈の高くなる草本性植物は、タデ科の「オオイタドリ」とセリ科の「エゾニュウ」くらいしかありません。もちろん、我が北海道医療大学が所有する遊歩道内にも多数自生していますので容易に見ることができます。
 山菜としては先にも述べましたように「ボウナ(棒菜)」と呼ばれていて、春先の若芽を食用とします。これは「ヨブスマソウ」の若芽が葉が上を向いて茎にしっかり巻きついているので、棒を立てたとうに見えることからついた名前です。食べる時には葉を落として茎だけにして利用します。若い時の茎はやや紫色を帯びていて、断面は中空でフキの葉柄に比べると肉はずっと薄くキク科の植物に特有な香りがあって野菜の「シュンギク」に一番近い香りがします。
 食べ方は茹でて、苦味がなくなるまで水にさらしておきます。あとはおひたし、汁の実、酢みそあえ、ゴマあえ、ゴマしょう油、三杯酢で食べるようです。私個人的にはまだ食したことがないので、今年は何本かトライしてみようと思っています。ある人(遊歩道の整備を担当している吉田尚利氏)によるとアスパラを茹でて食べるのと同等の美味しさがあるそうです。
 薬草園のホームページ内のmaruho健康ランド内に「山菜のお・は・な・し」を新設しました。これまでの薬草園便りをまとめてあります。よろしかったらアクセスしてみて下さい。

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2002年4月 <ヨモギ>

 「ヨモギ」は知らない人がいないほど知られた野草ですが、果たして山菜の仲間にいれて良いものやら・・・という感じもしないではないです。「ヨモギ」はキク科の多年草で、北海道で普通にみられるのは「エゾヨモギ(オオヨモギ)」と呼ばれるもので、その他に海岸近くでは真っ白い毛で覆われた「シロヨモギ」、高い山では、低い山では「オトコヨモギ」や「イヌヨモギ」など二十種くらいはあります。日の良く当たる所ならどこでも生える逞しい野草ですが、最近は悪名高く繁殖力の強い同じキク科の「セイタカアワダチソウ」に縄張りを侵略され、勢力争いに押され気味のようです。ヨモギの若葉は5月の節句の草餅に、煎じてせき止めや虫下しに、怪我をした時にはもんで傷口に当てて血を止め、さらにはモグサにしていぶして蚊遺に使ったり、かなり広く使われていました。アイヌ語ではヨモギをノヤ(noya)といい、各種の病気の薬として用いたり、ヨモギの強い香りは病魔を追い払う力があると信じられ、呪術的にも使われていたようです。ちなみにノヤ(noya)とは「もみ草」の意味でノヤノヤ(noya noya =もみのもむ)が語源であると言われています。一般にヨモギは茎が伸びてくると雑草としてあまり利用価値(食用として)がないように思われがちですが、伸びたものでも柔らかい葉は天ぷらに、柔らかい茎はキンピラにして食べると美味しいものです。
 日本では、ヨモギといえば一般的には野生のものをさしますが、ヨーロッパでは洋酒のアブサンやベルモットの味付け用にニガヨモギが使われますし、フランス料理のカタツムリのたれにはヨモギの一種のドラゴン草が欠かせません。日本でもモグサはオオヨモギ、駆虫剤用にはミブヨモギ(駆虫薬、サントニンが含まれる)が栽培されています。
 草餅に使われるエゾヨモギ(オオヨモギ)の葉には精油、シネオール(ヨモギの独特の香りの元)、α−ツヨン、パラフィン、ボルネーオール、その他ビタミンA、B、C、Dなども豊富に含まれています。

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2002年3月 <フキノトウ>

 皆さん、今月のお話「フキノトウ」と「フキ」のお話です。厳しい寒さがやわらぎ、雪解けを待ちかねたかのように、日当たりの良い土手や畦に浅緑色の「フキノトウ」が春を告げます。北海道では一番最初に楽しめる、最も人気のある山菜です。「フキノトウ」と「フキ」は全く別な種類の植物と思っている人がいらっしゃるかもしれませんが、両者ともにキク科の多年草で「フキノトウ」はその花茎、一般的に「フキ」と称しているのはその葉柄部分なのです。フキは生える所によって形や色が異なるので、ヤマブキだのサワブキだの生えている場所で名前が違ったり、アカブキ、アオブキなどと茎の色で区別したりしていますが、北海道に自生している種類はみな同じアキタブキ(Petasites japonicus subsp. giganteus Kitam.)です。
 フキの名の由来については色々ありますが、面白そうなお話を二つ程。先ず、江戸時代中期の儒学者であった新井白石(1657−1725)の説:「フキはフブキの略で、フブキとは茎を折った時、繊維が糸のように出てくることをさす。」と言っています。国語学者、金田一春彦氏の説:対馬に所用で行ったおり、ある部落のトイレに新しいフキの葉が前の方に置いてあり、使用済みのフキの葉が捨ててあったのを見てフキは「拭き」からきていると言っているのは、ウソのようでホントの話のようでおもしろいと思います。
 フキは雌雄異株の植物なのでその花茎であるフキノトウにも雌雄の別があります。雌の方は花が終わると茎が高く伸びて、いわゆる「トウが立つ」状態になって、白い綿毛のある種子が風で飛ばされて散るようになります。雄の方は余り高くは立たず用が済むとそのまましぼんでしまいます。
 フキノトウは芽出し直後の花が開く前のものを、根ぎわから採取すると、若いものほど苦味が少なく、香りも強くて美味しい。食べ方はアク抜きし過ぎないようにして、汁の実、油炒め、煮物、酢の物などにしたり、生のまま天ぷらにします。私個人的には、もぎたてのフキノトウを天ぷらして塩かけて食べるのが一番だと思っています。一方、フキはおもに、一番最初に出てくる葉の葉柄を根元からナイフなどでていねいに切り取り、ゆでてアク抜きして、水にさらしながら皮をむき、みそ汁の実、煮物、和え物他、佃煮、ぬか漬けなどにして食べます。私個人的にはフキと美味しい薩摩揚げ、あるいは美味しい揚げと醤油味の油炒めが大好きです。
 ところで、フキの花茎(フキノトウ)と葉は薬用にも使われます。煎じて飲むと、せき止めや痰を切り、解熱作用もありかぜの初期には効果があります。またフキノトウのほろ苦さは食欲増進効果があります。
 皆さんが本稿を読まれる頃はもう少しで雪も解け始める頃でしょう。「もう少しで春!」、そして春の使者ともいえるフキノトウ、待ち遠しいものです。

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2002年2月 <エゾエンゴサク>

 皆さん、今月のお話は、雪どけ後の早春、林の下草として「カタクリ」や「ニリンソウ」などといっしょに大群落をつくるケシ科の多年草の「エゾエンゴサク」(蝦夷延胡索)です。「カタクリ」、「ニリンソウ」。す成していることがあり、とても といっしょで、早春まだ背の高い植物や木々たちが活動を始める前に花を咲かせます。花の基本色は明るい空色ですが、気のせいか、晴れた日と曇った日で異なり、濃い青紫色だったり赤紫色に感じる時がありますし、時にはまれに白い花を見つけることもあります。いずれにしても、足を止めて大群落を形成している一つ一つの花をじっくり眺めてみると、色合いが全然異なって見えるステキな花です。ライフサイクルはとても短く6, 7月、夏も盛りだというのに、小さな実を結んで、地上部は枯れそのまま翌年の春まで休眠してしまいます。これは昨年の薬草園便り12月号でお話した「ニリンソウ」と同じですね。北海道では郊外をちょっと離れるだけで平地でも簡単に見ることのできる植物ですが、本州では少なく、高い山に登らないと見ることのできないので、高山植物としてしばしば写真集で紹介されているほどです。
 この早春に美しい花を咲かせる「エゾエンゴサク」茎葉はもちろん、花まで食べてしまうことができます。アクがなく、全くクセがないので、さっとゆでてオヒタシして食べるのが一般的です。地上部ばかりではなく地下の塊茎も食べることができます。アイヌの人たちはこの塊茎のことを「トマ(toma)」と呼んで、茹でて干したものを貯蔵しておいて、必要に応じて湯で戻し、アザラシの油などで調理して食したそうですが、幕末の探検家、松浦武四郎も釧路、阿寒を廻った時、「トマ(toma)」をカユにして食べたことを日誌に書き記しています。また、この「トマ(toma)」(エンゴサクの塊茎)は、漢方で延胡索と呼び、鎮痛や婦人病に使われています。ただ、やはりこの美しい植物を守るためにも塊茎はとらず残しておきたいものです。
 皆さんが本稿を読まれる頃は北海道で一番寒さの厳しい季節になっていると思いますが、あと2ヶ月もすれば、薬用植物園裏の遊歩道内でこの美しい花をたくさん見つけることができるようになります。そんな季節が来ることを心待ちしながら、年度末のお仕事、頑張りましょう。

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2002年1月 <カタクリ>

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年も色々な話題をたくさん用意しておりますので、薬草園便りをよろしくお願いします。
 さて、2002年最初のお話は「カタクリ」です。
 「カタクリ」はユリ科の多年草のことで、「エゾエンゴサク」、先月号の薬草園便りにお話しした「ニリンソウ」とならび、雪どけ後の早春の明るい林床に大群落をつくる代表的な野草の一つです。花の色はとても美しい紫色で、それゆえ乱獲され、本州方面ではその個体数は激減しています。北海道ではまだ各地に大群落地が残っていて、札幌近郊でもゴールデンウイーク頃にかわいい花を見ることができます。「カタクリ」とう名の由来は「片栗」でクリの子葉の一片に似ていることからと言われていますが、他にも「カタクリ」には「堅香子(カタカゴ)」という古名があり、花の様子が「傾いた籠」に似ているから、それに「ユリ」がついて「カタコクリ」、さらにそれがつまって「カタクリ」と呼ばれるようになったという説もあり色々な説があるようです。
 カタクリの鱗茎はかなり深い所にあり、10センチや20センチ掘っても鱗茎にたどりつかないこともあります。また、葉の表面には淡い紋があって株ごとに紋様が異なります。花のつく株には2枚の葉(時に3枚の時もある)があり、1枚の葉しかない株には花が咲きません。花の色もよく見ていると株によって濃淡があり、見ていてあきないものです。
 「北海道」の名付け親として知られる、松浦武四郎は安政年間に蝦夷地を探検し、アイヌの人々と生活を共にしながら蝦夷地に関する膨大な試料を残した江戸時代の探検家です。彼の著書の一つに当時のアイヌの人々の食用植物として「延胡索、黒百合、山慈姑、車百合、菱実」の5つが絵つきで記されており、「山慈姑」には(フレエプイhure-epuy = 赤い・花、かたくり)のルビがあり、これが「カタクリ」のことです。「カタクリ」の地下茎には40〜50%の澱粉粉が含まれており、「カタクリ粉」の名があるように、良質な澱粉が採取できますので古くから貴重な澱粉源として利用されていたであろうことは容易に想像できます。
 さて、まえおきがかなり長くなってしみましたが、「カタクリ」の食べ方です。「カタクリ」の若葉を熱湯にくぐらせる程度に茹でた後、おひたし、マヨネーズあえ、ゴマあえ、カラシあえ、酢みそあえにして食べるのが一般的です。鱗茎は、すりおろして水にさらし、かたくり粉をとったり、甘煮、みそ煮などにして食べます。
 本学の所有する薬草園裏山にも一部「カタクリ」の群落があります。毎年5月上旬に渡辺山山頂に至る途中の西側斜面に「カタクリ」が咲き乱れます。同時期に咲く「エゾエンゴサク」の青紫色と「カタクリ」赤紫色のとの共演はとてもすばらしく早春の渡辺山の見どころの一つです。5月の連休あたり、ぜひご覧になって下さい。ただ、個体数がそれほど多いとはいえないので、見るだけにしておいて下さい。

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2001年12月 <ニリンソウ>

「ニリンソウ」は雪どけ後の早春、林の下草として大群落をつくるキンポウゲ科の多年草のことで、北海道や東北地方では「フクベラ」とも呼ばれる春を代表する植物です。林茎は高さ15センチ程に伸び、葉は3つに大きく分かれ、直径2センチの5弁の花が1つの茎に2輪ずつ咲きます。「ニリンソウ」の名前の由来はここからきてます。アイヌの人たちは「ニリンソウ」のことを「プクサキナ」、あるいは「オハウキナ」と呼んで、色々な汁物の実にして食べていました。
 「ニリンソウ」は全道各地の林野にごく普通に見ることができますが、針葉樹林の林床や高いところにはいません。広葉樹林の林床に好んで生えます。この植物は背の高い木々が活動を始める前、陽光がふりそそぎ、林床部が明るい時期に芽を出し、木々に葉が繁って林床が暗くなってしまう7月には、まだ夏だというのに枯れて休眠してしまう面白いライフサイクルをもっています。ちなみに、カタクリ、エゾエンゴサク、ナニワズも「ニリンソウ」と同じライフサイクルをもっている植物です。
 さて「ニリンソウ」、植物の地上部分全体を食することができます。ものの本には若いものよりも、ある程度生長あいて花の咲いているものの方が良いと書いてあるものもあります。食べ方はさっと茹でて、おひたし、酢みそやゴマの和え物、汁の実として食べるのが一般的ですが、ちり鍋やすき焼きなどの鍋物の具や貝類などと油いために食べて美味しいようです。一度茹でたあと干して貯蔵することもできますが、山菜以外に色々な葉菜を食べることのできるようになった現代ではそこまでする必要はなく、春の旬を感じる程度にした方が良いのではないかと私は思っています。
 ところで、「ニリンソウ」の若葉は、有毒植物の「トリカブト」の葉にとても良く似ているので間違って若葉を摘んでしまうことがあるのです。「トリカブト」は皆さんがご存知の通り、間違って食べてしまうと生命を脅かすほど有毒ですからかなり注意して「ニリンソウ」を摘まなければいけません。幸いなことに、「ニリンソウ」は早春に白い花を咲かせますが、「トリカブト」の花期は秋で、さらに色は青紫です。従って慣れないうちは「ニリンソウ」に花が咲いてから食べるのが一番間違いのない方法でしょう。
 「ニリンソウ」は本学が所有する保安林内の大沢から東側の尾根にかけて相当数が自生し、群落を形成しています。5月の連休ころから咲き始めます。
 本年度も薬用植物園をご利用いただきありがとうございました。来年度もよりいっそう発展させていく所存ですのでよろしくお願い申し上げます。
 それでは皆さん、良いお年をお迎え下さい。

