市民公開シンポジウム

後期履修生による初めてのメディカル・カフェ。たくさんの市民の参加で、しっかり手応えを感じました。

本学と札幌医科大学が共同で取り組んできた平成19年度文部科学省採択による現代GP「双方向型医療コミュニケーション教育の展開」は2年半の実施を経て集大成の時期を迎えました。そこでひとつのまとめとして、これまでの成果の発表、医療コミュニケーション教育において注目される取り組みを実践中の大学教員3名の方の講演、総合討論を盛り込んだシンポジウムを開催しました。道内外の大学教員、市内の学生を中心にした参加者が、医療コミュニケーション教育のいまを知り明日を考える時間を共有しました。
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1:開会挨拶 写真1
 シンポジウムは本取り組みの札幌医科大学の代表である當瀬規嗣先生による挨拶で始まりました。
 「本取り組みの一つの到達点として、遠路からも先生方にいらして頂いてこのシンポジウムを開催できました。このシンポジウムを含め、本取り組みの成果が評価頂ければ、今後さらに充実させて展開していこうと意欲に燃えているところです。さて、北海道医療大学も札幌医科大学も医療人を育成する大学です。医療人はコミュニケーションをとり続ける仕事ですが、教員は人との関わりが得意ではない場合が多いこともあり、ノウハウもない中、大学でコミュニケーションを講義するのは非常に困難でした。そこで両大学が共同でコミュニケーション教育の一つの方策を打ち立てようとしたのが本取り組みです。とくに難しい双方向コミュニケーションの能力をメディカル・カフェ開催を通して実践的に学べる授業の展開で、我々教員は、学生の潜在的な力を信じてチャンスを与えるべく背中を押すことはできたと自負しています。今日は講師の方をはじめ、皆様のご意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします」(要旨)。
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2:取り組み報告 写真2
 続いて、札幌医科大学・竹田寛先生による取組報告がありました。まず、2007年の本学と札幌医科大学の提携を受けて、実践的な双方向医療コミュニケーション教育を両大学が共同でめざしたこと、本取り組みの造語「メディカル・カフェ」のヒントとなったサイエンス・カフェのなりたちが説明されました。次に、授業「メディカル・カフェをつくる」について、大学、学部、学年の枠を超えて学生が集まりチームを組んでメディカル・カフェづくりに取り組む授業であったこと、合宿から実習(カフェ開催)、報告書作成までの全11回の合同授業の流れ、教員はサポーターとしての役割に徹し、学生の自発性を重んじて進行した様子などが、実際の授業・実習風景のスライド映像と共に報告されました。最後に「市民・ゲスト・学生でつくる学びの場」と位置づけたメディカル・カフェ開催後の履修生の感想が紹介されました。「互いの専門を知り、生かし合う経験ができた」「市民の目線に立つのは意外と難しいのを知った」「市民の不安、心配がわかった」「市民の求める情報とゲストが伝えたい情報、それぞれを理解できた」など、学生の感想には本取り組みの成果の一端がしっかり現れていました。
 竹田先生の報告終了後には、道外から参加された大学教員より「コミュニケーションはスキルとして教えることはできても、態度、実際の行動を教えるのは難しいことを実感しています。報告をお聞きして、この取り組みは非常に有効な方法だと思いました」との評価の声を頂きました。
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3:メディカルカフェ(第9回)
 医療コミュニケーション教育で優れた実績を挙げ、全国的にも注目されている札幌市立大学、横浜私立大学、吉備国際大学それぞれから講師をお招きし、取り組みの概略、特徴、成果をお話いただきました。どれも非常に内容の濃い講演でしたが、ここではその要旨をお伝えします。
3:講演「看護学生のコミュニケーション能力育成における模擬患者の活用」
吉川由希子さん(札幌市立大学看護学部准教授)
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 お招きした3人の講演者のトップバッターは吉川由希子先生。今年3月、初めての卒業生を輩出する札幌市立大学看護学部の教員です。同大学では開学当初から「実践的に看護を学ぶ」を目標に掲げOSCE(オスキー/客観的臨床能力試験)を実施、同時に「市民に開かれた大学」という理念を示す行動の一つとして市民ボランティアを募り模擬患者として教育に参加してもらっています。市民と一緒になってつくる同大学のOSCEの取り組み「学年別OSCEの到達度評価と教育法の検討」は文部科学省採択による教育GPとして現在も進行中の取り組みです。
