2010年度前期に全18回実施される「医歯学統合講義」(歯学部5年次)は、連携8大学が共同でシラバスを作った授業です。18回すべてテレビ授業として行われますが、本学はそのうち、前半の7回に参加し、連携する他大学と一緒に受講しました。(8回目以降は本学教員による通常授業)

  • 2010年5月24日(月)1講時 / 「医歯学統合講義」7回目
  • 授業内容精神医療と歯科心身症①
  • 参加校福岡歯科大学、鶴見大学、九州歯科大学、北海道医療大学
  • 配信校福岡歯科大学
TV授業とは? : 双方向性テレビ授業システムを利用して行う講義です。北海道から九州まで距離を越えて、連携校の学生が同じ授業を同じ時間に受けます。

 本学のTV授業参加は最後となる5月24日、予定通り午前9時に「医歯学統合講義」が始まりました。本学の受講生はおよそ90名です。
 講義室の前のスクリーンに大きく映し出されているのは、今日の配信校、福岡歯科大学の講義室。スクリーン下部にはサブ画面で今日の他の参加校3大学の講義室の風景が映されています。
 最初に、福岡歯科大学が3大学名を順に呼び「聞こえていますか?」と接続状態を確認。だいじょうぶ。九州、横浜、北海道の当別が、今日も問題なくつながっています。
 ちなみに、TV授業の初回、5大学が参加した4月5日の授業では、順に大学を呼び「聞こえていたら手を振ってくださ〜い」という場面もあり、どの地の学生も距離を越えたリアルタイムのつながりを実感しました。

 今日の授業のテーマは「口腔心身症」。福岡歯科大学医科歯科附属病院で活躍中の3人の先生が講義を担当します。心療内科の稲光哲明先生、口腔外科の池邉哲朗先生、総合歯科の米田雅裕先生、それぞれ約20分程度の講義です。稲光先生は今日の授業全体の進行役も務めます。
 毎回、複数の先生から専門かつ臨床に密着した話を聞くことができ、ときには具体的な症例について専門家同士のやり取りを聞くことができることはこの授業の特徴です。


 稲光先生はまず今日の授業全体の流れを説明し、続いて「心身症は病名ではなく病態名です」と心身症の講義をスタートさせました。口腔領域の心身症の種類から、心療内科や精神科への紹介を考慮すべき場合、それら専門医の受診を勧める際の注意点など、実際の歯科臨床で役立つ知識が続きます。
 スクリーンには講義内容のポイントがまとめられたスライドが次々と映され、右上の小さなスペースにマイクを持つ稲光先生が映っています。学生は、スクリーンを見ながら話を聞き、資料としてあらかじめ配られたスライドのコピーをマークしたりメモをとったり。音響も自慢のテレビ会議システムとあって、先生の声の聞こえ方にも違和感はなく、一見したところ普通の授業となんら変わりません。時々講義室前方の空っぽの教壇を見て、話している先生がここにいないことを小さな驚きをもって確認する、そんな感じです。
 「心身症はマスコミでよく見聞きする言葉で、歯科診療でも重要になってくるだろうから」とこの日の講義を楽しみにしていた学生たちは、心療内科の専門医である稲光先生の話を熱心に聞いていました。


 稲光先生の講義で「心身症」への理解も進んだところで、先生が交代して心身症が歯科診療の現場に具体的にどう関わってくるのか、実例として大きく2つが取り上げられました。1つめは「舌痛症」。講義担当は、口腔外科一般のほかに舌痛症、ドライマウス、前癌病変など口腔内科を専門とする池邉先生です。器質的な変化がないけれど舌が痛む舌痛症について、ストレスや不安といった心の領域との関わり、診察時の注意点のほか、池邉先生自身の治療パターンへと進む話に、学生は興味深く聞き入ります。
 2つめは「自己臭症」。総合歯科併設の口臭クリニックの専門医、米田先生にバトンタッチです。実際はほとんど臭っていないにもかかわらず「自分は臭う」と強く思い込んで悩むのが自己臭症。そのうち口臭について、米田先生は口臭クリニックで解消できた例と心療内科に紹介した例、程度の違う2つの臨床例を挙げ、患者さんの話にきちんと耳を傾ける受容的医療面接の大切さを話しました。
口臭は身近なもので学生も共感しやすいのか、あちこちで頷きながら米田先生の話を聞く姿が見られました。