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2001年11月 <アズキナ>

 皆さん、「アズキナ」のことをご存知でしょうか。私は本学に来る前、6年前までは札幌で毎年5月の末頃に職場近くの行きつけの居酒屋でよく食べていましたが、それがユリ科の「ユキザサ(雪笹)」だとは恥ずかしながら知りませんでした。「ユキザサ(雪笹)」は、日本全土に分布していますが、南の方では1500mくらいの亜高山帯に分布する植物です。山菜として簡単に採取できるのは東北・北海道地方だけ、本州では登山家などの特別な人だけが「高麗の山菜」として食べることができるだけで、一般の人にはなかなか手の届かない山菜です。また「アズキナ」は明治の初年、北海道開拓のために東京に設置された開拓使官園にも「雪笹草」の名があるので、野菜の一つとしての利用の可能性を検討していたと考えられています。
 さて「ユキザサ」、新芽と若葉を食用とします。新芽が最も美味しく、新芽のゆで立ての香りはアズキをゆでた時の匂いと同じなので「アズキナ」という名がついたとされています。若葉の方もかなり生長したものでも食べることができます。ただ、「ユキザサ」の新芽は同じユリ科のオオアマドコロ、チゴユリ、ホウチャクソウなどの新芽と類似していますのでかなり慣れた人でなければ見つけることが難しいようです。オオアマドコロ、チゴユリの新芽は苦いだけですが、ホウチャクソウは有毒ですから注意が必要です。食べ方はやはり何と言ってもゆで立てを水にさらして、おひたしにするのが一番でしょう。その他に酢味噌和え、油炒め、マヨネーズにもあうのでサラダに。また生のまま天ぷらで食べるのも美味とされているようですが、私はおひたし以外では食べたことがありません。
 ところで、この「ユキザサ」、花もとてもきれいなんです。「ユキザサ」も本学が所有する保安林内にある程度の個体数があります。時期的には薬草園便り10月号でお話しした「エゾノリュウキンカ」の花が終わる頃、森の中が緑で一杯になる頃に真っ白で可憐な花をつけます。ある程度の群落で存在しますから花がかたまっているところは、緑の中にあたかも雪が積もっているように見えます。特に朝早くにこの花を見るととても良い気持ちになります。
 それから・・・、9月の中旬になって、遊歩道の中の木々たちの葉が落ち始める頃、ユキザサの本当に真っ赤な実が、過ぎゆく短い秋を感じさせてくれます。春先に見たきれいな植物たちの花の実、これもまた秋を楽しませてくれます。一年に一度しか見ることができません。来年度はぜひ遊歩道内のこの可憐な花を見に行って下さい。ただ個体数が少ないのでくれぐれも見るだけにしておいて下さい。この件心よりお願いいたします。

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2001年10月 <エゾノリュウキンカ>

 漢字で「蝦夷の立金花」と書きます。直立した茎に黄金色の花につけられたものですが、スキーシーズンも終わる4月末頃、山麓の湿地帯一面に咲く黄金色の花はまさに名前通りといえます。この植物はキンポウゲ科に属していますがキンポウゲ科には猛毒植物のトリカブトをはじめキツネノボタン、オトコゼリのように有毒植物が多く、山菜として食用に供することのできるものは、「ニリンソウ(フクベラ)」と「エゾノリュウキンカ」、「バイカモ」、「サラシナショウマ」くらいのものです。はじめの二つはともに東北、北海道の重要な山菜で、春先に咲く花はとても美しく味も含めて一級品の山菜といってもよいでしょう。
 北海道では「エゾノリュウキンカ」というよりは湿った谷地に好んで生えることから「ヤチブキ」と呼ぶ方が一般的ですが、秋田や山形の一部ではキク科の「サワオグルマ」のことを「ヤチブキ」と呼ぶので区別しなければいけません。いずれにしても、「エゾノリュウキカ」は東北の奥羽地方と北海道にしかないので、北海道独特の山菜といっても良いでしょう。
 さてこの「エゾノリュウキンカ」、葉、茎、花、花茎の全てが食用になります。大きくなるにしたがって苦味が強くなります。出始めの頃なら、苦味が少ないので、熱湯にくぐらせる程度で食べられますが。大きく育って緑色が濃くなったものは苦味が強いので、さっとゆでて、半日くらい水さらしておく方が良いでしょう。食べ方は、生のままみそ汁の実、おひたし、酢みそ和え、ゴマ和え、二杯酢、三杯酢、マヨネーズ和え、佃煮、油いため、卵とじなど色々楽しむことができます。
 色々な本を調べてみると、昔の札幌にはたくさんの湧泉(清流のわき出るところ)があって、そのまわりには春になるとたくさんの「エゾノリュウキンカ」が咲き乱れ、真っ黄色になっていたそうです。今の札幌からは全く想像できないことです。都市化が進み、地下水が下がり、湧泉や小川が消えて川がドブ化するにつれて清流を好む「エゾノリュウキンカ」は札幌市内から減っていったようです。たまたま残っていても、茎をひっぱれば湿地に生えているがゆえに根こそぎとれてしむのでどんどんその個体数は減っていきます。もちろん庭や鉢植えしても育てることは無理です。
 実はこの環境の変化に最も弱い「エゾノリュウキンカ」の大群落が今年度完成した遊歩道内に存在するのを皆さんご存知でしょうか。今年も5月の連休明けには北海道医療大学が所有する保安林内の湿地帯が真黄色になりました。「カタクリ」と「エゾエンゴサク」の群落も春先の見どころの一つですが、この「エゾノリュウキンカ」の大群落もとってもステキです。4年前に保安林内の植物調査をした時に比べて谷全体に「エゾノリュウキンカ」がかなり増えています。春先の5月上旬までは、その年に降った雪解け水が谷に流れこみます。その水際にはどんどんこの植物が増えているようです。来年の春先にはぜひ皆さんも遊歩道を散策しながら真黄色になった谷をご覧になって下さい。
 ただし、北海道に住む私たちにとってはあたり前のように思える植物ですが、今ではそう簡単に見ることのできなくなった植物であることも忘れないで下さい。そしてそんな植物の群落が私たちが歩いて5分くらいのところにあって、すぐに見ることができるというのは本当にステキなことです。先にも書きましたように、この北海道に独特で本州では見ることのできない、また環境の変化にはとても弱いこの「エゾノリュウキンカ」を大切にしていただきたいと思っております。

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2001年9月 <ギョウジャニンニク>

 北海道の山菜の中でも、最も人気のあるものの一つで、アイヌネギの呼び名もあります。このユリ科の多年草の名の由来は、昔、山伏などの修験者が、山の中で体力をつけるために食べたところから「行者ニンニク」→「ギョウジャニンニク」になったのです。新鮮な葉にはビタミンCが100 mg あたり60 mgも含まれている他ビタミンAも豊富です。また自己免疫能力を高める働きのある本家のニンニクにも含有されている揮発性含硫化合物(硫黄元素を含む有機化合物)、強い殺菌作用のあるネギやキャベツに含まれている揮発性化合物も含まれるためウドと並び非常に健康に良い山菜の一つです。
 食べ方には色々ありますが、切り口を空気にさらすと中の成分が酸化されニンニク臭が増してしまうので臭気の嫌な人はできるだけ採ったら速やかに食べることをおすすめします。
 若芽と葉はさっとゆでて、おひたし、あえもの、酢のものに。生のまま汁の実、天ぷらなど。鱗茎は生のまま味噌をつけてかじっても焼いても美味しく食べられます。あまりポピュラーではありませんが、おろし金ですりおろして、醤油に落とし、刺し身の付け醤油にするのもなかなかという人もいます。その他、葉、鱗茎などをいれた野菜炒め、卵とじにするのも良いですし、蕾はゆでて酢の物に生のまま天ぷらにと「ウド」に負けず劣らず春の香りを楽しむことができます。ちなみに個人的には、春、七輪と炭を持って取れたてのギョウジャニンニクをジンギスカンや塩カルビーといっしょに食べるのが一番素敵な食べ方だと思ってますし、一番北海道らしい食べ方ではないかと思っています。
 ところでこの「ギョウジャニンニク」、精のつく山菜と認められているわりには成長が遅いのです。種をまいてから二枚の葉ができるまでに七、八年もかかり、花が咲くのはその後二年程経ってからなんです。要するに、春の終わりに花をつけているギョウジャニンニク(めったに見ることはありませんが)十年もののギョウジャニンニクということです。ラッキョウやニンニクのように鱗茎がいくつもにも分かれることも少ないから、繁殖力は決して強くはないのです。昨今、山菜ブームですがこのことを頭の中にいれていただき、ギョウジャニンニクの自生しているところはかなりの部分を残して食べる分だけ採るというのがいつまでも春の香りを楽しむために大切な事です。

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2001年8月 <山ウド>

 2000年の4月から「癌を予防する野菜たち」をテーマにして先月号まで延べ16回にわたって色々な野菜についてお話してまいりましたが、このテーマは一休みさせていただきます。機会があればぜひ野菜以外(果物、魚、お肉)についても「癌を予防する○○たち」というテーマでお話させていただければと思っております。
 さて今月号から季節はずれの感もありますが、「山菜」をテーマにとり上げてみたいと思います。
 先ずそのトップバッターは「山ウド」です。山ウドは薬用として有名な朝鮮ニンジンと同じ仲間のウコギ科 (Araliaceae) の多年生草本で植物全体を食用に利用することができます。春先の山ウドの根茎はアクを除いて酢みそ和えなどに、茎は皮を剥いてキンピラ、炊き込みご飯、タマネギと合わせてかき揚げに、新芽、若葉は天ぷらにと、捨てる箇所はほとんどありません。いずれの食べ方でもあのほろ苦い味とほのかな独特の香りは「春がきたなあ」と感じさせてくれます。あの独特の香りはリモネン、サビネン、α-ピネン、ミルセン、テルピネンなどの精油成分 (揮発性化合物)が豊富に含まれているためです。さらに、山ウドは春先だけの山菜と思われがちですが・・・、実は大きくなった夏の山ウドの葉は 5 cm ほどに刻んだ後、陰干しにしてお風呂の浴湯料にすると肩凝りや持病に有効とされています。また、山ウドの根茎は[和独活 (わどっかつ)]、根は[和羌活 (わきょうかつ)]と呼ばれ、発汗、解熱、鎮痛剤としてかぜ、頭痛、歯痛などに薬用としても使われます。その他にも根や果実から3ケ月以上かけて熟成させた作る根酒および果実酒は強精、強壮に効き目があるとされています。
 俗に「ウドの大木」という言葉はあまり良い例えとして用いられませんが、どうしてどうして「山ウド」は先に述べて来たように本当に有用な山菜あるいは薬草と言うことができます。
 最後に一つだけ、中国の「本草綱目」には山ウドの根、根茎部分を[土当帰(どとうき)]と呼んでいる他、「神農本草経」には根、根茎部分のことを[九眼独活 (きゅうがんどっかつ)]と呼んでおり色々な呼び方があります。ちなみに単に[独活 (どっかつ)]とい言われる植物はセリ科のシシウドのことで全く別なものとして理解して下さい。