 吉川先生は同大学の看護学部の教育目的・目標、さらに学年別に目標とする学習到達度を示した上で、模擬患者の活用についてお話を始めました。
 「模擬患者とは一定のシナリオに基づいて、ある病気の患者のあらゆる特徴を態度、心理、感情面も含めて可能な限り模倣する訓練を受けた人のことです。ボランティアの市民は患者を演じて学生と関わり、その後で学生の対応によって、患者としての心はどう動いたかを率直にフィードバックしてもらいます。私たちは大きく二つのタイプ、授業のための模擬患者とOSCE用の模擬患者を養成しています」。そして、現在の模擬患者活用の状況、養成スケジュールなども紹介されました。
 吉川先生によると、フィードバックは模擬患者の大切な役割と位置づけられています。率直なフィードバックは、学生自身が気づいていなかった態度や行動、それが患者さんに与える影響の大きさを認識し、長所をうまくコミュニケーションに生かしていくのに有効だといいます。その効果をより大きくするために、模擬患者にはフィードバックの際はPNP(ネガティブなことはポジティブの間に挟む)をお願いしているそうです。
 講演の途中、1年次OSCEの実際の模様を撮影した約5分間のVTRがスクリーンに映し出されましたが、模擬患者の表現力の豊かさが臨場感あふれる場面作りに大きく貢献していることがよくわかりました。
 学生からは「学生同士のロールプレイでは得られない緊張感がある」「毎回新鮮な状況に臨める」「看護師は患者さんに安心感を与えることができるんだと実感した」という反応が挙がっています。リアリティある状況下での実習、OSCEの経験を積んでから迎える臨床実習でも「初対面の患者さんともスムーズにコミュニケーションできる」「ナースステーションでもうまくコミュニケーションがとれる」など、徐々に効果が現れてきているようです。最後に吉川先生は模擬患者を活用したコミュニケーション教育のもう一つの大きな効果として、技術教育に偏りがちな教員の視点をコミュニケーションという領域にまで広げるという教員への効果を挙げました。
 講演後、「精神看護、小児看護分野でも模擬患者活用は?」との質問に対して吉川先生は「小児看護では模擬患者は親の役を演じてもらっています。精神看護は現在シナリオに基づいて練習中です」と答えました。
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4:講演「学生が創る地域の子ども健康プロジェクト
   ─医学生と看護学生の連携による取組─ 
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西井正造さん(横浜市立大学医学部 特任助教)
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 西井先生の講演は、学生が地域の小・中学生に向けた「地域子ども健康プロジェクト」についてです。学生が自ら企画・運営する機会を提供し、取り組みを円滑に進ませるための教育環境の整備を行うこの取り組みは、昨年、現代GPとしての期間を終了させたものです。
 軸となるのは『健康生活キャンプ』と『訪問授業』。生活習慣病の病態、予防、救命処置法を学んだ学生が、子どもたちとコミュニケーションを深めながら、教えることを通して学習内容の理解を深めることをめざします。
 「『訪問授業』は医学部医学科4〜6年、看護学科3〜4年に院生を加え80名以上の学生が参加し、のべ14回実施、参加児童は約680名になりました。学校に足を運んでニーズをつかみ、学生に投げかけて企画から任せます。学生はまず対象となる学年がいま何を勉強しているのかを知ろうと教科書を集めたり、子ども理解から始めました。テーマは『命の大切さ』、地域の子育てサークルの協力を得ての『赤ちゃん教室』というものから、生活習慣病、一次救命などさまざまでした」。
 実際の『訪問授業』の様子が各テーマ1分程度のVTRで紹介され、子どもたちの興味津々のまなざし、驚きと発見の声、この取り組みから生まれた学生が開発した多彩な健康教育教材が目を引きます。
 「『健康生活キャンプ』は野外というハードルの高い環境で医療をテーマに活動を行うもので、3年間でのべ156名の児童を集めて5回(内2回は宿泊あり)実施しました。こちらは医学科と看護学科の全学年が対象で、院生も加わり、120名近くの学生が参加、学生の満足度も非常に高いものでした。この中で、学生は医療と野外教育を融合させた新しいキャンププログラムを5つ開発しています。そのうち一つは横浜市教育委員会の支援を得て、DVD教材として横浜市内の公立小中学校に配布されるようにもなりました」。残念ながら機器の調子が悪く、西井先生が用意してきた小学3〜5年生を対象にした『健康生活キャンプ』のVTRは見ることができませんでしたが、リアルなメイクを施した傷病者役の学生が至るところに倒れていて、子どもたちはそれを手当して先に進む「応急手当ウォークラリー」など、学生考案のプログラムが子どもにいかに魅力的だったか、西井先生のお話から十分伝わってきました。さらに、キャンプは地域の社会教育の専門家との連携ももたらしたそうです。
