「チーム医療」の現場で活躍する卒業生たち

救急から終末期まで、患者さんのQOL※最優先のSTでありたいと思います。

現場は毎日動いている。

 ST(言語聴覚士)としてできるだけ多彩な経験をしたいという希望が叶い、急性期総合病院であり、救命救急センター、ドクターヘリ基地病院、地域災害拠点病院、地域医療支援病院など様々な指定を受けている手稲渓仁会病院に就職しました。
 朝7時半には出勤してカルテの確認などその日の準備、8時40分に言語や嚥下(えんげ:飲み込み)のリハビリテーションを開始します。急性期ですから動けない患者さんも多く、訓練をベッドサイドで行うこともけっこうあります。その間に、救急からの要請にも応えます。救急車で運ばれてきた患者さんが食事や薬を飲み込めるか、どんな形状なら飲み込めるかを評価することはSTの重要な役割です。救急車はいつやって来るかわからないので、予定には組み込めません。 要請がある都度、その日のリハビリテーションのスケジュールを頭の中で素早く組み替えて対応します。柔軟性や安定感、緊張感やスピード感などたくさんのものが要求されますが、救急・急性期医療の最前線を肌で感じています。

本学卒業生が数多く活躍中の手稲渓仁会病院。9人いるSTのうち6人が本学卒業生です。この日、担当ケースの相談に来た後輩STも、本学のゼミの1期後輩。山城さんは、アドバイスをするより、まずは一緒に考えるというスタンスでていねいに話を聞いていました。

患者さんの願いをかなえたい。

 ほとんどの患者さんは2週間から1カ月で回復期病院へ転院するため、STが関わることのできる時間は限られますが、発症直後の私たちの関わり方が患者さんのその後を左右するという責任を感じます。
 急性期にプラスして、がん患者リハビリテーションにも携わりたいと考えていたので、就職2年目で所定の講習を受け終末期の患者さんも担当できるようになりました。心に深く残っているのは60代、リンパ腫の患者さんです。「生きる」意志が強く、ひどいむくみでほとんど動けなくなってからも、院内のカフェのコーヒーと食堂のカツ丼を諦めませんでした。そこで、看護師、理学療法士、作業療法士とチームを組んで願いを叶えることに。 持病の糖尿病の管理をはじめ、嚥下の状況や移動方法の確認など、私たちも万全を期してその日に臨みました。6人がかりで車いすに乗せて、お孫さんを含めたご家族と一緒に食堂へ大移動。ちゃんと飲み込めているか、体に変化はないか、私たちが見守る中、患者さんはご家族と賑やかにカツ丼を堪能されました。その2週間後、患者さんは天国へ旅立たれ、ご家族がその日撮影したビデオは最後の団らんの思い出になりました。終末期は病状が突然変化します。短期間で患者さんの希望を一つでも叶えてあげられるよう、多職種が迅速に連携し行動することの大切さを教わったケースでした。

業務終了後は国内外の論文の読み込み、調べ物、学会の発表準備に多くの時間を充てています。就職2年目に渓仁会グループで、3年目には札幌市病院学会リハビリテーション部門で発表。“食べること”とQOLの関係を、科学的に明らかにすることを目標に研究を進めています。
※取材:2017年
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