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2001年7月 <モロヘイヤ>

 今月は最近(十数年前から)になって日本で栽培化された歴史のあさい野菜、モロヘイヤのお話をします。
 モロヘイヤはシナノキ科の植物で、草丈25〜30 cm で、葉はシソに似ており、刻むとオクラのような粘りが出ます。原産地はエジプトを中心とする東地中海地方で、古代エジプトではすでに食用にされており、特にエジプト王の野菜として珍重されていました。特に、モロヘイヤのスープは王様が内蔵不調のときに食べて元気になったことから、王様(マクリ)のスープと呼ばれていたそうです。冒頭でもお話したように、日本での歴史は十数年と比較的新しいのですが、滋養強壮効果が高いので、健康野菜として注目されています。
 モロヘイヤの栄養価は非常に高く、特にカルシウムはホウレンソウの9倍、ブロッコリーの10倍も含んでおり、カロチンもホウレンソウの4.6倍、ブロッコリーの19倍量含まれています。さらに、ビタミンB群においてもビタミンB1、B2がそれぞれホウレンソウの5倍弱、20倍にものぼりますのでいかに栄養価の高い野菜であるかが分かります。その他にもカリウム、ビタミンC、E、鉄なども豊富に含まれています。さらに葉を刻むと出る粘り成分は「山の芋」でもお話しました多糖類のムチンやマンナンと呼ばれる成分です。
 カルシウム、カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、カリウム、ムチンはこれまで色々な野菜のお話しの中で何度も何度も繰り返し出てきた栄養素ばかりです。それぞれの成分がどのように作用するのかはこれまでの繰り返しになるので省略させていただきますが、骨粗しょう症、癌や老化の予防、元気回復、高血圧予防、胃粘膜保護、精力増強作用などなど多岐にわたることはもはや言うまでもないことです。とにかくこのような色々な栄養素を含んでいる食べ物は、私たちが毎日の生活を豊かに前向きにエンジョイするための必須アイテムであることは明らかです。病気になってしまえばそれまでどんなに前向き生きていた人でもどうしても後ろ向きになってしまうものです。病気になったら『薬』、これはしょうがないことかもしれませんが、『薬』に頼らぬよう、毎日の食生活から元気の元を摂取することも、今一度考えてみる必要があるのではないかと思っています。
 昨年の4月から『癌を予防する野菜たち』をテーマに色々な野菜についてお話させていただきました。来月号からは健康に関する新たなテーマを設定してお話しを続けていきたいと思っています。
 第15回「薬草園を見る会」もおかげさまで約250名もの方の参加をいただき、大変盛況なイベントになりました。今年は生薬学教室の4年生、OG, OBの他に生薬学教室以外の薬学部の先生、薬学部の3年生、看護福祉学部の先生など昨年以上にこの会に協力して下さる方が増えました。この紙面をおかりして協力していただいた方々に厚く御礼いたします。来年度も盛況な会にしたいと思っております。来年度は今年度以上に多くの方の参加をお願いしたいと思っております。
 最後に一つだけ、一昨年の5月から続いている薬草園便りのバックナンバーを本学の『薬草園のホームページ内』の「Maruho健康ランド」(アドレス:http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~maruho/index.html)に一部アレンジして掲載してありますので、興味のある方はぜひアクセスしてみて下さい。

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2001年6月 <カボチャ(南瓜)>

 今月はカボチャ(南瓜)のお話しです。
 カボチャはウリ科の1年草で世界で約20種ほど種類がありますが、日本で栽培されているのはニホンカボチャ、セイヨウカボチャ、雑種カボチャ(ニホンカボチャとセイヨウカボチャの種間雑種)、ペポカボチャの4種類で、原産地はいずれも中米から南米高原地帯です。日本には16世紀にポルトガル船によって豊後や長崎に伝わり各地に広まりました(ニホンカボチャ)。セイヨウカボチャはさらに遅く19世紀の中ころにアメリカから伝えられましたが普及せず、明治に入って多くの品種を導入し、北海道、東北、長野の寒冷地方で栽培されました。現在のカボチャの主流は西洋種で、えびす、みやこ(これら2種は加熱するとホクホクすることから、栗カボチャといいます。)二品種が全体の生産量の50%を越えます。とにかくカボチャは土地を選ばずに栽培することができ、収穫量が多いため、第2次世界大戦の戦中、戦後には都市の空き地で盛んに栽培されました。戦中、戦後を過ごした方の中にはカボチャなど見たくもないという方も少なからずいらっしゃるようです。
 ところでこのカボチャ、健康野菜としてなかなかの優れ物なんです。先ず、カボチャの黄色い色、これはβ-カロチンとα-カロチンです。「ニンジン」と「ホウレンソウ」でもお話したように、β-カロチンとα-カロチンには生体内で発生して正常細胞をガン化させる働きのあるフリーラジカル(活性酸素)を捕まえてくれるので癌予防や老化予防に効果があります。また、β-カロチンは動物体内に取り込まれるとビタミンAに変化するのでプロビタミンAとも呼ばれており、視覚、聴覚、生殖機能維持にも効果的です。その他にビタミンCも比較的豊富ですし、それ程量は多くはありませんがビタミンB群が含まれていますのでビタミン源としても重要な野菜なのです。以前ジャガイモでお話したように、カボチャも多くのデンプンを含んでいるので、その中にあるビタミンCは比較的熱に安定なのです。それに何と言ってもカボチャは全野菜の中でも「日もち大将軍」といってもよい程保存のきく野菜ですから、今程物の豊富でなかった昔では野菜の少ない冬場には貴重なビタミン補給源だったことは容易に想像できます。昔から「冬至にカボチャを食べると、かぜをひかない」という言い伝えはカボチャのビタミン群の多さに理由があるのです。現代のように科学の発達していなかった時代に、経験的にカボチャの重要性を理解していた先人の知恵にはあらためて驚かされます。
 カボチャは食物繊維も豊富に含まれておりコレステロール値を下げ、便通を良くするので、大腸癌の予防にも効果的です。ただし、カボチャの主成分はデンプンなので、食べ過ぎるとエネルギーオーバーになるので注意が必要です。まあ、カボチャに限らず何でも健康に良いからといって、それだけを特別にたくさん摂取しても良くないことはごく常識的なことなのですが、一般的に日本人は熱しやすく冷めやすいところがありますから、やはりバランスを良い食生活を日々考えて楽しい毎日をおくりたいものです。
 最後に一つだけ、カボチャの種のお話です。
 実はカボチャ、実の部分だけではなく種にも色々な効能があります。種には生体内で重要な微量金属の一つである亜鉛が多く含まれていますので、中国、インド、ブルガリアの山岳民族、アナトリア系トルコ人、ウクライナ人、ルーマニアのトランシルバニア地方の住民は、前立腺疾患やインポテンスの予防、視力維持などに効果的であることから欠かせない食べ物となっているようです。また漢方ではカボチャの種を「南瓜仁(なんかにん)」とよび、低血圧の薬として利用されています。食べ方は種をよく洗って干し、フライパンで炒って皮をむいて食べるのが一般的です。

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2001年5月 <ホウレンソウ(菠薐草)>

 今月はホウレンソウ(菠薐草)のお話しです。
 ホウレンソウはアカザ科の1〜2年草でアフガニスタンからトルキスタンあたりの西アジアが原産地とされていますが、栽培化されたのはイランです。“菠薐”とはペルシア(イラン)のことで、原産地がそのままホウレンソウの名前になっています。その後回教徒によって東西に伝播し、東洋種(葉は大きな切れ込みのある剣葉で薄く、葉柄も細く短い。根元は鮮紅色。)と西洋種(葉は切れ込みの少ない幅広の丸葉で肉厚。葉柄は太く長い。緑色が濃く、根元の赤みは薄い。)の二系統が栽培されるようになったのです。ヨーロッパには11世紀に伝わり、15世紀以降広く普及したようです。一方、東方へ渡ったホウレンソウは17世紀になり日本に渡来しました。江戸時代初期(1630年)、林羅山の『多識目』にカラナ(唐菜)という名前で記載されているのが、文献上初めてのことです。昭和30年ごろから日本人の食生活の変化に伴い。おひたしだけでなく炒め物に用いられるようになって、西洋種が多く栽培されるようになりましたが、現在日本で栽培されているものの大半は両者を交配した雑種です。ところで、アメリカで作られたテレビ漫画、「ポパイ」を知らない人はいないのではないかと思いますが、主人公のポパイがブルートをやっつける前には必ずホウレンソウのカン詰めを開けて食べます。これは当時(1910年頃)、ホウレンソウ嫌いの子供たちに食べさせるための宣伝だったのです。もちろん「ポパイ」のせいでその後ホウレンソウの需要が伸びたことは言うまでもありません。
 さてこのホウレンソウは栄養価の高い健康野菜の代表各として知られていますが、なんといっても鉄分の多さは100g中3.7gとニンジンやピーマンなどをはるかに上回っており牛レバーに匹敵する量が含まれていますので貧血の予防にたいへん効果的です。β-カロチンの量も葉野菜の中でもトップクラスですし、カロチンの一種で、黄色い色素成分のルテインも含まれており、両者ともにフリーラジカルをトラップする作用があるので癌予防に効果があります。もちろん抗酸化作用の高いビタミンCも豊富ですし、その他にビタミンB1, B2, K, 葉酸などの含有量も高いので健康に良いことがお分かりいただけるのはないでしょうか。さらにもう一つ、ホウレンソウにはミネラル分、特にカルシウムが多く含まれているので、骨粗しょう症の予防にも効果があります。
 ところでホウレンソウのアクに含まれるシュウ酸は鉄分の吸収を妨げます。ホウレンソウをゆでるのはこのシュウ酸を除去するためですが、ゆですぎると先に述べた水溶性ビタミン群も流出しますのでゆでる時間は1〜2分程度にとどめ、冷水にさらす時間もごく短時間にします。ゆでる代わりに電子レンジで加熱して水にさらしてもシュウ酸を取り除くこともできます。また最近では生食用に改良されたサラダホウレンソウも出回っていますが、肥料や水を少なくしてシュウ酸値を低く抑えて栽培されたものです。おひたしやあえものにするのが一般的ですが、グラタンに使ったり、牛乳といっしょにスープにすればホウレンソウの栄養成分を丸ごといただけます。
 また、6月24日(日)には「薬草園を見る会」を開催いたします。今年度も昨年に続いて手作りのハーブクッキーとオリジナルハーブテイーを用意したいと思っています。「薬草園を見る会」を手伝っていただける方を学部を問わず募集しております。野の植物や、ハーブ、アロマテラピーに興味のある方、その他イベント好きの方の参加をお待ちしております。今年は生薬学教室特製オリジナルハーブクッキーを5000枚程焼きたいと思っております。
 連絡先は薬学部生薬学教室の堀田あるいは野口(内線3121, 3123 ; e-mail: maruho@hoku-iryo-u.ac.jp または noguchi@hoku-iryo-u.ac.jp)までご一報下さい。よろしくお願いします。
 最後に一つだけ、一昨年の5月から続いている薬草園便りのバックナンバーを本学の薬草園のホームページ内のMaruho健康ランド(アドレス:http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~maruho/index.html)に一部アレンジして掲載してありますので、興味のある方はぜひアクセスしてみて下さい。

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2001年 4月 <カロチン大将軍・ニンジン>

薬学で「ニンジン」というとウコギ科のオタネニンジン(高麗ニンジン)Panax ginsengのことですが、野菜の「ニンジン」は薬用ニンジンとは全く異なりセリ科の1〜2年草のことです。「ニンジン」という名は、先に述べたウコギ科の薬用ニンジンの根に似ていることに由来しているのです。「ニンジン」の野生型はノラニンジン(野良人参)と言われており、8〜9月ころにセリ科特有の白い花を咲かせます。札幌からあいの里経由で通勤されている方なら読売新聞社の建物があるあたりを通過する時に容易に見つけることができます。もちろんその他の色々な所に群生している植物です。このノラニンジンは、根が黄白色で、野菜のニンジンのようにオレンジ色にはなりませし、食用にすることはできません。このようなニンジンの野生種の原産地はアフガニスタンのヒマラヤ山脈とヒンズークシ山脈の合流する山麓地帯であるとされており、アフガニスタンで栽培化され東西に広がり、金時ニンジン、大長ニンジンなどのように長い根の東洋系の「ニンジン」と五寸ニンジンに代表される短根の西洋系の「ニンジン」になったのです。日本への伝来は、江戸時代初期の『多識編』という文献に初めて「ニンジン」が登場していることから、17世紀前半にであったとされています。もっとも最初に伝来したのは長い根の東洋系の品種であり西洋系の「ニンジン」ではありません。西洋系の「ニンジン」が伝来したのは江戸時代後期だったようです。品質的には東洋系の「ニンジン」の方が上なのですが、明治以降、長根で収穫しにくいので、短根で扱いやすい西洋系の「ニンジン」に主役の座を奪われたのです。
「ニンジン」に含まれている代表的な有用成分は、なんと言ってもβ-カロチンです。β-カロチンは動物体内に取り込まれるとビタミンAに変化するのでプロビタミンAとも呼ばれます。「ニンジン」に含まれているβ-カロチンの量はビタミンAに換算すると約1万3000IU(国際単位)と野菜の中でずば抜けて高い量なのです。ちなみに「ニンジン」1/2本(80g)で大人一人の一日あたりの所要量の1.5倍に達する量のβ-カロチンが含まれているのです。また「ニンジン」にはβ-カロチンの他にα-カロチンという物質も含まれており、数ある野菜の中の「カロチン大将軍」と言っても良いでしょう。これまでの薬草園便りで何度かお話ししてきた通り、カロチン類には生体内で発生するフリーラジカル(活性酸素)をトラップする働きがあるので、癌予防に効果があります。その他にも視覚、聴覚、生殖機能維持、免疫機能を高める作用も報告されています。
カロチンは水には溶けず、油に溶けやすい性質がある上に比較的熱に対して安定であるので、油を使って調理する方が効果的にカロチン類を摂取できます。
その他に水溶性の食物繊維ペクチンも含有されており、これには余分な中性脂肪を体外に排出する働きがありますから、血管を正常な状態に保ち、高血圧、動脈硬化の予防にも役立ちます。
「カロチン大将軍」である「ニンジン」のただ一つの欠点は、「ニンジン」の細胞にはビタミンCを酸化して還元作用(活性酸素を除去する能力)を失わせるアスコルビナーゼという酵素が含まれているということです。アスコルビナーゼは空気にふれると働きだしますから、生ニンジンのすり下ろしやそのジュースは自身のビタミンCを破壊するだけでなく、その他のいっしょに用いた野菜や果物に含まれるビタミンCをも破壊してしまいますのでご注意下さい。なお、このビタミンC分解酵素、アスコルビナーゼは2分間加熱するか酸(たとえば酢)を加えると失活します。

