市民公開シンポジウム

後期履修生による初めてのメディカル・カフェ。たくさんの市民の参加で、しっかり手応えを感じました。

3月14日(土)の13時から17時まで、JR札幌駅地下直結のセンチュリーロイヤルホテル20階「白鳥の間」にて、現代GP「双方向型医療コミュニケーション教育の展開」主催による市民公開シンポジウムが行われました。授業「メディカルカフェをつくる」の履修生、一般市民、教育関係者が集い、4時間にわたって多彩な視点から医療コミュニケーションを考え、意見を交換する、有意義な時間が共有されました。
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熱い午後がスタートしました。
 総合司会を務める札幌医科大学教授・長峯隆先生が開会を告げ、内容もりだくさんのシンポジウムの幕が開きました。このシンポジウムへの協力を快く受けてくださったカフェのゲスト、講師の先生はそれぞれ新潟、岐阜、大阪からいらした方々。どんな展開になるのか、否が応でも期待が高まります。
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1:開会挨拶 写真1
 最初に、この取り組み(現代GP「双方向型コミュニケーション教育の展開」)の札幌医科大学の代表である札幌医科大学医学部長・當瀬規嗣先生から開会の挨拶がありました。當瀬先生は、医療の現場では診断もケアもすべてが医療者と対象者のコミュニケーションで成り立っているという基本をあらためて確認し、「今日はこれまでの取り組みの成果を振り返るだけでなく、今後の展望を考え、議論する場にしましょう」と呼びかけました。そして、メディカル・カフェの開催はもちろん、札幌医科大学と本学の2大学で展開できたこと、大学を超えた学生間のコミュニケーションが図られたことを大きな成果として挙げました。
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2:取り組み報告
概要
 取り組み報告は2部に分けて行われました。最初は、札幌医科大学の竹田先生による概要報告です。「メディカル・カフェとは、医療・医学問題を扱うサイエンス・カフェ」という定義を紹介し、カフェの特徴として、草の根レベルであること、質問・対話の時間を長く設けること、市民の生活空間で行うこと、ファシリテーターがコミュニケーションをヘルプする役割を担うことを挙げました。そして、これまでの授業の流れを写真をふんだんに使いながら紹介し、学生へとバトンタッチしました。
写真2
受講生報告
 続いて札幌医科大学医学部2年藤野景子さんと本学心理科学部2年小杉山麗里さんによる受講生報告です。会場を驚かせたのはそのスタイル。今日は藤野さん、小杉山さんそれぞれに作成した報告書を手に集合しましたが、打ち合わせの段階で「一方通行の報告ではなく双方向型コミュニケーションを実際にやってみよう」というアイデアが湧き、報告そのものを二人の対話形式にしたのです。堅苦しさを排除して、イスに座ってお互いに質問し合うかたちで進んだ対話型の報告では、それぞれの履修動機や授業の感想、カフェ開催で痛感した他者のコミュニケーションをヘルプする難しさなどが語られました。飾らない正直な言葉での報告は聞く者の興味をどんどん誘い、話している学生も伝えたい思いが次々と出てくるようでしたが、さすがそこは履修生、タイムキープも完璧に、「インフォームドコンセントがひとり歩きしない医療人になりたい」とまとめて、時間通りに終了させました。
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3:メディカルカフェ(第9回)
ゲスト/丸山弘樹さん(新潟大学大学院医歯学総合研究科腎医療センター寄附講座特任教授)
 札幌医科大学と本学が合同で開催するメディカル・カフェも9回目。今日はこれまでの開催場所とは違うホテル内の会場ですが、このカフェを目当てに参加された市民もいらっしゃり、いつも通りの関心の高さを感じます。今日のテーマは「腎臓」ですが、ちょうど2日前の3月12日に世界腎臓デーだったばかりで、時期もぴったりです(2006年、国際腎臓学会と腎臓財団国際連合が毎年3月の第二木曜日を世界腎臓デーに定めました)。
 いつもと雰囲気は違うものの、メーンファシリテーター、フロアファシリテーター、音響や記録は学生が担当します。前期履修生の姿もボランティアスタッフ、また一般の参加者のなかに見られました。
写真3
ゲストトーク
<血液をきれいにする腎臓の仕組み>
 丸山先生がこのカフェで伝えたいのは「ご自分の腎臓に目を向けてください」いうメッセージです。トークは腎臓が血液をきれいにする仕組みを図でわかりやすく説明することから始まりました。腎臓は二つあり、にぎりこぶし大のそら豆形、一つが約150gの重さがあることなど基本情報に続いて、心臓から送り出される血液の約4分の1、なんと毎分1リットルもが流れ込んでいることを教えてくれました。腎臓では「糸球体」というろ過装置で1日150リットルの原尿を作りますが、はて、毎日そんなにおしっこは出るでしょうか。実は原尿はその後尿細管を通る間に必要な物質が再吸収され、最終的に尿となって体から出されるのは約1.5リットル。そんなことが体の中で毎日休まずに行われている、健康なときほど意識したことがない自分の体のすごさに感嘆せずにはいられません。
