プロのアナウンサーの特別講義を実施。

みんな知りたい“気持ちの伝え方”を実践で教えて頂きました。
「心に届く話しことば 〜あなたのことばは届いていますか?〜」

 7月11日(土)の「メディカル・カフェをつくる」授業は、午前中が初めてのリハーサル、お昼を挟んで13時30分からは話し言葉のレッスンを受ける特別講義でした。講師は元北海道放送アナウンサー・安藤千鶴子さんです。初リハーサルで話すことの難しさを痛いほど感じていた履修生たちにとってはグッドタイミングの特別講義。ほどよい緊張感となごやかさに満ちた90分となりました。
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想像力を刺激する、朗読とギターのコラボ。
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 カフェ当日に司会、メーンファシリテーター、受付を担当する学生を中心に、昨年度の履修生も参加して始まった講義は3部構成。第1部の「朗読」に安藤さんが用意してくださった作品は、今年生誕100年を迎えマスコミで取り上げられることも多い太宰治の『満願』です。「破滅型と呼ばれ、暗く重い作風で知られる太宰ですが、『満願』は明るい作品が多く発表された中期のものです」と安藤さんが紹介します。学生にはプロの読み手による朗読を生で聞くことのできる貴重なチャンス、しかも、本学・阿部先生のギター演奏との夢の(!)コラボです。
 「これは、いまから、四年まへの話である(原文)」の書き出しで始まる『満願』は1600字程度の掌編です。作品のもつすがすがしさとところどころに顔を出すユーモアが安藤さんの声でさらに魅力を増し、まるで自分がその場面を本当に見たかのように次々と情景が目に浮かびます。言葉が聴衆の心にしっかりしみていく時間が必要なところでは、ゆっくりと間をとり、その間は阿部先生のギターの音色(即興、オリジナル曲です)が聴衆の想像力をはばたかせるお手伝いをしてくれます。目を閉じて聞く学生、安藤さんをじっとみつめて聞く学生。講義前のわずか2回のリハーサルで仕上げたとは思えないほど安藤さんと阿部先生の息がぴったり合った朗読ワールドに、会場はすっぽり飲み込まれています。およそ10分後、夏の日差しの下でくるくるっと回る白いパラソルが聴衆の心に鮮やかに描かれたところで、朗読は終了しました。
 朗読を通して、安藤さんは紙の上の言葉が声に乗せると別の輝きをもつことを実感させてくださいました。作品選びもさすがでした。聴衆が医学・医療系の学生であること、作品そのものが描写に無駄のない簡潔な文章で伝えたいことが十分に伝わるものであることを意識されたのかもしれません。「読みながら、みなさんが一生懸命聞いてくれている雰囲気を感じていました。これも双方向コミュニケーションです。“話す”ことの前提には“聞くこと”があります。まず、“聞くこと”を大事にしましょう」。安藤さんの言葉が、カフェ本番で自分がうまく話せるかどうかばかり心配していた学生に、市民の存在と、その声をしっかり聞くことを思い出させてくれました。
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声は意外にお口の外に出たがらない?
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 朗読の余韻がまだ消えぬ中、第2部が始まりました。学生の多くが北海道、東北の出身者であることを確認した安藤さんは、雪国に見られる話し方の特徴として「口を大きく開けず、言葉が口の中にこもりがち」という問題点を挙げました。ご自身も、放送局アナウンサー時代に指摘されたそうです。そこで、声のベクトル(方向性)をしっかりさせることを最初にアドバイス。大勢の前で話すときも聴衆の一人に的を絞って、その人に声を届けるつもりで話すと、みんなに話しかけているようになるそうです。
 「きょうはビシバシいくわよ」と、安藤さん。さっそく「お名前は?」と数人の学生に順に質問を始めました。学生が答えますが、1回目でフルネームをみんなが聞き取れるよう言える学生はいません。「言葉は口の中に残りがちなんです。外に出すことを意識して、一つひとつの音が消えないように」。安藤さんのアドバイスで学生の発音は2回目、3回目とおもしろいほどよくなりました。
 次に、全員立って呼吸・発声の実践です。背筋を伸ばして、体の筋肉を緊張から解放するようなつもりでリラックス。おへその下に握りこぶしを当て、そこで声をつくるイメージで、肺に空気を入れ無声音(スーッと細く吐く感じ)を出します。「いち、に、さん…」安藤さんがカウントを始めました。30秒まで数えたものの、そこまで息の続いた人はいません。悔しそうな学生たち。そこで、肺の空気で内臓が圧迫されてお腹がふくらむ腹式呼吸を意識してリ・トライ。今度は30秒以上の学生も数人いて、ちょっと気をよくしたのですが、「若い皆さんなら50秒はいけるはずです」とにっこり厳しい安藤さん。手強いです。続いて「あー」と発声しながらカウント。やはり無声音のときよりは時間が短かったものの、2回目には30秒近く続いた学生もいました。ちなみに、話している状態で最低15秒は息が続くことが、意味のつながる話しことばの目安だそうです。
 アナウンサーが毎日行う「ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ…」の発声の準備体操では、ハ行にきたところで「これは問題ですね、だらしないです」と、またまたにっこりシビアな指摘。どうしても口の中にこもりがち、横にもれたり、すぐ近くにぽろんと落ちてしまうような声をなんとか外に、まっすぐ出そうと奮闘する学生、そんな学生をリードしながらテンポよく進めていく安藤さん、授業はみんなでつくるものということを改めて実感します。そう、メディカル・カフェも同じ。カフェは時間、空間を共有するみんなでつくるもの。安藤さんが教えてくれているのは“話しことば”だけではないのです。
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笑顔は大切なメッセージ。
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 第3部では、カフェ当日に司会、メーンファシリテーターを務める学生が一人ずつ前に出て挨拶や案内を実演、安藤さんの個別指導を受けました。もちろん最初からうまくいくわけはありません。いくら仲間内とはいっても人前で話すとなると緊張するのは当たり前。それは午前中にリハーサルを経験した学生も同じです。話す速度はゆっくりと、一つずつの音をはっきり発音するつもりで話すこと、遠くの誰か一人にベクトルを合わせて届けるつもりで話すこと、間を取るときはゆったり会場を見渡すことと、プロの指導は具体的です。しかも必要であればすぐに安藤さんがお手本を示してくれますから、最初の「みなさん、こんにちは」の学生の一言も、みちがえるほどクリアになりました。
 同時に安藤さんが強調するのはノンバーバル(非言語)コミュニケーションです。「表情、しぐさも大切なことば」とおっしゃる安藤さんご自身が何よりのお手本。絶えることのない笑顔がお人柄を雄弁に語っています。安藤さんの指導を受けていると、気持ちの大切さが見えてくるようです。どんなにきれいな日本語で話しても、どんなに流れるような動作をしても、こころが入っていなければ伝えたいことも伝わらない。ですからおじぎにしても上半身を何度傾けるというマニュアルではなく、「来てくださってありがとうの気持ちをもって」というアドバイスをするのです。意識は必ず行動、表情に表れるものなのでしょう。
 学生たちには、肩に力が入りがちで、自分の声、ことば、動作を思うようにコントロールできないもどかしさを味わいながらも、カフェを開始する実感がひときわ高まった今日の特別講義。「たとえうまく話せなくても、一生懸命であれば誠実さが伝わって、コミュニケーションは十分できます」。安藤さんのこの言葉が、いちばんの励ましになりました。
後期履修生の声