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2001年3月 <にら>

 薬草園便り3月号の話題は「にら」です。
 「にら」はユリ科の多年草で、原産地は東アジア(中国を含む)といわれており、歴史的には3000年以上前から利用されており、かなり古くからある野菜の一つです。中国、韓国、日本では栽培されているものの欧米での栽培はなく代表的な東洋の野菜といえます。日本では70 0年ごろから栽培されており、『古事記』に「加美良(かみら)」、『万葉集』に「久君美良(くくみら)」などという呼び名で記述されています。後にもお話ししますが、「にら」には豊富な栄養素が含まれているため、昔から粥などに入れて薬膳料理のように使われていましたが、特有の臭いがあるため戦前まではそれ程利用されてはいませんでした。戦後、ギョーザなどに代表される中国料理が普及するにつれて需要が急増しました。ちなみに漢方では種子(韮子)を強壮、強精剤に使います。
 「にら」に含まれる代表的な栄養成分は硫化アリル、β-カロチン、ビタミンE、カリウム、食物線維の5つです。硫化アリルは薬草園便りで何度も登場(ナマネギ、ネギ)している通り、ネギ類に共通して成分であり、血液の凝固を抑制する作用があり、動脈硬化や血栓予防に確実な効果が得られ他、エネルギー代謝に重要な働きを示すビタミンB1の吸収率を高める作用もあり、慢性疲労の回復、筋肉疲労の解消に役立ちます。一方、香り成分の硫化アリルには胃液の分泌促進作用があるので、消化吸収も良くなります。また、「にら」にはホウレンソウを上回るβ-カロチンが含まれており、このβ-カロチンがビタミンEと相乗的に働き、癌の原因の一つであるフリーラジカルを無毒化して体外に排泄するため免疫機能を高めて癌の予防、老化の防止に効果を示します。その他、β-カロチン には視覚、聴覚機能を維持する作用もあります。昨年の薬草園便り10月号の「ハクサイ」でもお話ししましたが、「にら」に含まれているカリウムはナトリウムの排泄を促しますし、先に述べた硫化アリルが血行を促進するので、高血圧の予防に役立ちます。
 食物繊維の働きは皆さんもご存知の通りで、腸をほどよく刺激して、便を適度なやわらかさにして自然な排便を促します。日本人の腸の長さは西洋人のそれと比較してかなり長いのですが、肉食が多くなるとどうしても長い腸の中に腐敗した動物性蛋白質が滞留することになります。栄養分を吸収し終えた動物性蛋白質はできるだけ速やかに排泄されるべきであり、「にら」に限らず、食物繊維を摂取することは腸の長い日本人にとっては健康を維持する上でとても重要なことです。
 ところで、「にら」といえば、一番最初に思い浮かべる料理はやはり「レバーにら」でしょうか。レバーに豊富に含まれるのはビタミンB 群ですが、先にも述べたように、「にら」に含まれる硫化アリルにはビタミンB1の吸収率を高める作用がありますから、「レバーにら」を食べるとビタミンB 群の体内滞留時間が大幅に上昇することになり、従って疲労回復効果が持続することになります。このように「レバーにら」は「にら」と「レバー」の食効をお互いに高めあっていることがわかります。
 「にら」は畑のヘリに土止めとして植えられるほど手間がかからない上、生命力がおう盛で一株から10回程収穫できます。家庭菜園などで新鮮な「にら」を栽培してみてはいかがでしょうか。

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2001年2月 <山の芋>

 皆さん、寒い日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか。風邪などに注意して年度末、頑張りましょう。
 さて、薬草園便り2月号の話題は「山の芋」についてです。山の芋はヤマノイモ科、ヤマノイモ属のつる性の植物のうち、栽培作物として発達したものの総称で、世界に六百種類もあるのです。日本では、サツマイモ(ヒルガオ科)やジャガイモ(ナス科)が無かった時代には、いも=「山の芋」のことでした。山の芋、やまと芋、長芋、いちょう芋、自然薯(じねんじょ)、大薯(だいしょ)などさまざまな呼び名がある上にいろいろな地方によってもさまざま呼び名があるため、かなり混乱します。例えば、関東で山の芋といえばいちょう芋のことであり、関西では、つくね芋のことをさします。日本で栽培または自生している山の芋には、長芋、大薯、自然薯の三種類があります。農林水産省(省庁再編後の名称はまだ覚えていません)の統計資料でもこの三種類を「山の芋」と呼んでいます。
 長芋の仲間にもその形状から、長形種を長芋、扁平種をいちょう芋、塊状種をつくね芋と呼んでいます。この三形態がいわゆる長芋と呼ばれている基本タイプなのです。三形態のうち最も粘質物の少ないのが長芋で、その産地は青森、北海道、長野、秋田、山形、茨城、鳥取、宮城などで山の芋の栽培面積の63%を占めます。扁平種であるいちょう芋には銀杏の葉に似たいちょう形、ばち形、棒状形と色々な形がありますが、一般的にはばち形が好まれています。いちょう芋の粘性は長芋とつくね芋の中間に位置しています。産地は埼玉、千葉、群馬、茨城、神奈川など関東地方に多く、長芋全体の26%を占めています。つくね芋の形態は前者二種とは異なり、球形をしています。黒い皮の加賀丸芋、丹波芋、白い皮の伊勢芋があり、いずれも粘性が高く濃厚な味です。長芋全体の11%を占めています。
 大薯は南九州や四国で作られていますが、その生産量はそれほど多くはありません。品質は淡泊ですが粘性は非常に高いのが特徴です。
 自然薯は長形で直径2〜3 cm、長さ30〜70 cmで頚部が細く、粘性もアクも強いのが特徴です。漢方では乾燥したものを「山薬(さんやく)」といい、古くから下痢止めや健胃薬、強壮剤として利用されています。
 さて、この山の芋、主成分は糖質ですが、でんぷん分解酵素ジアスターゼが含まれるので消化がよく、芋と称せられるものの中で唯一、生で食べることのできる芋なのです。いちょう芋はたんぱく質が多く、自然薯は糖質が多めに含まれています。長芋は最も低エネルギーです。また、山の芋をすりおろすと粘り気がでますが、この粘り気の成分の一つはムチンと呼ばれる物質で胃の粘膜を保護するので、胃炎や胃潰瘍を防止します。山の芋は別名「山のうなぎ」とも呼ばれることがあり、精のつく食べ物として知られています。これは、ムチンがたんぱく質の代謝を無駄なくスムーズにさせるためと他の栄養素の消化吸収を良くし身体の回復力を高めるためです。さらに山の芋は食物繊維が豊富な上に100 g 中には約500〜600 mg のカリウムが含まれているため、大腸ガンや高血圧の予防にも効果があるとされています。このように、山の芋は精つく上にダイエット効果もありそうですし、なかなかの優れ物であると私は思っています。山の芋をすりおろしたものを「とろろ」といいますが、そのネバネバを嫌う人もいるかと思いますが、淡泊な味の「とろろ」は刺し身用マグロと合わせて山かけにしたりお蕎麦と合わせてとろろ蕎麦で食べたり、色々な食べ方ができるので、今まであまり好きでなかった人も健康食の一つとして見直してみるのも良いのではないでしょうか。
 ところで昨年12月28日に薬用植物園のホームページ上に『遊歩道の花たち』をアップしました。本学に長年勤務されている方であっても薬用植物園裏の広大な保安林の中にどんな花たちが一年を通して咲くのか、知ってらっしゃる方はそう多くはないと思います。残念ながらここ2年間でとった写真の70%程しか入力できませんでしたが、よろしかったらアクセスしてみて下さい。

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2001年1月 <ネギ>

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年も健康に関する情報をたくさん用意しておりますので、薬草園便りをよろしくお願いします。また薬草園、温室、遊歩道の植物に関する情報を薬草園のホームページ(http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~yakusou/index.html)上や薬草園便りでたくさん提供させていただきますので、多くの方のご利用をお願い申し上げます。
 さて、21世紀最初は【ねぎ(葱)】のお話しです。
 ネギはユリ科の多年草で原産地は不明とされていますが、どうやら中国西部あたりとされており3000年以上の歴史をもつ古い野菜の一つです。日本には8世紀に渡来し、耐暑、耐寒性があり適応性に優れているため江戸時代中期には重要な野菜として全国各地で栽培されていました。ちなみにヨーロッパには16世紀に、アメリカには19世紀伝わりましたが、すでにタマネギが広く普及していたためあまりポピュラーな野菜として認知されなかったようです。昨年の薬草園便り9月号のタマネギの歴史とは大きく異なっているようです。全国各地で栽培されているネギですが、その地方ごとに特徴ある品種が分化しています。耐寒性のある「加賀群」、耐暑性のある「九条群」、両者の中間に位置する「千住群」の三系統に分類されます。加賀、千住群は根元に土寄せして軟化栽培し、白根のみを食用とする「根深ネギ」で、九条群は暑さに強く、土寄せしないで育て、葉を食用にする「葉ネギ」です。
 次にネギの栄養成分についてですが・・・。根深ネギと葉ネギとでは食用部分が異なるので、当然その成分値が異なりますが、皆さんはどちらの方が栄養的に優れていると思われますか?・・ 緑の葉にはカロチンやビタミンCが多く、カルシウムやカリウムなどのミネラル分も多く含まれているので、実は緑の葉の多い葉ネギの方が栄養的に優れているのです。ちなみに緑色の濃い葉ネギに含まれるカロチンの量はグリーンアスパラを上回っていますし、ビタミンCの量もアボガドを上回っていることはあまり知られていないことではないでしょうか。
 さて栄養的に少し劣っている根深ネギですが、葉ネギには負けないくらい身体に良い成分を含んでいるのです。根深ネギ特有の刺激性の芳香のもとは硫化アリルという硫黄原子を含む低分子有機化合物のせいなのでが、この硫化アリルという化合物には殺菌作用や抗菌作用、身体を温める作用があるのでかぜの予防に非常に適しています。また血液をサラサラにする作用もあるので、血栓の予防効果も期待できます。さらにこの硫化アリルは消化液の分泌を促し、食欲を増進させ、肉や魚の生ぐささを消す作用もある他、体内でビタミンB1と結合してその吸収を良くするのでエネルギー代謝をスムーズにするので疲労回復にも役立ちます。まあ根深ネギ、葉ネギ両者とも健康に良いことは間違いなさそうですし、風邪の流行る今の季節にはもってこいの野菜のようです。昨年の12月号でもお話ししましたが、ネギや白菜たっぷり入った【鍋】は風邪の予防に効果がありそうです。実際に風邪の初期症状(鼻水がでる、ちょっと寒けがする)のある時には、ネギのみじん切り、生姜の絞り汁、大根おろしに熱湯をかけ、醤油か梅干しの梅肉で味付けして飲むと効果があります。もちろん飲んだあとはすぐに布団に入って眠ることもお忘れなく。