 この取り組みは外部評価委員会から「社会性アップのモデルとなり得る」「大学はもちろん小学校の授業の質向上も図れる」などの評価を得ましたが、西井先生はコミュニケーション教育の取り組みの最大の難点として評価の難しさを挙げ、教育法を共有するためにも必要となる客観的評価が今後の課題であることを示し、講演を結びました。
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休憩
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5:講演「医療・福祉領域における連携力養成 ─合同演習の試み─ 」
横山奈緒枝さん (吉備国際大学社会福祉学部社会福祉学科 准教授)
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 この日のために岡山からいらしてくれた横山先生のお話は、医療・福祉領域で求められる協働の技能に着目した取り組みについてです。こちらは2008年に文部科学省に採択された教育GPです。
 連携力の養成のために吉備国際大学が採用したのは、社会福祉学部(社会福祉学科)と保健科学部(看護学科、理学療法学科、作業療法学科)の学部・学科を超えて行う合同演習です。横山先生は取り組みのキーポイントとして以下の5つを挙げました。
 1つ目は、SST(ソーシャルスキルトレーニング)導入。実社会で生かせる連携力が身につくよう、社会心理学の専門家ともタイアップしています。
 2つ目は、シチュエーションロールプレイ。老人保健施設でのアンケートや聞き取り調査、観察に基づいて、頻繁に起こり他職種との連携が必要になる場面を7つ設定し、ロールプレイを行う体験型演習です。「例えば、食事を拒否する高齢者という場面では、脳梗塞を3か月前に発症、妻とふたり暮らしで子どもが二人、それぞれの年齢と家族間の関係、定年までの勤務先など細かな情報を設定します。この方にはどういうケアが必要かを、学生は配られた役割カードに従ってロールプレイしていくなかから探ります。高齢者の役も学生がします」。
 3つ目は合同演習の概要。「5名ほどでグループを構成、それぞれ専門職、高齢者、観察者役を交替で演じるロールプレイを2回行います。1回目は高齢者へ声をかけ問題点をみつける場面、2回目はそれを他職種にどう伝え、どう連携するかで、演習の前後に自己評価をします。また、ロールプレイの間には必ずいいところ探しもします」。1セッションは120分と長めですが、ミ二講義から始まってロールプレイ、評価まで、流れを大切にして進んでいきます。学生からは「他職種の視点の違いに気づくことができた」「VTRで自分を客観的に見ることができた」という声もあがっているようです。
 4つ目は可視化。ロールプレイは必ずVTRに撮っておきます。終了後すぐに見ることで、より有効なふり返りができるといいます。
 最後はデジタル・ポートフォリオの活用です。ネットを活用し、学生が学んだ内容を自分のポートフォリオに記入します。担当教員はこれに対して個別にコメントを示して学生自身の振り返りを促すものです。
 合同演習の効果として、学生の自己評価では、演習後「連携意識」は高まったと答える学生がほとんどですが、「具体的な方法、やり方」については変化なしの回答がほとんどという結果が出ているそうです。横山先生は、頭で理解したことを行動に出すむずかしさに触れ、これからも内容、場面設定などをよりつめて、プログラムをブラッシュアップしていくと締めました。
 なお、吉備国際大学ではこの取り組みを紹介するDVDを作成し、貸し出しも行っているそうです。
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6:総合討論
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 講演を終えた札幌市立大学の吉川先生、横浜市立大学の西井先生、吉備国際大学の横山先生に、札幌医科大学の竹田先生を加えた4名が壇上に上がり、総合討論が始まりました。司会は工藤禎子先生(本学看護福祉学部准教授)です。工藤先生の「会場との双方向コミュニケーションで進めていきたいと思います」という言葉通り、壇上と会場が一つになった活発なやりとりが行われました。その一部を紹介します。