<腎臓が悪くなったらどうなるの?:慢性腎臓病>
 腎臓が役割を十分に果たせなくなるのが慢性腎臓病ですが、丸山先生は早期発見の大切さを訴え、初期症状がほとんどない慢性腎臓病に気づくポイントを教えてくれました。健康診断などでも行う尿検査や血液検査、ずらりと並ぶアルファベットと数字は何を表しているのか、一般の人にはわかりづらいものですが、今日はカフェならではのわかりやすさ。丸山先生は尿検査、血液検査を腎臓の代表的機能であるろ過と再吸収に着目して説明してくれます。尿検査からは宝物(タンパクや血液)まで捨てていないかどうかゴミの分別能力を調べ、血液検査ではゴミ処理能力をゴミの代表である血清クレアチニンの値で見るといいます。病院に行かなくても自分で検査できるキットも紹介されました。もし発見が遅れて慢性腎臓病が進行した場合は、正常に働く「糸球体」の数が減り腎臓の機能が低下、むくみ、呼吸困難、息切れ、食欲不振、倦怠感、高血圧といった症状が出るそうです。
<腎臓がだめになったとき:腹膜透析と血液透析>
 次は、腎臓が働かなくなったときに必要となる腎代替医療についてです。現在最も一般的なのがダイアライザーという機械に腎臓の働きをさせる血液透析。しかし週に2、3回通院して4、5時間ベッドで透析を受けることが必要となり、生活リズムの大きな変化は避けられません。生活リズムの揺さぶりがより小さなものとして丸山先生が紹介したのが、透析が必要となっても、まだおしっこが出る状態であればその残存腎機能を生かすことができる腹膜透析です。これは月に1、2回の通院のほかは在宅で、1日4回ほど透析液を交換します。そして最も生活リズムへの影響が小さいものが腎移植です。丸山先生がめざすのは、この3つの腎代替医療の十分な活用。腹膜透析はまだポピュラーではありませんが、丸山先生は札幌で受けられる病院を調べてきてくれました。
 丸山先生が大事にしているのは「生きがいの継続」のための医療です。「たとえ透析が必要となっても、透析前にできたことは透析後でもできます」。ゲストトークの締めくくりは、希望のある、力強い言葉でした。
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休憩
 ゲストトークが終わると、会場の北と南の壁一面を覆っていたカーテンが開けられ、地上約60メートルからの札幌の街並みが眼下に広がりました。この休憩中にフロアファシリテーターが参加者からコミュニケーションカード(質問カード)を集め、整理します。
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質問タイム
 質問のいくつかを紹介します。
Q:
腹膜透析はどれくらいの人が受けているのですか
A:
透析を必要とする人が日本にはおよそ27万人いますが、腹膜透析はまだ認知度が低く、その内の1万人ほどです
Q:
腎臓は二つとも働かないとだめですか
A:
片方でも正常なら問題はありません。腎移植も普通は一つだけです。ただ一つになった場合、残った腎臓は役割を果たすために少し大きくなります
Q:
昔から腎臓病にはスイカがいいと言われますが、本当?
A:
間違いです。水分をとるつもりでも野菜、果物の生の細胞に含まれるカリウムまでとってしまいます。カリウムは腎臓が悪くなってくると制限が必要なものです。温野菜がいいわけですが、レンジでチンはだめです。必ずゆでて、カリウムが溶け出したゆで汁は捨ててください
 丸山先生は、市民公開セミナーなどを積極的に開催している数少ないドクターです。その丸山先生から「私も地域に密着した手作りの活動をしていますが、一つ違うのは、ここは学生さんが一生懸命取り組んでいることです。素晴らしいと感じました」という言葉を頂いて、学生も教員も思わず背筋が伸びたところで、第9回メディカル・カフェは終了しました。
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4:講演「医療系大学における実践的コミュニケーションについて」
藤崎和彦さん(岐阜大学医学教育開発研究センター教授)
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 藤崎先生は最初に、医学教育の流れ、行動科学やコミュニケーション教育が始まった1960年代からこれまでを大まかに振り返り、学習の方略が受動的なものから能動的なものへと変わってきていることをおさらいしました。そして学習効率が高いPBLチュートリアルを学習経験モデル、デールの円錐を使って示しました。PBLチュートリアルとは、小集団で現実的な事例をもとに展開する学習法です(PBL=Problem-Based Learning)
 医療コミュニケーションについては、従来からの単なる心構え論は通用しないとばっさり。「善意は結果を保証しない」と言います。医療コミュニケーションはふつうのコミュニケーションと違い、非常に多様で個別的、生死に関わり、プライバシーに踏み込むことを求められます。しかし、相手の気持ちを悪くしないことを重視する日本の文化が、バッドニュースを避けられない医療コミュニケーションをより難しくしているようです。藤崎先生によると日本人は「がっかりの分かち合い」も下手だそう。医療の現場でも援助に求められるのは「安易な励ましではなく、しっかりがっかりする作業を共有すること」と強調します。