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2000年12月 <鍋>

 「真鱈」、「鮭」、「牡蠣のむき身」、「カニ」、「エビ」、「骨付き鳥肉」、「キャベツ」、「白菜」、「春菊」、「ネギ」、「大根」、「しいたけ」、「マイタケ」、「エノキ」、「シメジ」、「豆腐」、「厚揚」、「昆布」、「鰹」、「味噌」ときたら皆さんはいったい何を思い浮かべるでしょう?・・・。そうなんです、タイトルにもありますが、全てこれからの季節にぴったりの料理、鍋料理に使われる食材なんです。今月は身体に良い野菜のお話しはお休みにさせていただき、冬になるとどうしても食べたくなる鍋料理のお話をします。春から秋にかけて太陽の日差しをいっぱいに浴び、大地からたくさんの栄養分をもらってすくすくと育った野菜たち・・・。同じようにそれらを食べて成長した動物たちのお肉。海洋生物だって同じですね。秋にとれる魚や貝類はやはり非常に美味しいです。いずれにしても、どんな鍋の食材も春から秋にかけて太陽と大地のめぐみをいっぱいに受けて育ったものばかりです。言い換えるならば秋に収穫される食材の一つ一つが太陽や大地からもらった【生命エネルギー(気)】で一杯で、そしてそれらが一同に会する場所が鍋なのです。ということは、鍋料理の【鍋】の中は生命エネルギーが一杯の料理なのでは・・・と言ってしまうと少し飛躍し過ぎでしょうか・・・
 鍋料理の【鍋】ではなく調理器具としての【鍋】の歴史は相当古く、人類が火を使って調理することを覚えた時から始まります。早くから金属文化の発達した中国などとは異なり、日本では縄文時代の土器から土師器(はじき=素焼き土器)、陶器の鍋へと変遷を重ね、平安時代あたりから鉄製の鍋が登場します。ここで土師器(はじき=素焼き土器)というのが実は鍋料理を作る調理器具として重要なポイントとなります。今でも本格的な鍋料理を作る時に用いられるのは土鍋です。実はこの土鍋という代物は熱の伝動が非常に悪く、鉄製の鍋に比べると沸騰にはとても時間がかかります。しかしながら、それだけに加熱が穏やかになるという特徴があります。その上、熱容量も大きく保温力もあるので土鍋は、生命エネルギーに満ちあふれた食材中に含まれる大切な栄養素の熱による変化を最小限に抑える調理器具であり、鍋料理には欠くことできないものなのです。
 さてとても美味しい鍋料理ですが、ここでその中にどのくらい身体に良いものが含まれているかを本稿の冒頭に述べた食材を例にして、代表的な栄養成分に限って(もちろん一つ一つの食材にはここで取り上げた以上の栄養成分が含まれていることは言うまでもありません)ピックアップしてみます。
 「真鱈」には良質のタンパク質やビタミンA、 ビタミンD、 交感神経を抑制して高血圧を改善するタウリンが、「鮭」には良質のタンパク質の他に動脈硬化の予防に良いとされるEPAやDHA、 ガン予防に効果のあるとされる身の赤い色素、アスタキサンチン、 各種ビタミン類(ビタミンB1, ナイアシン, ビタミンB2)が豊富に含まれています。「牡蠣のむき身」にはやはり良質のタンパク質が含まれる他、牛乳に匹敵するミネラル分(吸収の良いヘム鉄、亜鉛)やタウリン。「カニ」や「エビ」にはタウリン、その殻にはがん抑制作用のあるキチンやキトサン。「骨付き鳥肉」にはビタミンAや老化を防ぎガン予防が期待されるコラーゲン。「キャベツ」には胃炎や胃潰瘍の予防に大変効果的であるとされるキャベジン(ビタミンU)や L-グルタミン酸が大量に含まれる他、美肌効果のあるビタミンC や、イライラを解消する働きやカルシウムも多く含まれています。その他にガン予防に大きな効果があるインドール化合物やイソチオシアナートが、「白菜」にはキャベツと同様やはりビタミンC やミネラルであるカルシウム、カリウム、マグネシウム、 イソシアネートなどが豊富に含まれています。「春菊」には腸管からのコレステロール吸収を抑制して血中コレステロール値を低下させる食物繊維、β-カロチンの他に鉄分やカルシウム、胃腸の働きを促進させ胃のもたれを解消してくれるペリルアルデヒドやα-ピネンも含まれています。「ネギ」はビタミンC が驚くほど豊富(アボガドに匹敵する)でその他に殺菌作用や抗菌作用が高くかぜの予防にも効果的な硫化アリル、葉の緑の部分にはβ-カロチンがいっぱいです。「大根」にはビタミンC やイソチオシナートが含まれます。「しいたけ」、「マイタケ」、「エノキ」、「シメジ」などのキノコ類にはガン予防効果の高いβ-グルカンや食物繊維が含まれていますし、「しいたけ」にはビタミンD前駆物質であるエルゴステリンが含まれており骨粗しょう症予防にもってこいの食材であることは皆さんご承知のことと思います。「豆腐」、「厚揚」にはやはり良質の植物性タンパク質やオリゴ糖やポリフェノールの一種であるイソフラボン、生活習慣病予防効果の高いとされる大豆サポニン、グリシニン、レクチンが含まれています。また鍋料理の出汁をとるのに必須である「昆布」はカリウム、マグネシウムなどのミネラル分や食物繊維、β-カロチンなどが豊富です。
 まあざっと上げただけでも健康に良い栄養成分で一杯であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
 さらにおもしろい事があります。私の専門は天然物有機化学ですが、大きなフラスコを使ってよく植物などから色々な成分を抽出することがあります。色々な植物をフラスコに入れて水やアルコールなどの有機溶媒を使ってグツグツ煮て行う事が多いのですが・・・。鍋料理の調理器具である土鍋をフラスコと置き換えてみると、鍋料理というのは色々な食材から水を使って健康に良い栄養成分を抽出していることに他ならないのです。栄養成分の多くは有機化合物ですし、これは正に天然物有機化学の最高傑作と言わざるを得ないのです。なんたって誰もが美味しく食べることができるのですから・・・
 栄養成分の中にはビタミンCなどのように熱に弱い物質も多く、先に述べたように土鍋を使う理由も論理的に説明できます。
 鍋料理を漢方薬の視点から見てもおもしろいことに気がつきます。漢方薬の多くは色々な生薬を混ぜ土瓶を使って煎じて(水を使って抽出する)飲むことが多いのですが、これは鍋料理と共通する点であると思います。このようにして天然物有機化学、漢方の視点から鍋料理を眺めてみるとそのスープには先に述べたような健康に良いアイテムがいっぱい溶け込んでいることが容易に分かります。薬は病気になってから飲むものですが、鍋料理というのは病気にならないように食べる(スープは飲む)ための『究極の薬膳』と言ってしまっては言い過ぎでしょうか・・・
 「鍋料理は塩分(食塩)を摂取し過ぎるのでは・・・」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。もちろん色々な病気で塩分を制限されている方はきちんと塩分をコントロールしなければならないことは言うまでもないことです。しかしながら、多くの健常人の方はそれほど心配することはないのです。先に述べたように鍋料理に使われる多くの野菜や昆布などにはカリウムがいっぱい含まれています。カリウムがナトリウム(食塩=NaCl)を排泄して塩分を過剰にとるリスクを軽減させるので、「キャベツ」、「白菜」、「春菊」、「ネギ」などの野菜をいっぱい使った鍋料理は塩分の取りすぎのリスクよりも、健康に良い栄養成分を摂取するメリットの方が大きいのです。とかく日本人は「○○○は身体に良い」という事を耳にするとそれだけをたくさん食べたり飲んだり(例えば赤ワインなど)しがちな民族ですが、何事も「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」で食事についても例外ではありません。その点鍋料理は色々な栄養成分がまんべんなく入ったまさにバランスのとれた理想的な料理であることは明らかです。
 さらに一つだけ。鍋料理には栄養成分以外にも免疫力を高める非常に有効な作用があることを皆さんご存知でしょうか。それは鍋を食べる時には『笑いや笑顔』があるということです。皆さんが鍋料理を食べる時はお一人で食べることはほとんどないと思います。どんな人と食べることが多いのでしょう?少なくともあまり気の合わない人と食べることはほとんどないのではないでしょうか。やっぱり鍋料理を食べる時には家族や気の合った仲間、友人などと楽しい話題を肴にして食べるというのが一番ピッタリの料理です。少量のアルコールなども口を滑らかにさせ、楽しいおしゃべりに役立つアイテムの一つになります。 私の専門ではありませんが、ストレスが一番免疫力を低下させると言われています。楽しい事や笑いはNK細胞を活性化させて免疫力を高めると言われています。鍋料理というのは色々な角度からやはり一番の『薬膳料理』であると私は思っています。これからはどんどん寒くなっていきますが、楽しい仲間と鍋をつつきながらインフルエンザや風邪を予防しましょう。もちろん、いくら鍋料理が健康に良いと言ってもお酒の飲みすぎはいけません。
 飲ん兵衛さんは飲みすぎにちょっとだけ気をつけて!
 2000年最後の薬草園便りはとても長くなってしまいました。いたらぬ部分もあろうかと思いますがお許し下さい。なにかお気づきの点がありましたらメールででもご指摘いただければ幸いです。先月沖縄へ行って、名護市の海洋博公園内にある植物園の園長さんに実のなる植物をいっぱいいただき、また温室の管理の仕方(亜熱帯性の植物管理)をびっしり教えていただきました。2〜3年かけて温室内の植物たちを今以上に充実させますので楽しみにしていて下さい。
 本年度も薬用植物園をご利用いただきありがとうございました。来年度もよりいっそう発展させていく所存ですのでよろしくお願い申し上げます。
 最後に一つだけ。薬草園便りのバックナンバー(少しだけ編集してあります)を今年の10月に薬用植物園のホームページ(http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~yakusou/index.html)上の『Maruho健康ランド』に掲載いたしました。興味のある方はどうぞアクセスしてみて下さい。
 それでは皆さん、良いお年をお迎え下さい。

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2000年11月 <ジャガイモ>

 今月は旬の野菜というには少し時期はずれではありますが、多くの人に好かれている「ジャガイモ」についてお話しします。「ジャガイモ」(馬鈴薯、ジャガタライモ)はナス科の植物で学名はSolanum tuberosum L.です。原産地は中米から南米のアンデス山脈の当たりと言われています。1526 年スペイン人の征服者ピサロによってスペインに持ち込まれましたが、ヨーロッパではその後長い間観賞用として栽培されていました。ちなみにルイ16世の王妃は帽子の縁にジャガイモの花枝を飾っていたそうです。食用作物として栽培されるようになったのは17世紀のアイルランドで、小麦やライ麦の数倍の収穫高を誇るジャガイモは戦争や飢饉などで荒廃した畑に広く植え付けられたのです。現在、世界各国では二千種類以上の品種が栽培されており、世界の五大食用作物(小麦、水稲、大麦、とうもろこし、じゃがいも)の一つとされています。日本へは江戸時代初期の慶長年間(1596〜1615 年)にオランダ船によって長崎にジャガタラ(現ジャカルタ)港から運ばれてきたのが一番初めとされています。このジャガタラという地名がジャガタライモの呼び名になり最終的にジャガイモという名に落ち着いたのです。一方、北海道には江戸時代の寛政年間(1789〜1801 年)に長崎とは別の品種がロシアからサハリン経由で伝えられました。日本でもアイルランドと同じように、天明、天保の飢饉の時に、多くの人たちの命を救ったことでその価値が認められ、さらに明治初期に北海道の開拓が始まり多数の新しい優良品種が導入されてから広く日本中に普及しました。日本では現在二十品種が栽培されていますが、「男爵」と「メークイーン」の二種類で生産量のほとんどを占めています。
 ホクホクとした味わいが特徴である「男爵」は、明治40年ころ、函館地方の農場主だった川田龍吉男爵がイギリスからアイリッシュ・コブラーという品種を導入し、栽培したことから男爵イモと呼ばれているのです。メークイーンは大正年間にイギリスから輸入された品種で通常甘味が強く、低温のところに置くとさらに甘味が増します。きめこまかな粘質で煮崩れしにくいため色々な料理に広く利用されています。
 ジャガイモの主成分はもちろんデンプンを主とした糖質ですが、100 g 当たり77Kcalで、ご飯の半分程度の低カロリーであることをご存知ですか?またビタミンCが豊富に含まれていることもあまりよく知られていないことではないでしょうか。ジャガイモに含まれるビタミンCの含量は100g 中約 23mgとミカンの 70% にものぼります。その上、他の野菜(白菜、キャベツ、ホウレンソウなど)のビタミンC は熱に弱いのに対して、ジャガイモのビタミンC は比較的熱に強いのが大きな特徴です。これはジャガイモのビタミンC がデンプンに包まれているからなのです。このことは、加熱によるビタミンCの損失が少ないことを意味しており、ジャガイモが多量に食べられる点をも考慮すると、ジャガイモが大切なビタミンC の供給源として大切な値菜の一つであることが分かります。ただし、ジャガイモの貯蔵の仕方でもビタミンC の含量が変る事も覚えておかなければなりません。3〜5℃で保存がベストでそれ以外ではビタミンC の含量が大きく減少してしまいます。またジャガイモには免疫力を増強し、微生物やガン細胞を排除する作用のあるレクチンというたんぱく質も含まれている他、食物線維も含まれるため大腸ガンの予防にも効果的です。その他含量は多くはないですが、ビタミンB1やカリウムも含まれています。
 ジャガイモの芽にはソラニンというアルカロイドが含まれおり食中毒の原因になるのでこの部分を除去して食べなければならないことは皆さんご存知の通りですが、ジャガイモの発芽を抑えるためにリンゴ1個を混ぜて保存すると、リンゴの発生するエチレンの作用である程度発芽を抑えることができることはあまり知られてはいないのではないでしょうか。

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2000年10月 <白菜>

 10月になりました。いよいよ私の大好きな白菜(ハクサイ)が出回る季節になってきました。「白菜」といえばイコール【鍋】を連想するのは私だけでしょうか(ちなみに私は鍋が大好きです。)。今月号は色々な【鍋】のわき役にして欠かすことの出来ないこの白菜をとりあげてみます。
 原産地は中国北部で、野生の植物からではなく、アブラナ科の野菜のタイサイ類とカブ類が自然交雑して、不結球性の白菜の原形ができたと推定されています。中国では11世紀ごろの『本草図経』に記録があり、現在最も栽培量の多い野菜です。日本でも大根、キャベツについで、栽培面積も生産量も多く、日本人の食生活に深くとけ込んでいることは誰もが認めるところではないでしょうか。この白菜、日本での歴史は以外な程浅く、初めて導入、試作されたのは1875年(明治8年)なのです。その後、日清戦争(1894〜95)、日露戦争(1904〜05)の時に出征兵士が中国から結球型の種子を持ち帰り、各地で栽培されて急速に普及したのです。
 さて西洋のキャベツに対して、東洋を代表する葉菜である白菜は成分的にはやはりキャベツと似ています。水分が95〜96%ですが、色々な栄養素が微量ながらまんべんなく含まれています。ビタミンC やミネラルであるカルシウム、カリウム、マグネシウム他にアブラナ科(大根、かぶなど)の辛味成分であるイソチオシアネートなども含まれています。一般的には、塩(主成分は塩化ナトリウム)を多量に使う漬けものは血圧が上がるとされていますが、白菜漬けの場合には、白菜に含まれるカリウムがナトリウムを排泄して、塩分を過剰にとるリスクを軽減させます。イソチオシアネートは薬草園便り5月号でもお話ししたように、がんや動脈硬化を予防するといわれています。
 白菜をたくさん食べて、白菜の水に溶けやすい栄養素を効果的に摂取するためには鍋もの、肉や魚とのスープ煮などにしてスープ、汁ごと食べてしまうのがおすすめです。個人的な好みで言えば何度食べてもあきないのは、やはり【鍋】ではないでしょうか。

