お口の健康で老後も元気にー80歳で20本の歯ー

09年度のカフェはバラエティ豊かに計7回。その3回目は、テンポのよさが際だつ仕上がりでした。

 2009年度の札幌医科大学と北海道医療大学の合同授業「メディカル・カフェをつくる」は、前期に予定されていた授業のすべてを終え、後期に入ってからはグループごとにカフェの準備、リハーサルを行い、10月からグループごとにカフェ本番に臨んでいます。今年度は12月までの3か月間に7回の開催です。その3回目(通算12回目)にあたる口中の健康をテーマにしたメディカル・カフェが、11月14日に行われました。 (カフェのタイトルが入ったボードは、紀伊国屋書店さんが学生への応援の気持ちから用意してくださったもの。カフェ開催中は正面上部に掲示されます)
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「お口の健康で老後も元気に   〜80歳で20本の歯〜」

スタンバイ やる気まんまん。みんな早い!
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 集合はカフェ開始2時間前の12時でしたが、カフェ開催にかける意気込みが早め早めの行動に表れたのか、お昼を待たずにほとんどの学生が揃い、イスやテーブル、ホワイトボードもすでに会場に運び込まれています。これなら準備時間はたっぷり。きょうの企画・運営はBグループ、メンバーは5人ですが、他グループの学生、さらに昨年度前期履修生(この授業の1期生)がボランティアスタッフとして加わってくれました。
 12時からきょう1回目のミーティング、その後、受付や進行、ファシリテーターなど各自の持ち場に分かれます。ほとんどの学生が経験ずみだからでしょう、その手際のよさには余裕すら感じられます。すると、えっ?早くもゲスト入り!予定より40分早く長澤先生が会場入りしました。先生もやる気まんまんのようです。
 Bグループのメンバーは「立ちリハーサルは1回のみでしたが、ゲストの長澤先生のところに何度も通い、一緒にゲストトークの内容を磨きあげました」と自信を覗かせながらも、やはり開催時間が近づくと、その表情から緊張がみてとれるようになりました。
 そして13時、各自の立ち位置の確認など具体的な最終打ち合わせをして、13時30分受け付け開始。14時、いよいよカフェが始まりました。きょうの司会者はメイン・ファシリテーターも兼任。バトンタッチがないため、開会のことばから加藤幸紀先生(本学歯学部)による授業の簡単な紹介、ゲストトークへとスムーズに移っていきます。参加者席には、この夏、話しことばの特別講義をしてくださった安藤千鶴子先生のお姿もありました。
長澤先生に開催前の意気込みを聞いてみました
長澤先生「カフェ形式で話しをするのは初めて、しかも専門家、歯学生以外に話すのも初めてです。きょう使うスライドは、学生さんとの打ち合わせの中でわかりづらい点を指摘してもらって、市民向けに手直ししたものです。専門知識をお持ちではない市民の方々にちゃんと伝わるか心配ですが、同時に市民と直接どんなやり取りができるのか、とても楽しみです」
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ゲストトーク 歯ぐき気にしていますが?
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 ゲストは本学歯学部の長澤敏行先生。教員として、研究者として、そして歯周病治療のスペシャリストとして臨床でも活躍中です。では、スクリーンにリアルな画像・映像を映し、メイン・ファシリテーターとの息の合ったやりとりを交えて進んだゲストトークのあらましをご紹介します。(以下敬称略、MFはメイン・ファシリテーター)
■歯周病ってなに?
長澤「きょうは歯周病と全身の健康について皆さんと考えたいと思います。“歯周病”ということばは、歯磨きなどのCMでもおなじみですが、日本人の多くが歯周病にかかっていると聞いても、とくに若い人は自分には関係ないと思う人が多いのではないでしょうか。歯ぐきがはれている状態の歯肉炎、骨が溶け最後には歯が抜けてしまう歯周炎、この二つを合わせて“歯周病”と呼びます。初期である歯肉炎にはほとんどの人がかかっていても、必ずしも重症の歯周炎まで進行するわけではないため、自分は大丈夫と思いがちです」
MF「スクリーンの写真で、歯周炎のほうは歯が細く見えますが」
長澤「骨が溶けて歯ぐきが下がり、本来は歯ぐきの中にあった歯の下部が出てしまったからです。
 次に健康な歯肉の持ち主に6日間歯磨きをやめてもらった実験の写真です。ばい菌を染めるプラーク染色液を使うと実験前は染まらなかった歯が、6日後は真っ赤です」
MF「赤く染まるのは食べかすですか?」
長澤「いえ、これがプラーク(歯垢)、ばい菌のかたまりで、歯周病の原因です。こちら(動画)は顕微鏡で見た映像ですが、食べかすはほとんどないですね。ばい菌ばかりです。免疫細胞がばい菌をぱくぱく食べていますが、これだけのかたまりになるとまったく追いつかないのがわかりますね」
■もし、手のひらに潰瘍があったら…