 藤崎先生は、医療コミュニケーション能力を育むうえで学習態度を飛躍的に高める非常に効果的な方法として、外部の人間とくに市民が参加する授業を推します。メディカル・カフェで市民と交流することも、もちろんその一つです。最近では模擬患者として市民に協力してもらう実習が各校で見られるようになりましたが、藤崎先生は、学生が経験するのは5、6回程度という少なさを指摘します。海外では30回、40回、多いところでは60回も模擬患者の継続なインタビュー実習が行われているそうです。医療に限らずコミュニケーションが難しい点は、頭でわかっていても、とっさのとき、ふさわしいタイミングでパフォーマンスできなければなにもならないこと。「コミュニケーションスキルはある種の身体化された技の一つ」。藤崎先生のお話で、学生も教員もトレーニングの大切さをあらためて確認しました。
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5:講演「臨床コミュニケーションをひらく〜開く、啓く、拓く、そしてひらく〜」
池田光穂さん(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
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 「ウチャスコ アシカイクル」アイヌ語浦河方言で「語り合う 上手な人」という意味です。池田先生の講演は、この言葉の紹介から始まりました。「人と人のいさかいは対話によってしか回復できない」。池田先生の思いをよく表した言葉なのかもしれません。
 池田先生は議論の構成要素として次の7つを提示しました。「なぜ“身体”への関心が高まるのか」「臨床コミュニケーションとは」「身体的関与を促す授業」「教育成果達成の逆説」「マンネリズムに抗して」「授業をみる眼を“複眼化”せよ」「コミュニケーション能力は教えられるか」。“臨床コミュニケーション”は「人間が社会生活をおこなうかぎり続いていく、ある具体的な結果を引き出すためにおこなう対人コミュニケーションのこと」と定義され、大阪大学コミュニケーションデザイン・センターで2006年に授業科目としてスタートしました。なお、ここで使われる “臨床”とは、狭い意味のクリニックではなく、“その現場における実践状況”のことです。
 池田先生も、グループ形成、結論を導く議論、プレゼンテーションという一連の流れを繰り返す参加型教育に積極的に取り組んできました。この授業スタイルはいまではすっかりポピュラーになりましたが、そこには予想とは異なる評価が生まれる可能性があること(例えば顧客としての受講生の満足度が挙がるほどプロバイダーとしての教師のフラストレーションが高まる)、マンネリズムに陥らない工夫をする必要があることを指摘しました。
 池田先生は、本取り組み「双方向型医療コミュニケーション教育の展開」に、次のステップではぜひ授業を見る目を複眼化してほしいと期待を込めてアドバイス。最後は、「さまざまな意見がありますが、授業の中でコミュニケーション能力をより広範に涵養することは可能です」と言い切り、本取り組みへの大きなエールを送ってくれました。
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6:総合討論
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 いよいよ本日のシンポジウムも最後のプログラムです。ゲストスピーカーの丸山先生、講師の藤崎先生と池田先生、竹田先生(札幌医科大学)、受講生2名、さらに市民代表の方が前に出て、本学薬学部准教授・小林道也先生の進行のもと、双方向型医療コミュニケーションとその教育へのそれぞれの思いや期待が語られました。以前もメディカル・カフェに参加したという市民代表の方からは「メディカル・カフェは、病院では言いだしづらいことも聞いてみようという気持ちにさせてくれます。参加者の中に同じような不安をもっている方がいることを確認できることもいい点です。学生さんが質問しやすい雰囲気をつくってくれ、こちらが質問したいオーラを出すと敏感に察知してくれるところも素晴らしいと思います」という言葉を頂きました。また、参加者席の「医療系専門学校の教員です」という方、履修生からも質問や意見が活発に出て、限られた時間でしたが、とても充実した意見交換になりました。
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7:閉会挨拶 写真8
 予定の時間を迎え、この取り組みの本学の代表、心理科学部教授・阿部先生の挨拶でシンポジウムは閉会となりました。「今日は市民セミナーなどに自ら取り組む全国でも数少ないドクターである丸山先生、コミュニケーション教育の専門家である藤崎先生、池田先生が、情熱と理論とリアリティで双方向コミュニケーションを実際に見せてくださいました。教員にとっても素晴らしい学びの機会となりました。ありがとうございました」。
 