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2000年9月 <タマネギ>

 今月の話題は9月くらいから北海道でも出回り始める「タマネギ」です。「タマネギ」はユリ科の多年草葉菜で、原産地は北西インド、タジク、ウズベク、天山の西部地区などの中央アジアからとされています。エジプトからヨーロッパ各地に広まったようです。古代エジプトには早く伝わり、一般的な食べ物として普及しました。ピラミッド建設の際には、奴隷に「ニンニク」、「ダイコン」とともに「タマネギ」を食べさせたという碑文もピラミッド残っており、体力をつけるために重要な食べ物の一つであったようです。その後、地中海地方を経てヨーロッパ全域に広まり、特にドイツやイギリスでは重要な野菜として扱われ、1347 年にヨーロッパで疫病が大流行した時に、ロンドンのタマネギとニンニクを売っている店では伝染を免れたといわれています。「タマネギ」が日本に入ってきたのは 1700 年頃ですが、当時のものは土着せず。 1870 年頃欧米から種子が導入され、北海道に土着しました。その後 100 年を経て日本は中国、インド、アメリカについで世界4位のタマネギ生産国になっているのです。
 日本の品種はほとんどが辛タマネギで、目や鼻を刺激するにおいと辛味は、硫化アリルというイオウ原子を含んだ非常に揮発性の高い有機化合物です。加熱すると硫化アリルが変化して糖質と反応して甘味が出てきます。またこの硫化アリルという有機化合物はネギ類に共通の成分で血液の凝固を抑制する働きがあり、生で使った時にその効果を最も発揮し、動脈硬化や血栓予防に確実な効果が得られます。さらに硫化アリルにはエネルギー代謝に重要な働きを示すビタミンB1の吸収率を高める作用もあり、慢性疲労の回復、筋肉疲労の解消に役立ちます。さらに、タマネギに含まれるアリルメルカプタン、アリルメチルスフィドなどのイオウ含有物質や、ケルセチンというポリフェノールには発がん抑制作用があります。その他生タマネギにはカルシウム、リン、セレンなどのミネラルが含まれており、血液中の有害物質を清める働きがあるとされています。
 タマネギを薬膳料理の食材の一つとみなすならば、生のタマネギが最も人の身体に良いと言えます。スライスしたタマネギを長い間水にさらしておくと、辛味が消えてしまいますが、食材としての効能という点から見ると、抗血栓作用などの有効性は辛味の消失とともに失われていくと考えた方が良いでしょう。従って、ある程度の辛味を残した生のタマネギを食べるのが身体に良いと言えます。ただし、あくまでも食材の身体に対する効能の観点からだけで、食味とは別の視点であることは言うまでもありません。

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2000年8月 <アスパラガス>

 今月の話題はちょっと時期が過ぎてしまいましたが、初夏のごく限られた時期に旬を感じさせてくれる「アスパラ」です。南ヨーロッパから西アジアにかけてがアスパラガスの原産地で、紀元前の古代ギリシャ・ローマ時代から栽培されており、疲労をいやしスタミナをつける野菜として知られてきました。日本へは江戸時代中期(1780 年)観賞用植物としてオランダ人によって長崎に伝えられました。食用としては明治時代にアメリカから移入したものが横浜、神戸などで栽培されましたが、本格的な栽培は 1923 年(大正 12 年)、北海道岩内町で始まり(ただし、当時はホワイトアスパラガス)、翌年には缶詰め工場も企業化されました。食用にするのは若茎で、軟化栽培した白茎(ホワイトアスパラガス)と、そのまま成育させた青茎(グリーンアスパラガス)の二つの種類があります。ホワイトアスパラガスはもっぱら缶詰め用でしたが、最近では生のものも出荷されています。グリーンアスパラガスは、甘味と香りと、シャッキとした歯ざわりが特徴で生の時は苦味がありますが火を通すと消えます。
 栄養的にはホワイトアスパラガスよりグリーンアスパラガスの方が優れています。ビタミンA, B1, B2, C がバランスよく含まれており、特にグリーンアスパラガスに含まれるカロチンの含量は多く、代表的な緑黄色野菜の一つです。またスタミナドリンクでおなじみの成分、アスパラギン(アミノ酸の一つ)が豊富に含まれており体内エネルギー代謝や窒素代謝を高めることによって体内にたまった乳酸などの疲労物質が取り除かれ、肩凝り解消や疲労回復に即効性を発揮します。ちなみにアミノ酸の一つであるアスパラギンは最初、この植物から発見されたのです。また、グリーンアスパラガスの穂先にはポリフェノールの一種、ルチンという物質が豊富に含まれていて、このルチンが毛細血管の弾力性を高め、血行をよくするため、血圧を下げる効果が期待されます。
 アスパラガスは生のまま保存すると、急速に味が落ちるので、すぐに使い切ることをおすすめします。
 北海道の夏は本当にあっという間に過ぎ去っていきます。暑い暑いと思う期間もせいぜい7月中旬から8月はお盆まででしょうか。春先にたくさんの花をつけていた薬草園の植物たちは実をつける季節です。実をつけた植物たちを見ていると、もうすぐ終わる夏とすぐにやってくる短い秋を感じさせてくれます。

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2000年7月 <トマト>

 今月の話題は鮮やかな色が食卓をにぎやかにして、通年使われる西洋野菜、「トマト」です。ナス科植物に属する「トマト」の原産地は南米のペルー、エクアドルの原産で、アンデス山脈の亜高地に生えていたとされています。ヨーロッパへはコロンブスの新大陸発見後、16世紀の初めにイタリアへ持ち込まれましたが、当初は食用ではなく観賞用に栽培されていました。日本にトマトが伝わったのは18世紀初めの貝原益軒の『大和本草』に「唐ガキ」と記されていることから17〜18世紀あたりとされています。食用としての栽培は明治時代以降で、昭和10年代には一般的な野菜として広く認知されていました。日本での消費量が急増したのは、太平洋戦争以後の事です。 トマトは、西洋では「トマトが赤くなると医者が青くなる」ということわざがあるほど保健効果の高い野菜として利用されています。トマト果肉の95%は水分ですが、ビタミンCやトマトの赤い色素であるリコペン、ビタミンA、ビタミンP(フラボノイド)、カリウムや微量金属であるセレンなども含まれているため健康を維持する上で非常に頼もしい野菜です。
 トマトは以前お話したダイコン、ミカン、キャベツなどのようにビタミンCが豊富に含まれ、生で食べることが多いので熱に弱いビタミンCを損失することなくたくさん摂取できるので夏バテの予防や疲労回復効果があり、血管を強くし、肌をきれいにするなどの効果が期待できます。フラボノイド(ビタミンP)が毛細血管を強化して高血圧を予防します。また微量金属であるセレンにはビタミンEと同様に過酸化脂質を分解する働きがあるので、肝臓ガンの予防や肝機能の改善に効果を発揮します。さらにトマトの赤い色であるリコペンには抗酸化作用があり、遺伝子や細胞を傷つけるフリーラジカルを捕捉するので、ガン予防に効果があります。その他に、クエン酸やリンゴ酸も含まれるので、薬草園便り2月号の「ウメ」の項でもお話した通りエネルギー代謝をスムーズにし、疲労回復を早めます。このように、トマトは代表的なビタミン食品であるばかりでなくアルカリ食品としても重要な位置を占めています。
 トマトは真っ赤になった完熟タイプほど栄養価が高くなるので、真っ赤になってから食べましょう。
 今年の薬草園の花たちは、大雪のせいか例年よりも花期が遅れていますが、7月には薬草園にラベンダーが咲き誇ります。夕暮れの時の太陽に照らされるラベンダーの濃い紫色は昼間のそれとは全く異なり、見るものに非常な落ち着きを与えてくれます。晴れた暑い日の午後、帰宅前、仕事の合間にちょっとだけ寄り道してみてはいかがでしょうか。

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2000年6月 <マメ類>

 今月の話題は「マメ類」です。マメ類が健康に良いことは皆さんもご承知のことと思います。私たちがよく口にするマメといえば、「黒豆」、「あずき(小豆)」、「えんどう豆」、「大豆」などではないでしょうか。
 「黒豆」は大豆の一種で種子表面が黒くなる品種のことで、日本では丹波産の黒豆が有名です。主成分は、タンパク質やビタミン E、B 群、カルシウム、鉄などで特にビタミンB1が多く含まれています。大豆と同様にグリシニン、大豆サポニン、レクチンが含まれるため、成人病予防に効果があります。
 「つぶしあん」や「こしあん」の原料として知られている「あずき(小豆)」の主産地は北海道で、その成分は以外に他の豆類と異なり、たんぱく質や脂質が比較的少なく、炭水化物の多いのが特徴です。特殊成分としてサポニンが含まれており、食物線維とともに便通をよくし、コレステロール値低下に効果的です。
 「えんどう豆」には緑色の皮を持つ青えんどう、褐色の赤えんどうなど色々な品種があります。成分はあずき豆に似て、たんぱく質やカルシウム、鉄、カロチン、ビタミンB2、食物繊維を多く含み、成人病予防に効果的です。
  King of Beans といわれるSoybean こと「大豆」は、米とともに日本人食生活を支えるとともに、古くから日本料理の重要な食材として利用されてきました。にもかかわらず、日本は世界でも最大の大豆輸入国であることを皆さんご存知でしょうか?毎年400万〜500万トンをアメリカ、中国から輸入しており、世界の全輸入量の20%程を占めているのです。
 それはさておき、「大豆」は『畑の肉』といわれるほど栄養価が高く、タンパク質、脂質を多量に含むだけではなく、無機質やビタミン類も豊富です。さらに、発酵によって、みそ、醤油、納豆が作られ、豆乳加工により豆腐、湯葉、さらに油揚げ、凍り豆腐などの食品が作られるので広く日本人の食文化に根づいているのです。
 一方、「大豆」を健康のための食品と位置づけてもおもしろい事が分かります。「大豆」にはグリシニンというタンパク質が含まれており、コレステロール値を低下させることが知られています。また、ポリフェノールの1つであるイソフラボンという物質も含まれており、これが女性ホルモン様の働きをして、更年期障害や骨粗しょう症の予防にも役立つ他、最近では、このイソフラボンと大豆サポニンという物質が大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンなどの発生率を低下させているという報告もあります。さらに、「大豆」に含まれる鉄分は体内への吸収率の良いヘム鉄で、血行を良くするビタミン E とともに貧血を予防します。などなど・・・、ここではお話しきれないほどです。
 私事になって恐縮ですが、私は子供のころから納豆が大好きで、納豆にすりたての大根おろしをかけて食べていることは昨年の薬草園便り10月号でお話した通りですが、ビタミン C 豊富な大根おろしと体にとても良い成分を含んでいる「大豆」から作られる納豆の組み合わせはとても良く調和されているのではないかと思ったりしています。納豆好きの方には一度ぜひ試していただきたいと思っております。
 さて、この薬草園便りを皆さんが手にする頃は、本薬草園が一番美しい季節です。中でもサルビアとシャクヤクがいっしょに咲いている時の美しさをぜひ見ていただきたいと思います。ちなみに、シャクヤクの花期はとても短いことを付け加えさせていただきます。
 また、6月18日(日)には「薬草園を見る会」を開催いたします。昨年までとはかなり趣向を変えてみました。生薬学教室のスタッフ並びに生薬学教室の呼びかけで手伝って下さる方達の手作りのハーブクッキーとオリジナルハーブテイーを用意してお待ちしております。他にも楽しいアイテムが満載ですのでぜひお越し下さい。

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2000年5月 <キャベツ>

 先月号でもお話したように、今月号からしばらくの間「ガンを予防する野菜たち」を特集していきたいと思っていますのでよろしくお願いします。一番バッターは先月号のガン予防に良い植物ピラミッドの中でも相当上位にランクされている『キャベツ』の色々な効能についてお話させていただきます。
 アブラナ科のキャベツ Brassica oleracea L. はヨーロッパの大西洋岸と地中海沿岸原産の越年草で、日本へは明治初期に渡来し、食用野菜として広く栽培されました。
 ところで、〈キャベジン〉という名前の胃腸薬をご存知の方はたくさんいらっしゃるでしょう。キャベジンの正式名はメチルメチオニンスルホニウム (methylmethionine sulfonium)で、別名ビタミンUとも呼ばれます。化学的にはアミノ酸の一種であるメチオニンの硫黄原子がメチル化された非常に反応性の高い化合物です。キャベジンには粘膜細胞に豊富なムコ多糖の構成成分であるヘキソースアミンを生成する作用があるため、胃粘膜を保護する働きがあります。生キャベツにはこのキャベジンが大量に含まれる他、キャベジンと同じ作用を持っている L-グルタミン酸が大量に含まれるため、胃炎や胃潰瘍の予防に大変効果的であるとされています。また、ビタミン C やカルシウムも比較的多く含まれており、ビタミン C は春菊の2倍、カルシウムはグリーンアスパラの2倍に及びます。美肌効果や、イライラを解消する働きがありそうです。その他にインドール化合物やイソチオシアナートなどが含まれており、これらはビタミン C とともにガン予防に大きな効果があります。
 ビタミン C などの水溶性化合物が多く含まれるため、水にさらし過ぎると体に役に立つ成分が失われるので注意して下さい。また、すでに潰瘍や胃炎がある場合には生キャベツの繊維が消化の負担になることがあるので、弱火でその他の食材と煮込んで食べるのがベターです。
 さて、皆さんが本稿を読まれる頃には薬草園の植物たちも活動始めているはずです。薬草園のHPを検索していただき、薬草園にお越しいただき、ぜひ5月の花たちを楽しんでいただきたいと思っております。