長澤「歯肉炎は数年変化がないこともありますが、放っておくと歯周炎へと進行します。歯肉炎は特別な治療をしなくても正しい歯磨きで治せますが、歯周炎に進むと手術が必要になることも珍しくありません。では、歯周病と体への影響です。歯周炎は歯の周りに潰瘍(かいよう)ができている状態です」
MF「潰瘍(かいよう)とはどんなものですか?」
長澤「胃潰瘍はよく聞きますね。菌によって炎症が起き組織が破壊、菌が体内に入ってしまう状態です。このスライドの症例は歯ぐきの半分以上が溶けて歯から離れてしまっています。ここから歯ぐきの中へとばい菌が入っていきます」
MF「この写真は、歯ぐきの半分以上が潰瘍ということですか?」
長澤「そうです」
MF「もし体の他の部分なら、病院に飛んで行って治療を受けますね」
長澤「ええ。この例では潰瘍は面積でおよそ5cm四方。もし手のひら5cm角にばい菌がうようよいて、溶けてきて、菌が体内に入っているかも、と思えば大騒ぎですね。でも歯周病の場合はほとんど症状がないためにかなり悪化するまで放置されてしまうんです」
■歯周病の菌は肉食系!
長澤「お口の中の病気といえば虫歯が最も身近ですが、虫歯の原因菌と歯周病の原因菌は違います。虫歯の菌は砂糖を栄養にして酸を作って歯を溶かす “草食系”ですが、歯周病の菌は歯肉の炎症で出てくる体液をタンパク分解酵素を使って栄養として取り込む“肉食系”。その菌と、菌が作り出す炎症性物質が体内に入り、血液で運ばれ全身に様々な影響を与えることがだんだん明らかになってきています」
■意外に怖い歯周病
MF「具体的にどんな影響がありますか」
長澤「アメリカで、妊婦さんが重症の歯周病の場合、早産や低体重児のリスクが高いという研究報告が出されました。いま北海道医療大学歯学部と札幌医科大学産婦人科教室も共同プロジェクトで同様の調査を進めています。妊娠後に歯周病の治療を始めても遅いようだということもわかってきました。また、歯周病は糖尿病学会で合併症の一つとして認定もされました」
MF「糖尿病学会と歯周病学会が連携するくらい糖尿病と歯周病の関係は深いということですか?」
長澤「歯周病領域ではずいぶん前から糖尿病の患者さんに歯周病が多いということは言われてきました。最近では歯科と内科の共同プロジェクトで両者の関係の研究が進められています。糖尿病患者さんはどの年代でも歯周病が重いということがわかっていますし、逆から見ても、多くの歯を失った人ほど糖尿病の確率が高くなっています。歯が全て失われた場合の糖尿病である率は、歯が揃っている場合の2倍です」
MF「でも、歯がなければプラークは着かないのでは?」
長澤「そうなんですが、歯の数が少ない人は野菜など食物繊維豊富な食品を好まず、甘いスナック菓子や油ものを取る傾向が強く、歯が揃っている人より栄養状態が悪いという結果が出ています」
■歯周病が健康意識を変えた
長澤「糖尿病と歯周病は悪循環すると考えられています。糖尿病は歯周病になりやすく、歯周病になると不健康な食生活になる傾向があり、糖尿を悪化させます。ある糖尿病患者さんは、まさにリンゴをかじると歯ぐきから血が出る状態で糖尿病でかかっている内科医の勧めで歯科に来ました。そして内科と歯科、並行した治療が始まると、その患者さんの健康への意識が大きく変わりとてもいい状態になりました。糖尿病の方には、歯周病の治療も同時に受けることをお勧めします。
 また、歯周病は肺炎とも関係しています。誤嚥(ごえん)で気管に食物やだ液が入ると肺炎の原因にもなるからです」
MF「誤嚥(ごえん)というのは何ですか?」
長澤「通常食べ物やだ液は食道に行きますが、気管に入ってしまうことです。つばや飲み物が気管に入って咳き込むことがありますね。あれです。お口の中が汚れた状態だと一緒に入った歯周病原細菌が気管や肺の細胞を傷つけてしまいます。そして炎症を起こすのが誤嚥性肺炎。傷があるとインフルエンザ菌などが入るリスクも高まります」
■日本の歯科はリーズナブル!
長澤「きょう、私がいちばん伝えたかったのは、ぜひ皆さんに虫歯が痛んだり歯ぐきが腫れる前に歯科に行ってほしいということです。歯科というと“高い”というイメージをお持ちでしょうが、こちら(先進7か国の歯科医療費の比較表)をご覧んください。円換算で他の国と1ケタ違うほど、日本は最も安価です。お口の健康のため、全身の健康のため、ぜひ歯科に行ってください」
MF「長澤さん、わかりやすいお話ありがとうございました」
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ブレイク中に質問整理 写真5
 ゲストとメイン・ファシリテーターが会話するようにテンポよく進んだゲストトークの後、質問タイムまでに15分間の休憩をはさみます。さっそくフロアファシリテーターが会場で質問カードを集め始めました。メディカル・カフェでは参加者が気軽に質問できますが、質問は受付で渡される質問カードに書くのがルール。学生はゲストと一緒に集まったカードを内容で分類し、流れを考えながら質問タイムを進めていきます。カードにペンネーム記入すれば質問タイムにマイクを渡してもらって直接ゲストに質問できますし、みんなの前で質問するのは恥ずかしいというならファシリテーターが代わりにカードを読んでくれます。