第8回メディカル・カフェ「音楽との新たな出会い〜音楽療法への誘い〜」

プログラム

1:開会挨拶
現代GP代表 當瀬規嗣
(札幌医科大学 医学部長)
2:取り組み報告
(1)概要
竹田寛(札幌医科大学 現代GP「双方向型医療コミュニケーション教育の展開」担当
(2) 受講生報告
小杉山麗里(北海道医療大学)
藤野景子(札幌医科大学)
3:メディカル・カフェ「血液をきれいにするしくみ〜腎臓と透析〜」
ゲスト/丸山弘樹さん(新潟大学 医歯学総合研究科 腎医学医療センター寄附講座特任教授)
休憩
4:講演「医療系大学における実践的コミュニケーション教育について」
藤崎和彦さん(岐阜大学医学教育開発研究センター教授)
5:講演「臨床コミュニケーションをひらく(開く・啓く・拓く)」
池田光穂さん(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
6:総合討論
司会/小林道也(北海道医療大学薬学部准教授)
コメンテーター/丸山弘樹さん、藤崎和彦さん、池田光穂さん、竹田寛、市民代表、受講生代表
7:閉会挨拶
阿部和厚(北海道医療大学心理科学部教授)

メディカル・カフェ:ゲスト profile

丸山 弘樹(まるやま ひろき)さん
新潟大学医歯学総合研究科腎医学医療センター寄附講座特任教授。1957年新潟県新発田市生まれ。旭川医科大学卒業後、新潟大学医学部第二内科助手を経て、2007年より現職。慢性腎臓病、腹膜透析の推進に全力投球。
音楽との新たな出会い

講演:講師 profile

藤崎 和彦(ふじさき かずひこ)さん
岐阜大学医学部医学教育開発研究センター教授。北海道大学医学部卒業、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。奈良県立医科大学助手、岐阜大学助教授を経て現職。専攻領域は医学教育学、行動科学、医療社会学。日本での医療現場におけるコミュニケーション技術指導の草分け的存在。
池田 光穂(いけだ みつほ)さん
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。1956年大阪府生まれ。鹿児島大学理学部生物学科卒業、大阪大学大学院医学研究科医科学研究科博士課程単位取得済退学。1983〜87年国際協力事業団(現国際協力機構)(JICA)青年海外協力隊(JOCV)隊員として中央アメリカのホンジュラス共和国保健省に派遣。帰国後、日本学術振興会特別研究員、北海道医療大学助教授、熊本大学文学部助教授・同教授を経て現職。専攻は医療人類学、中米民族誌学。
参加者のアンケートより(一部)
  • 「シンポジストを多職種にすると、生活実践レベルでの対話が可能となり、双方向というより多方向に展開でき、この取り組みの可能性が広がると思います」
  • 「ぜひ他の大学の学生にも参加してほしい 」
  • 「医療が誰のものか、専門家と市民、学生が共に考えるきっかけになるといいですね」
  • 「藤宮さんの研究に向けた熱い心が伝わってきました」
  • 「市民と医療者が相応を理解し合う場を設け続けてください」
  • 「メディカル・カフェの質問カードのシステムはいいと思います。ペンネームで記入すれば学生さんが代わりに質問してくれるので、直接聞きにくい質問もできます」

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