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2000年4月 < ガンを予防する野菜たち>

 昨年の5月からの薬草園だよりでは一貫して日本の香辛料(薬味)をとり上げ、人の健康との関わりについて焦点を当ててきました。ところで、最近の日本人を見てますと、あまりに不規則な生活リズム(夜更かしや運動不足など)で、安易な食べ物を食し、病気になると安易に薬に頼って、その結果、本来の免疫能力がどんどん低下している人が増え続けているように感じられるのは私だけでしょうか・・・? 最近の医療制度の改正によって、病気にかかるとお金がかかるようになってきました。月並みな事ですが、一番の"Saving Money " はやはり病気にならないことでしょうか・・・、ということで今月は私たちがふだん食べている食材や、今、非常に流行っているハーブやスパイスの人体に対する効果(ガンや老化の予防度)の指標(おおまかな位置づけ)について理解してみたいと思います。
 下の図はアメリカで1990年から行われた植物性食品によるガン予防を目的とした「デザイナーフーズ・プログラム」と呼ばれる研究において、ガン抑制効果が確認された食品リストの一部です。A, B, C の順にピラミッドの上部にある食品ほど予防効果が高いとされています。Aのグループには(ガーリック)、キャベツ、カンゾウ(甘草)、大豆、ショウガ(生姜)、にんじん、セロリなどが、Bのグループには緑茶、ターメリック、玄米、全粒小麦、亜麻、みかん、レモン、グレープフルーツ、トマト、なす、ピーマン、ブロッコリー。カリフラワー、芽キャベツなどが、Cのグループにはマスクメロン、バジル、タラゴン、ハッカ、キュウリ、タイム、あさつき、ローズマリー、セージ、じゃがいも、ベリー類などが含まれています。ここで注目したいことは、ふだん(毎日)私たちが食べている野菜や穀類の多くが今とても流行っているハーブや香辛料よりも相当上位にランクされているということです。香辛料の中でニンニク、カンゾウ、ショウガは相当上位にランクされていますが、いくらランクが上でもこれら3つだけを毎日おかずにして3食を食べるわけにいきません。また野菜に限っていえば野菜の中に含まれる発ガン抑制物質は、生のままより調理した方が細胞の中に含まれる成分が溶け出して効果が高くなることも分かっています。これは、人間には植物の細胞膜の構成成分であるセルロースを分解する酵素がないということを考慮すると当然のことですね。いずれにしても、毎日なにげなく食べている物の中に、健康を維持するためのアイテムがたくさんあることは明らかなようです。とかく日本人は何か健康に良いと言われると、それだけを集中して食べたり飲んだりしてしまう傾向があるように思います。発ガン抑制効果のあるβ-カロチンも、錠剤などで大量に摂取し過ぎると、逆にガンの促進に働く場合もあることがわかっています。食品の場合も、特定の食品のとりすぎは望ましくなく、やはり色々な食品をバランスよく食べなければいけません。
 以上の観点から、5月以降の薬草園だよりでは野菜や野菜以外の健康を維持するための食材、今流行りのハーブや香辛料(主に西洋)さらには香辛料と食材の関わりについての情報を提供していきたいと思っています。
 4月の中くらいから、いよいよ薬草園の植物たちも動き始めます。また、昨年できた遊歩道沿いにはエゾノリュウキンカ、ミズバショウの群落があります。例年ですと4月未から5月上旬が見ごろです。エゾノリュウキンカの黄色とミズバショウ白のおりなす色彩はとてもすばらしいです。ぜひ一度見に来て下さい。

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2000年3月 < 日本の香辛料7 ゴマ(胡麻)>

 今月は『日本の香辛料』その7としてゴマ(胡麻)をとり上げてみたいと思います。
ゴマ Sesamum indicum はゴマ科(Pedaliaceae)の60〜120cm の高さに直立する一年草です。原産地はインドネシアと熱帯アフリカです。ゴマの使用部位は種子であり、その種子の色により黒ゴマ、白ゴマ、黄ゴマ、金ゴマの4つに大別されます。日本では黒ゴマは胡麻和え、おはぎ、焼き菓子などに、白ゴマは胡麻油の材料や炒って種々の料理の香りづけに利用されることは皆さんもご存知のことと思います。日本の誇る代表的なドライ混合スパイスである七味唐辛子の中に胡麻が入っていることは昨年の薬草園便り6月号で述べた通りです。日本人の食文化にとても馴染んでいるこのゴマは奈良時代にはすでに重要な作物になっていたようでが、世界的に見るとその歴史は相当古く、B.C. 1600 年の昔にさかのぼります。チグリス - ユーフラテス河文明の発祥の時代に、ゴマの生産記録があり、食用油を採るために栽培された最古の作物であると言われています。
 エジプト語のゴマという言葉は "Sesemt " であり、B.C. 1550 年にかかれた長さ20m にも及ぶ巻物『エバース古文書』に記載されている医薬品リストの中にも "Sesemt " がでてきます。また、『千夜一夜物語』の中のアリババと40人の盗賊の話に出てくる不思議な呪文 "開けゴマ" のゴマという言葉からも、当時のイスラム世界でゴマが相当普及していたであろうことをうかがい知ることができます。蛇足ですがアラビアの預言者であり、回教の開祖、モハメッドは経験豊かなスパイス商人であったことを皆さんはご存知ですか?
 この辺で、話題をゴマの歴史からなぜゴマが太古の昔からヘルシー食品として愛され続けているのかについて変えてみたいと思います。ゴマには酸化を抑制し、老化を防ぐビタミン E や、動脈硬化を防ぐリノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が多く含まれ、血中脂質を調整する効果が高いことが知られています。さらに、ゴマ特有の抗酸化物質でゴマリグナンの1つセサミノールが過酸化脂質を除去することによって不飽和脂肪酸の働きをサポートすると共に細胞の老化や癌化を防いでくれます。また、ゴマは種実類の中で最も多くカルシウムを含んでいて、丈夫な歯や骨の形成に役にたつので骨粗しょう症の予防にも良いとされています。
 さて、昨年から長きにわたって日本の香辛料と食材などについて述べてまいりました。次号では私たちふだん食べている食材や今非常に流行っているハーブやスパイスの人体に対する効果(老化や癌化の予防度)の指標について述べてみたいと思います。

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2000年2月 < ウメ>

 『日本の香辛料』は今回はお休みにしてウメを話題にとり上げてみます。北海道では2月は真冬ですが本州では梅の花が咲きはじめ、もうすぐ春の訪れを感じさせる頃のはずです。ウメの学名は Prunus mume var. mune で原産地は中国の四川省から湖北省あたりとされています。日本には中国文化とともに薬木として渡来したとされており、奈良時代にはすでに栽培されていました。
 ウメの果実は薬から食品まで幅広く利用されています。未熟なウメの果実にはアミグダリン amygdalin が含まれており、生食すると有毒でが、未熟なウメの果実を薪などの弱い火と煙で薫蒸した後乾燥させたものを『烏梅』と呼び、漢方薬として駆虫、咳、下痢、血便、血尿に用いられます。また、梅干や、青梅エキスには下痢を止め、腸の調子を整える作用もあります。 1日1回1個の梅干し、あるいは1日1回30ml ほどの梅酒は疲労回復、健康保持に有効であるといわれています。
 ウメはカリウム、カルシウム、リン、などのミネラルに富み、カロチン、ビタミンCなども多く含まれます。特にクエン酸の含有量がレモンと並んで高く、エネルギー代謝をスムーズにし、疲労回復を早める働きがあります。またクエン酸の他にリンゴ酸もかなり含まれており、これらの有機酸が菌の繁殖を抑えるため食中毒を予防します。おべんとうのご飯に梅干しを1つ入れるとウメの抗菌作用で腐敗を防ぐ他、ウメの酸味が食欲を増進させます。私事で恐縮ですが、私の子供の頃よく食べていた日の丸弁当にはそんな意味があったのかと思うと、最近食べているシャケ弁当を昔ながらの日の丸弁当に戻してみようかと思ったりしてます。
 ちなみに本学薬草園奥の斜面にもウメの木があります。昨年は7月未に実をたわわにつけました。本学薬草園のホームページのウメをクリックしてみて下さい。たわわになったウメの写真を見ることができます。

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2000年1月 <日本の香辛料6 ミカン>

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年も薬草園、温室以外にも香辛料や健康に関する情報をたくさん用意していますので、よろしくお願いします。
 さて、2000年最初の話題は『ミカン(蜜柑)』からです。お正月はコタツでミカンを食べながら大学駅伝を見るというのが典型的な日本人のパターンではないでしょうか。ミカンという語の適用範囲は大きく以下の5つに分けられます。1) カラタチ、キンカンを含めたかんきつ類全体のこと、2) カラタチを除き、キンカンを含めた食用にできるかんきつ類の総称、3) カラタチ、キンカン以外のミカン属Citrus だけ(レモン、ブンタン、ナツミカン、オレンジ、ユズ)、4) 果皮のむきやすい(實皮性)のかんきつ類、5) ウンシュウ(温州)ミカンだけのこと。今回はお正月に欠かすことのできないウンシュウ(温州)ミカンについてお話します。ウンシュウ(温州)ミカンCitrus unshiu Markovich は千葉県以西の海岸地帯で栽培され、愛媛、和歌山、静岡、佐賀、熊本などが主産地です。生食が主であることはいうまでもありませんが、その果肉にはカロチノイドの一種である β-クリプトキサンチン、ビタミンC、カルシウム、ビタミンP(フラボノイド) を多く含んでいます。b-クリプトキサンチンは発がんを抑制する作用がありますし、ビタミンCはコラーゲンの生成を促進し肌を美しくするほか、抗ストレス作用があるのでイライラを改善します。またビタミンP(フラボノイド) には毛細血管を強化し、動脈硬化や脳出血を予防する作用があるので病気を予防するのに非常に良い食べ物の1つと言えます。もちろん、糖分もかなり含まれていますので食べ過ぎはいけません。
 また、熟したミカンの皮を乾燥させ1年以上経過したものは「陳皮」と呼ばれ重要な漢方薬の一つとして知られており、香港の漢方薬屋などでは10〜15年ものの陳皮は朝鮮人参より高い値段がつくほどです。陳皮には、消化不良、食欲不振、咳や痰などを改善する効果があるため、風邪の予防にも良いとされています。但し、市販のミカンの皮の表面には光沢剤などの薬が使われているものが多いので注意が必要です。 一方、「陳皮」は七味唐辛子 (東京の『薬研堀』、 長野の『八幡屋礒五郎』)の7つの薬味のうちの1つであることは昨年の6月号の薬草園便りにも述べた通り、ミカンがとても幅広く人々の健康のために利用されている食べ物であることが分かります。

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1999年12月 <日本の香辛料5 紫蘇>

 紫蘇(シソ)は古くから伝わる代表的なハーブの1つで、葉、芽、花穂、実全ての部分を使用できます。原産はヒマラヤ、ビルマ、および中国で、中国南部で栽培化されたと推定されています。栽培品種は赤いアントシアン系色素の有る無しによって赤紫蘇系と青紫蘇系に分けられます。シソの精油成分はシソ油で、シソアルデヒド55%のほか、リモネン、ピネンなどが含まれています。シソには殺菌、防腐作用があり、昔から着色や香り付けもかねて梅干しに利用されています。その他咳や痰止め、発汗、健胃、整腸、食欲増進など、幅広い効果を有しているため、葉、種子、茎など全体が漢方でさまざまに利用されています。
 日本でも昔から、刺身などの生ものをシソと一緒に食べる習慣がありますが、これはシソに魚などに含まれる毒から胃腸を守る働きがあるからです。ただし鯉と一緒に食べると腫れ物を生ずるとされているので要注意です。
 青紫蘇の葉5枚をよく洗い、梅干し3個と一緒にふた付きのポットに入れ、1.5 カップの熱湯をそそぎ、ふたをして約10分漬けておいてから飲む『紫蘇梅干し茶』は咳込むと頭痛がして、粘り気のある白い痰が出るような風邪に非常に良いとされています。
 皆さん、今月は色々と宴会の多くなる月ですが、体に良い香辛料をたくさん使った美味しい料理を食べて風邪などにかからないようにしましょう。