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もっと知りたい歯周病 写真6
 今回も素朴、具体的な質問が集まりました。長澤先生は「後半で使えるかなと思って」と質問タイム用のスライドも用意してくれていました。ゲストがこのカフェで伝えたいメッセージと参加者が専門家に聞いてみたいことが活発に行き交った質問タイム。その一部を紹介します。
   Q:
歯周病は重くても治りますか?
   A :
骨が溶けてしまうまで進行すると抜歯が骨を守るためにも有効とされていますが、いまは再生医療もありますから、重症でも条件が合えば治る可能性もあります。ただ、再生させても習慣が変わらなければ再発するリスクも大きいので、意識を変えることが大切です。
   Q :
歯周病でも専門医ではなく普通の歯医者さんでいいですか?
   A :
専門であるかどうかより、通い続けることが負担にならず、継続してこの先生に診てもらいたいと思えるような、かかりつけの歯科をぜひみつけてください。
   Q :
歯肉炎と歯周炎それぞれの具体的な治療は?通う頻度は?
   A :
軽度の歯肉炎はお口のお掃除で改善できます。歯科でお口の状態に合わせた方法を指導してもらってください。歯周炎は症状によっては抜歯や手術が必要になりますから、とにかくひどくならないうちに歯科に行ってください。通院頻度は歯肉炎ならだいたい2週間に1度、改善されればそれが1か月に1回、最終的には半年に1回の定期チェックで十分になります。
   Q :
デンタルリンスを使っています。寝る前が有効ですか?
   A :
寝ている間はだ液が減るので確かに有効ですが、デンタルリンスをしたから安心ではなく、まず歯磨きをきちんとすることを意識してください。
   Q :
歯周病の菌は移りますか?
   A :
菌のDNAを調査した研究があります。結果は夫婦や親子間で同じ型の菌をもつことが多いのがわかったので、移ると考えられます。ただ、それほど神経質になる必要はなくて、家族で鍋をつついても大丈夫です。大切なのは誰かが歯周病になったら家族全体のリスクが高くなるので、家族ぐるみで治すという気持ちで歯科に行くことですね。
   Q :
歯周病とはいえ、歯医者さんは怖いです。痛いことされませんか?
   A :
悪化してからようやく歯科を訪れる方が多いので、歯科は“痛い、怖い、高い(医療費)”というイメージを持たれがちです。でも軽度なら痛いことはされませんし、高い医療費もかかりません。ぜひ、治療のためではなく、日常のケアとして歯科に行く習慣を!
   Q :
歯がない人も歯科に行ったほういいですか?
   A :
はい。ある福祉施設で歯科衛生士を置いて歯のない高齢者の舌や粘膜を含む口腔ケアに力を入れたところ肺炎、インフルエンザの発熱リスクが半分以下に減ったという実例もあります。
   Q :
つい先日テレビで、特殊な液体を噴射して歯周病を治すというのを見ました。北海道でもできますか?
   A :
科学的、臨床的に証明されたものはまだないと思います。プラークは台所やお風呂などのヌルヌルと同様のものです。水回りのヌルヌルはこすらないと取れませんよね。
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参加者同士がつながった
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 ここで、ある参加者が「カード出していませんがいいですか?」と手を挙げました。「その番組、私も見ました。○○○(番組名)じゃないですか?」。なんと、先ほどの質問へのリアクションでした。「そうだと思います。2、3日前です」「口の中を無菌にするって…」「ああ、それです」と市民同士のやりとりが続き、そのまま「口の中を無菌にするのは可能ですか?」とゲストへの質問に。「無菌にはできません、たとえ可能でも。口の中には必要な菌もありますから」との答えに会場が納得したところでそろそろ終了時間。長澤先生は「気軽に歯科に足を運んでほしい」というメッセージで結びました。思いがけず市民同士のコミュニケーションにもつながった今回のメディカル・カフェ。最後は司会が「私自身今まで、たかが歯くらいと思っていたところもありましたが、きょうのお話で自分の歯にもっと関心をもとうと思いました。みなさんにも自分のため、家族のために、歯医者さんに行って頂きたいと思います」と素直な感想を伝えてクローズ。学生それぞれに進行上の反省点はあったようですが、一方通行で情報を伝える通常の講演会とのはっきりした違いを実感できるものでした。ゲストの力と市民の力を借りながら、学生たちは今回もメディカル・カフェを立派に仕上げました。お疲れさまでした。
 メディカル・カフェはこれからも続きます。身近な医療や健康をテーマにした気楽なカフェには使えるトリビアもいっぱい。ぜひご参加ください。
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「お口の健康で老後も元気に〜80歳で20本の歯〜」