写真10  安藤さんの話術と笑顔に引き込まれ、あっという間に90分が過ぎました。安藤さんが講義の最後にセットしたのは、阿部先生のギター独奏。実は、この特別講義が始まってから安藤さんが阿部先生に依頼したものですが、楽譜の用意もないままに快く引き受け「音楽もことばと同じです」と始めた阿部先生の演奏は、大陸的な響きをもった「旅」という名のオリジナル曲。さて、学生は何を感じたでしょうか。
 夏の午後の特別講義は、朗読で始まり音楽で終わる、とてもぜいたくなものでした。「秋の本番には私も市民のひとりとして参加します。楽しみにしています」と講義を結んだ安藤さん。楽しく役に立つ講義をありがとうございました。学生たちの今後の練習の成果にご期待ください!

 

「心に届く話しことば」

安藤千鶴子さん

講師 : 安藤 千鶴子さん
profile
 北海道放送(HBC)アナウンサーとして30年以上のキャリアを積み、その間、数多くのテレビ、ラジオ番組の制作に関わる。北海道大学放送講座の司会を担当していた頃には、授業「メディカル・カフェをつくる」のまとめ役である本学の阿部和厚先生と一緒に医学の視点を入れた番組作りにも取り組んだ。若手アナウンサーの指導・育成はもちろん、市民向けの「話しことば教室」を主宰。現在は、大人、子どもの双方を対象にした「声による表現のワークショップ」や、朝日カルチャーセンターにて朗読の講師を務める。「札幌コンサートホールKitara」などを会場に、チェンバロやギターなどとのセッションが評判を呼んでいる「朗読の会」など幅広く活躍中。
ご報告です。
 5月の合宿で、クラスメート間のコミュニケーションもばっちり。その後、7グループに分かれてカフェづくりが順調に進んでいます。この授業は、市民の存在をつねに意識しながら企画を立て、ゲストへの交渉、広報活動を行うなど、大学のふつうの授業とは異なる社会的活動を伴うことが大きな特徴です。学生だからという甘えは禁物。「メディカフェ社」社員という意識をもって取り組んでいます。すでにメディカル・カフェ開催日が決まり、テーマもバラエティ豊かに揃えました。カフェ当日に向けて、役割ごとに進む準備にも熱が入っています。
 そして、うれしいことに、昨年の前期・後期それぞれの履修生が開催当日のボランティアスタッフとして協力してくれることはもちろん、授業にもオブザーバーとして参加してくれています。学生同士が刺激しあって、ますますパワーアップするメディカル・カフェに、ご期待ください。
乞うご期待!
 09年度履修生がつくるメディカル・カフェの日程が決まりました。7回にわたって開催されます。大学の先生のほか、医療・福祉を現場で支えるプロフェッショナルなどゲストも多彩な顔ぶれです。お楽しみに。
10月4日(日)
テーマ:
(仮称)実録!再生医療24時!
10月17日(土)
テーマ:
(仮称)初期のうつにどう気づくか、どう対応するか
11月14日(土)
テーマ:
(仮称)お口の健康で老後も元気に
11月21日(土)
テーマ:
(仮称)救急車の正しい使い方
11月28日(土)
テーマ:
(仮称)癌の検査ってどうするの?
12月6日(日)
テーマ:
(仮称)食物とアレルギー
12月19日(土)
テーマ:
(仮称)あれ?これってもしかして認知症?
(各カフェとも詳細は後日)

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