「西井先生にお聞きします。訪問授業、健康生活キャンプともに医学科、看護学科どちらも実習で忙しい高学年が参加していますが、時間のない彼らにも参加しやすい仕組みがあったら教えてください」
西井先生「企画室を設け、常駐していました。いつも開いている場所をつくると、いつも学生が誰かいる状態がつくれ、それが大きかったと思います。キャンプでは最初は2〜4年生をコアにするつもりでしたが、コアメンバーを作るという方法そのものにムリがあり、うまくいかず諦めました。おっしゃる通り5年生はずっと実習ですが、たまに早く終わる日があると企画室に顔を出して、他の学生と一緒にその時できることをしてくれました。できるときにできる人が少しずつやるという気持ちがみんなに共有されていたようです」
「自由参加の場合、エントリーする段階ですでにコミュニケーション能力の高い学生が多いと思います。それ以外の学生のリクルートはしますか?」
西井先生「本学でも選択実習なので、基本的に教員が学生に声をかけることはしていません。学生が周りに声がけをしてくれています」
横山先生「実習への不安をどの学生も感じているようで、すこしでもできることがあればしたい、合同演習も日程さえ合えば参加したいという学生が多いです。教員が声をかけることもありますが、やはり学生同士で声かけあって参加してくれています」
限りある時間の中でしたが、各大学で様々なかたちで取り組みが進行中のコミュニケーション教育には、共通の夢、共通の課題があることがよくわかる総合討論となりました。司会の工藤先生は「コミュニケーション教育はまだまだいろいろな可能性があることがわかりました。そして、コミュニケーション教育そのものが多様化していることも見えてきたような気がします。ありがとうございました」と結びました。
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7:閉会挨拶 写真8
 シンポジウムは本学の阿部先生(本学心理科学部教授)の挨拶で幕を閉じました。
 「メディカル・カフェの取り組みのように学生中心の授業、学生を動かす授業が増えてきました。さらにメディカル・カフェや横浜市立大学のように大学が社会に出て行く、また模擬患者など大学の中に社会を取り込む社会と連携した授業も始まり、リアリティをもって学べる環境がつくられています。医療系に限らず、連携、コミュニケーションは人間の生きる術として、欠かせないものです。コミュニケーション教育に関わる具体的なスキルが、今日は多彩に発表されましたが、応用してどんどん取り入れていくことで、それぞれの取り組みも大学教育の発展に寄与できることになります。市民、社会にも関心をもってもらえるよう、これからも様々なかたちで発信していきたいと思います。今日のシンポジウムに遠路いらしてくださった先生方、ご参加いただいた方々、取り組みに関わった教員、スタッフ、学生、みなさんに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました」。
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 一つのまとめとして開催されたシンポジウムも終了し、2年半におよぶ現代GPとしての取り組みは3月の年度末で終了しますが、授業「メディカル・カフェをつくる」は2010年度以降も続きます。学生たちがどんなテーマで社会、市民にアプローチしてくるか、乞うご期待!カフェ開催時には、得する情報、トリビアを仕入れがてら、学生を励ましに、ぜひ足を運んでください。本取り組みにご協力くださったみなさま、本当にありがとうございました。
 

現代GP「双方向型医療コミュニケーション教育の展開」主催シンポジウム 医療コミュニケーションの多様性

日時
2010年2月20日(土)
13:00〜16:00(開場12:30〜)
場所
札幌全日空ホテル 3階 鳳の間
(札幌市中央区北3条西1丁目2番地9)

プログラム

総合司会:長峯隆(札幌医科大学教授)
1:開会挨拶
現代GP代表 當瀬規嗣(札幌医科大学医学部長)
2:取組報告
竹田寛(札幌医科大学助教)
3:講演「看護学生のコミュニケーション能力育成における模擬患者の活用」
札幌市立大学
看護学部准教授

吉川由希子さん
4:講演「学生が創る地域の子ども健康プロジェクト─医学生と看護学生の連携による取組─」
横浜市立大学
医学部特任助教

西井正造さん
<休 憩>
5:講演「医療・福祉領域における連携力養成 ─合同演習の試み─ 」
吉備国際大学
社会福祉学部
社会福祉学科准教授

横山奈緒枝さん
6:総合討論
司会/工藤禎子(北海道医療大学准教授)
7:閉会挨拶
阿部和厚(北海道医療大学教授)

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