お口の健康で老後も元気に ●日時:
11月14日(土)
14:00〜16:00
●場所:
紀伊国屋書店
札幌本店1階
インナーガーデン
ゲスト : 長澤 敏行さん
(北海道医療大学 歯学部准教授)
歯学博士。専門は歯周歯内治療学分野。日本歯周病学会指導医。東北大学歯学部卒業、東京医科歯科大学大学院博士課程修了。東京医科歯科大学附属病院医員、歯学部助手を経て、1996年より文部総在外研究員として米国ボストンのフォーサイス・デンタルセンターへ。帰国後、2000年より東京医科歯科大学大学院助手、後に助教。2009年、北海道医療大学着任。歯周病治療のプロとして臨床でも活躍中。
タイムスケジュール
13:30〜14:00 受付
14:00〜14:10 開会
14:10〜14:40 ゲストトーク
14:40〜14:55 休憩
14:55〜15:35 質問タイム
15:35〜     閉会
担当はBグループ

きょうのカフェの企画・運営はBグループの5名。前列左から麻生なつみ(本学心理科学部2年/広報、受付ディレクター。チラシのイラストも作成)、平田まりあ(本学看護福祉学部4年/フロア・ファシリテーター)、後列左から中村友昭(本学歯学部1年/進行ディレクター)、今江礼央奈(本学心理科学部1年/メイン・ファシリテーター、司会)、姜美順(札幌医科大学保健医療学部1年/記録)。

カフェを終えて、ひと言
中村 本学歯学部
歯学科1年

中村 友昭
「進行を担当しました。ゲストと何度も打ち合わせて、わかりやすい伝え方を練った甲斐あって、ゲストとメイン・ファシリテーターの掛け合いは、なかなかよくできたと思います。このBグループはすべてのメンバーが能動的で、一人に負担が偏ることもなくみんなで準備を進めて来られました。一緒につくりあげた満足感を得られる、とてもいいグループでした」
平田 本学看護福祉学部
看護学科4年

平田 まりあ
「担当はフロア・ファシリテーターでした。スムーズに進行しましたが、私たちには予定外のこともあって、本番の臨機応変な対応がいかに大事かを痛感しました。念入りに打ち合わせをしたので、グループのメンバーとゲストの全員がわかっているはずだと思っていたことが実は共有できていなかったり、コミュニケーションのむずかしさも身をもって知りました。と、反省点はありますが、この達成感はいいものです」
参加者のアンケートより(一部)
  • 「ていねいでわかりやすいお話でした。口の健康に興味をもちました」
  • 「専門家に直接質問できたのがよかった」
  • 「ゲストトークで学生さんがタイミングよく質問をしてくれたので、ゲストの説明もより理解しやすくなりました」
  • 「今まで口の中の健康に、自分はなんて無関心だったのだろうと反省」
  • 「お口の健康が全身にかかわるなんて、驚きでした」
  • 「質問に対して、わかりやすく答えてくれたのがよかった」
  • 「行かなければと思いつつ延ばし延ばしにしていた歯医者さんに、週明け、必ず行こうと心に誓いました!」
この他、市民の方々からたくさんの励まし、ねぎらいの言葉を頂きました 。

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