 こうして3人の先生による講義は無事終了。今日はどの大学からも質問は出ませんでしたが、毎回、先生による講義の後に質疑応答の時間が設けられています。質疑応答は双方向性テレビ会議システムの醍醐味の一つです。質問するようすがスクリーンに映されると、授業を受けていたのは自分たちだけではないことに学生も改めて気づくようで、他の大学で同じ目標に向かって学ぶ学生をリアルに意識できることで「勉強意欲が高まる」という声も聞かれました。
 授業後、スクリーンにはそれぞれの大学の講義室が映されています。九州歯科大学でも学生が講義室を後にし始めました。するとどこからか「あ、半袖」の声。やっぱり日本は広いです。厚い雲が石狩平野を覆うこの日、当別町の気温はおよそ15度。おそらく九州とは7、8度の差があったでしょう。もちろん本学は全員長袖着用でした。
 距離を越えて複数の大学の歯学部生をつなぐTV授業は始まったばかりですが、ICTが当たり前のものになったいま、大学の授業の一つのスタンダードになる日もそう遠くはないのかもしれません。

戦略連携事業実施担当者会議構成員

本学歯学部教授・歯科内科クリニック院長

古市 保志

 このTV授業は、口腔疾患を口腔に限定した疾患ではなく全身の健康に関係するものと捉え、歯学部の教育のベースを「歯学」から全身疾患との関係を含めた「口腔医学」へ変更することをめざす本取り組みの先導的役割を担う授業です。連携する各大学の専門領域を持ち寄って医歯学を統合させた授業の完成形をめざし、2年の準備を経て実現させました。今年度初めて開講したTV授業では、教育ソースとしての大きな可能性を確認しました。
 このように医科と歯科が一緒に教育に取り組む例は珍しく、画期的なものです。我々歯学部はもちろん、医学部をもつ大学にとっても価値ある取り組みとなるでしょう。
 医歯学連携、複数の大学の連携で、それぞれがもつ長所を最大限に生かして、社会に送り出す歯科医師の資質向上に役立てたいというのが歯学部をもつ大学の共通の願いです。授業の主役である学生の声をていねいに聞きながら、次年度以降もよりよい授業へのブラッシュアップに力を注ぎたいと考えています。

授業の主人公・学生に聞いてみました。

「TV授業はどうでしたか?」

「医歯学統合講義」について
・「複数の先生による授業がいい。1回目の授業で歯科の先生と内科の先生による、糖尿病患者さんの抜歯についてのやりとりで、双方の観点がよくわかった」
・「ふだんの授業ではそれほど深く掘り下げないテーマについて概念や病態だけでなく、歴史や時事とのつながりも学べ、包括的な理解に役立った。とくに本学附属病院にはない専門外来の検査、治療法について細かな話を聞けたことがよかった」
・「歯科医になったとき、必ず出会うであろう疾患について、歯科と関連づけて学べたことがよかった。紹介状の書き方も役に立つ」
・「歯科はどのような時に医科との連携するのかを学ぶこの授業を、臨床実習後にも設けてほしい」
TV授業システムについて
・「他大学の学生も受講していることを意識して、自分も授業に集中しようと思った」
・「他大学の学生が真剣に聞いている姿に刺激された」
・「大学間での意見交換などができたらいい」
・「ゆくゆくは自宅でも受講できるようになったら面白い」
・「他大学の先生の講義を受けられるのは貴重。どんどん取り入れてほしい」
・「もっといろいろな大学の先生の講義を聞いてみたい」
・「より多くの大学が参加し、様々な分野の権威である先生の講義を大学の枠を超えて受けられたらいい」

今回アンケートに答えてくれた本学歯学部5年生