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1999年11月 <日本の香辛料4 大根>

大根はアブラナ科の越年草または1年草の根菜のことをいいます。大根の栽培は古代エジプトでも普及していたようです。ピラミッドの碑文にも、ピラミッド建設時、労働者にタマネギやニンニクといっしょに大根を食べさせていたとあります。
 大根の栽培品種はハツカダイコン群、小ダイコン群、黒ダイコン群、北支ダイコン群、南支ダイコン群の5群に分けられます。日本のダイコンは南支ダイコン群の影響を受けているとされていますが、根の肥大性などで世界で類をみない程大分化をしています。大根はおろしなどの生食、おでん、ふろふきなどの煮物、汁の実、漬物と非常に広範に使われており日本人の食卓には欠かせぬ野菜の一つです。春の七草の「すずしろ」は大根のことであることは皆さんもご存知のことでしょう。
 大根をすりおろすと組織が分解され、酵素の働きによって辛味を生じます。この辛味成分は山葵のそれに似ていますが、その化学構造が微妙に異なるため、舌にピリピリくる独自の辛味となります。ところが最近、辛い大根が店頭から姿を消し、おろしても甘いものばかりになってしまいました。辛党の私としては少々残念です。その他成分上の特徴として、根部に消化酵素アミラーゼ(ジアスターゼ)とビタミンCが多量に含まれる他、葉にはカロチンがいっぱいです。根部を食する時はアミラーゼ(ジアスターゼ)とビタミンCが熱に弱いのでダイコンおろしなどの生食がよいのです。ちなみに、ダイコンおろしと納豆(よくかき混ぜた後)はとても良く合いますのでぜひ一度試してみて下さい。
 また、大根は明代の李時珍が著した中国の代表的な本草書である『本草綱目』にも記載されており、それによると、消食(食べ物を消化し、全てを排泄させる)、通便、咳止めなどの効果があるとされています。
 さて、11月の薬草園(フィールド)は完全に店じまいです。今月の末には初雪が、そしてしだいに真っ白な世界に変わっていきます。4月から10月まで本当にたくさんの方に観ていただきありがとうございました。温室の方は通年鑑賞できますのでぜひ雪の中お来し下さい。

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1999年10月 <日本の香辛料3 山椒>

 山椒はミカン科の落葉低木で実は辛味、葉は香り、風味豊かな香辛料です。古くは縄文時代の遺跡の中から山椒の入った土器が出土されていることからも分かるように、日本最古の香辛料といえるでしょう。古名を「はじかみ」ともよばれましたが、前号で紹介した生姜が中国の呉国から伝来すると、生姜が「くれ(呉)のはじかみ」、山椒は「なるのはじかみ」とよんで区別されるようになりました。
 日本人はこの日本最古の香辛料を長い年月をかけ、葉、花、実、幹、樹皮に至るまで、全てを利用する術を身につけてきました。3月頃から出回る山椒の新芽、木の芽は焼き物や煮魚に添え、味噌と混ぜて木の芽味噌に、4〜5月に咲く黄色の花は醤油で煮て酒の肴やご飯のおかずに、6月の未の小粒でもピリリと辛い未熟な青い実山椒は茄であく抜きした後、塩や醤油に漬けて保存します。また秋になると山椒の実が熟してはじけ、黒い実(実は硬くて食べることができない)をのぞかせますが、この実を包んでいる外皮が最も香り高く、この皮を細かくしたのが粉山椒で、蒲焼きにふりかけたり6月号で紹介した七味唐辛子に用いられます。さらに、山椒の木はとても硬いのですりこぎや杖として利用されます。
 山椒の辛味成分は分子内に4つの二重結合を含むアミド化合物、サンショール(sanshool)であり、唐辛子や胡椒の辛味成分と同じ種類です。青山椒の実を噛むとただ辛いだけではなく舌がピリピリと痺れますが、これはサンショールに麻痺(局所麻酔)作用があるためです。中国漢方では、この成分が胃腸を刺激し、機能を亢進させるため様々な処方薬に使われてきました。
 さて10月の薬草園はほとんど店じまいですが薬草園に隣接する温室の中には南方系の植物たちが長く白い季節とは無関係に元気に花や実をつけます。山椒の木も1本だけ温室の中にあります。残念ながら実をつけたことはありませんが、山椒のすぐ隣には赤唐辛子の木もあります。温室にもぜひ足を運んで下さい。

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1999年9月 <日本の香辛料2 生姜>

 ハーブを使うのが下手といわれている日本人が、幅広く使いこなしている香辛野菜はおそらく前号で紹介した山葵と今回紹介する生姜が東西の横綱と言えるでしょう。
 生姜は中国で孔子の時代(紀元前500年頃)にはすでに常食されていたという記録があり、日本には3世紀頃に伝えられたといわれています。日本の気候、風土に適した生姜の栽培は、10世紀のはじめにはすでに京都などで大規模に栽培されていたようで、当時は食用とするよりは、薬で使っていたようです。
 干した生姜は鎮痛、鎮咳、解熱作用が強く、その効果は生のそれより数倍も高いため、現在も漢方では風邪薬に生姜がよく配合されています。また風邪の民間療法として、熱湯に生姜と砂糖を加えた生姜湯や生姜酒などがよく利用されています。5月の薬草園だよりにも紹介しましたが、風邪の初期にはキンカンの果汁を盃1〜2杯湯飲みに絞り、おろし生姜を加え、熱湯を注いで数分後に飲んで寝ると効果があるとされています。
 一方、体を温める生姜を使った料理として『名飯部類』には味噌粥が紹介されています。土鍋の縁に味噌を焼き付け、洗い飯をその鍋で煮て、味噌を溶かして作り、最後にみじん葱とおろし生姜を入れて食べます。これなどは風邪をひいて熱がある時にでも食欲がわいてきそうですし、体力の弱った体にとてもよさそうです。いずれにしても生姜は夏には食欲増進に、冬には解熱、鎮痛に、美味しくて体に良い辛味として、日本人の食卓に欠かせない香辛料の一つです。
 さて、9月の薬草園の植物たちはそろそろ店じまいをする季節です。多くの植物たちが次への子孫を残すために実をつけています。そんな中で、紫色の花をつけているのが桔梗です。10月にはほとんどの植物たちの姿がなくなってしまいます。白い雪でおおわれる前にぜひ秋の静けさの中に凛とした姿を見せる紫色の花を見に来て下さい。

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1999年8月 <日本の香辛料 1 山葵>

 辛味は日本料理のなかで、味の引き立て役としてとても重宝されてきました。とても個性的でありながらも繊細、それが日本人の好んできた「旨い辛さ」です。今回はそんな香辛料のうち、最も良く使われているものの一つである山葵を紹介します。
 山葵はその学名 Wasabia japonica (ワサビア・ジャポニカ)が示すように、日本が原産地です。平安時代(1221 年)には天皇家への献上品として用いられたという記録も残っており、古くから珍重されていたことがわかります。栽培されるようになったのは400年後の江戸初期まで待つことになります。静岡市内の駿府城に住んでいた晩年の徳川家康が、献上された山葵をたいそう気に入り、門外不出のご法度品として独占してしまいました。また徳川家の家紋が葵であったため珍重されました。何者かが噂の山葵をこっそり持ち出して栽培、江戸の庶民まで食べられるようになるには、1700年代に入ってからのことです。このころから魚の生臭みを消してくれる香辛料として、また蕎麦の薬味として使われるようになります。
 山葵はそのままでは辛くはありませんが、おろすと辛味成分である硫酸エステル形の配糖体シニグリン(sinigrin)が酵素ミロシナーゼの作用で硫黄を含んだカラシ油を生じて辛味を呈します。防腐殺菌効果の他、消化を促進させ、食欲を増進させる効果があります。民間薬として魚肉や鳥肉の中毒に搾汁を服用したり、リウマチや神経痛に外用薬として用いられます。
 生の山葵は今でも高価なものですが、皆さんが普段使っている粉山葵は辛味成分が似ている西洋山葵(ホースラディッシュ)の粉末を緑に着色したものです。この代用品がなければ、日本人の誰もが山葵醤油で刺し身を味わうことは、いまだにできなかったかもしれません。
 さて、そろそろキリギリスの鳴き始める8月、薬草園の植物たちはいよいよ花から実をつける季節に入ってきます。チョウセンニンジンに特徴的な5葉の真ん中に丸い20粒ほどの赤い実が、もうすぐやってくる北海道の短い秋の訪れを感じさせてくれます。

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1999年7月 <スパイス>

 「ペパー」「シナモン」「クローブ」と言えば世界で最もポピュラーな三大スパイス、「サフラン」「バニラ」「カルダモン」と言えば世界で最も高価な三大スパイスであることはハーブ、香辛料好きの方ならご存知のことでしょう。いずれも西洋料理に用いられるスパイスたちの仲間です。では、「山葵」「生姜」「山椒」「葱」「大根」「芥子」「紫蘇」「柚子」「酢橘」と並ぶと一体何のことでしょうか?
 答えは和食に用いられるスパイスたちです。私達にとって、これらはスパイスや香辛料というよりは薬味と呼ぶ方が馴染みやすいのかもしれません。
 それでは西洋料理と和食でのスパイスの使い方の違いはなんでしょう? 煮込むなどして長い時間加熱することの多い西洋料理では、乾燥したスパイスをブレンドして用いることによって、加熱している間に各種スパイスの有効成分が互いに混ざり合って味が向上します。ところが、生に近い新鮮な食材をそのまま食べる料理が多い和食では、用いられるスパイス(薬味)は原則として、単独でかつ生のものをできるだけ新鮮な間に使用するという点で大きく異なります。
 次号からは少し日本の香辛料について紹介していきたいと思います。
 さて、7月、初夏の薬草園にはラベンダーの紫色が良く似合います。特に夕暮れの時の太陽と濃い紫色とが泣きたいくらい良く調和することを皆さんご存知でしょうか?晴れた暑い日の午後、帰宅前にちょっとだけ寄り道してみてはいかがでしょうか。

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1999年6月 <七味唐辛子>

 最近、若い女性の間ではダイエットに良いとのことから七味唐辛子が流行しているようです。これは皆さんもご存知のように、七味唐辛子の中に入っている赤唐辛子の主成分のカプサイシンにアドレナリン分泌促進作用があるため新陳代謝を上げる、というのがその大きな理由の一つです。
 ところで、知っているようで実はあまり良く知らないのが七味唐辛子の中に入っている七味、いわゆる七種類の薬味についてです。皆さんが一般的に使っている市販の七味唐辛子の中には「唐辛子」、「山椒」、「胡麻」、「けしの実」、「麻の実」、「陳皮」、「青さ粉」(青海苔の代用品)の7種類が入っています。日本での七味唐辛子のルーツは1625年(寛永2年)、初代からしや徳右衛門という薬師が江戸薬研堀(やげんぼり)で売り出したことから始まります。現在でも『薬研堀の七味唐辛子』は江戸っ子達にはポピュラーな嗜好品の一つであり、この最も古い歴史を持つ七味唐辛子は「生の赤唐辛子」、「乾燥した赤唐辛子」、「粉山椒」、「黒胡麻」、「けしの実」、「麻の実」、「陳皮」の7種類の薬味からなり、市販のものに比べて特に山椒の香りの強いのが特徴です。その他日本には長野の『八幡屋礒五郎』、京都の『七味屋』と古い老舗の七味唐辛子屋があり、前者のブレンドの仕方は「乾燥した赤唐辛子」、「生姜」、「粉山椒」、「青紫蘇」、「陳皮」、「黒胡麻」、「麻の実」、後者のそれは「乾燥した赤唐辛子」、「粉山椒」、「黒胡麻」、「白胡麻」、「紫蘇」、「青海苔」、「麻の実」と7種類の薬味とブレンドの仕方が全然違っており、当然その香りもそれぞれ異なっています。このように、七味唐辛子といっても日本には少なくとも3種類以上のブレンドの仕方があり、そしてそれはその地域に根ざした“食べ物”と密接に関係していますが、この事に
ついては紙面の都合もありますので別の機会にでも・・・。
 さて、6月中旬から7月上旬の薬草園は1年の中で最もすばらしい季節です。代表的なハーブの1つで同じシソ科のラベンダーより品のある淡い紫色の花をつけるセージ(サルビア)、大きく真っ赤な花をたくさんつけるハマナシ、濃い赤の花をつけるシャクヤク(白い花もあります)、そして黄色い花のゲンチアナ、これらの4種類の花たちが真っ青な青空の下で一同に会する様はただただ見とれるばかりです。1年を通して一番すばらしい季節の薬草園にぜひ一度足を運んでみて下さい。

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1999年5月

 5月から薬草園だよりを担当することになりました薬学部、生薬学教室の堀田です。
薬用植物園や渡辺山に自生する植物などの他、最近流行のハーブや香辛料などについてお伝えしていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。
 さて今年はとても雪が多く、4月12日現在、薬草園はまだまだ深い雪に覆われています。そこで、温室の中でダイダイ色の小さな実をつけるキンカンについてお話します。
 中国中南部原産のキンカンはミカン科の常緑低木で小粒の果実をつけるかんきつ類として有名です。温室のキンカンは1年間に数度とても甘酸っぱい実をつけます。このウズラの卵形のかわいらしい実は風邪、咳止め、疲労回復にとても良いとされています。
たとえば、風邪の初期になどに盃1〜2杯の果汁を湯飲みに絞り、おろしショウガを加え、熱湯を注いで数分後に飲んで寝ると良いとされています。また咳止めには果実4個と南天の実10個を砕き、コップ1杯の水で半量に煮つめ、かすを除いて飲むと良いとされています。さらにキンカンと氷砂糖から作られるキンカン酒は少しほろ苦さがありますが、香りがいいので飲みやすく、去痰、健胃、疲労回復に効果があります。
 温室のキンカンは年中実をつけますが、特に温室の外が真っ白な冬につけるキンカンの実はとてもきれいに感じることができます。キンカンの他にも色々な南方系の植物がありますのでぜひお来し下さい。

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