最終リハーサル

後期履修生による初めてのメディカル・カフェ。たくさんの市民の参加で、しっかり手応えを感じました。

1月31日(土)、後期履修生の手がけるメディカル・カフェが開催されました。北海道医療大学と札幌医科大学が合同で開催するメディカル・カフェとしては7回目、学生の手によるものでは6回目となりますが、後期履修生には初めての体験です。しかし、入念な準備、回を重ねたリハーサル、そしてボランティアスタッフとして集まってくれた前期履修生のサポートで、なごやかに最先端の医療を語り合う空間をつくりあげました。
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第3回メディカル・カフェ 「生活習慣病と再生医療〜再生医療の行方〜」 2時間前に集合、手際よく準備。
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 最高気温がわずかに0℃に届かず真冬日となったこの日、学生たちは開始2時間前の12時に紀伊国屋札幌本店1階インナーガーデンに集合しました。前期に作ったおそろいの鮮やかなブルーのポロシャツ姿は見られませんでしたが(半袖なんです…)、緊張と興奮が交差する表情の後期履修生に交じって、懐かしい前期履修生の顔もありました。こちらは久々のカフェ開催に張り切りモード。ただしあくまでも前期履修生はボランティアスタッフとしてサポートに回り、すべては後期履修生の主導で進みます。開場予定時刻の13時30分を待たずに市民が集まり始めました。今回は、このカフェを目的に会場を訪れた方が多くいらっしゃり、市民の間でメディカル・カフェの認知度が少しずつ上がっているのを感じます。学生にとっては、うれしくもあり、それだけ責任も重く感じるところでしょう。席がどんどん埋まるなか、なんと、後期の特別授業で話し言葉の講師を務めてくださった安藤千鶴子さんの姿も!学生は安藤さんから受けた数々のアドバイスを緊張の中でも実践できるでしょうか。そして迎えた14時、立ち見も出る大盛況のなか、第7回メディカル・カフェが予定通りにスタートしました。
(準備の様子などは、前期のメディカル・カフェのレポートで詳しくご報告しています。そちらもご覧ください)
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参加者を引き込むクイズも織り交ぜ「これぞカフェ!」のゲストトーク。 写真3
 ゲストは札幌医科大学教授の藤宮峯子先生。登場時、スクリーンに映っていたのはトカゲのイラストです。藤宮先生は、切っても再生するトカゲのしっぽのようにはいかない人間の臓器をいかに作っていくかを研究しています。関西弁のイントネーションがときどき交じる親しみやすい語り口で参加者の興味をひきつけた、そのゲストトークのあらましをご紹介しましょう。
■ ヒトは60兆の細胞からできている
「20世紀は移植医療が花形でした。しかしドナー不足と拒絶反応の二つの大きな問題点がありました。それをクリアする21世紀の新しい医療として注目されているのが再生医療です。再生の対象となるのはありとあらゆる細胞、臓器ですが、いまは骨、皮膚、角膜などごく一部しか実際の医療には応用されていません。なぜ実用化が難しいのでしょうか。人間の体の細胞数は、1個の受精卵から細胞分裂を繰り返し60兆にもなります(なんと地球の人口の1万倍!)。再生医療で盛んに研究されている一つは発生の過程を枝を広げた木にたとえると(幹の最下部が受精卵、どんどん枝分かれして枝についた葉が臓器)、幹にあたる“幹細胞”です。あらゆる組織になる可能性をもった細胞で、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)が知られています。ところが、これらには問題点があるのです。」
■ ES細胞とiPS細胞の問題点
「ES細胞は、提供された受精卵を使うため倫理的な問題があります。放っておけば人間になる細胞です。命はどの時点から命と呼ぶのか、大きな問題です。拒絶反応もあります。クローン人間も可能というのも議論になる点です。一方、iPS細胞は皮膚の細胞を使います。皮膚からとった細胞に遺伝子をプラスすることで何にでもなる細胞に先祖返りするのです。受精卵は使用しませんし、自分の細胞を使うため拒絶反応もありません。しかし、目的の臓器にはならない可能性も高く、特定の臓器になるまでの道のりが遠いこと、どんどん増える性質をもつ遺伝子がガン細胞と共通しているため、ガンになるリスクが高いという問題点があります。そこで、“発生の木”で幹でも少し上、枝に近い部分にあたる体性幹細胞を使おうというのが私の研究です。」
■ 体性幹細胞を使う再生医療のメリット
「体制幹細胞は様々な臓器にありますが、骨髄内のものが最も使われています。拒絶反応がなく、目的の臓器をつくる細胞への到達も早いのが利点です。再生医療へは2つのアプローチがあります。一つは体外で遺伝子を作用させ、目的の細胞を作ったら、体内に戻して臓器になるのを待つ。二つめは遺伝子の運び屋(ベクター)に組み込んで注射し、体の中の幹細胞に作用させる方法です。この体性幹細胞を使う再生医療を、生活習慣病の中でも糖尿病と心臓病(虚血性)に応用したいと研究しています。」
■ 生活習慣病:糖尿病への応用
「糖尿病患者数はこの50年で35倍と急増し、他の疾患に比べてもあまりに多く、いま予備軍を含めると40歳以上の3人に1人までになっています。血糖値をコントロールするインスリンが出ない病気ですから、インスリンを出す細胞を作ればいいわけです。そこで工夫をしました。インスリンは膵臓から出ますが、膵臓のすぐそばにある兄弟のような臓器、肝臓を使います。肝臓はサイズが大きいので臓器を作る場に向いています。マウスの実験では、1回の注射で血糖値が4か月安定しました。この期間は人間の15年ほどに相当します。」
■ 生活習慣病:心臓病(虚血性)への応用
「虚血性の心臓病とは心筋梗塞です。心臓に血液が行かないため心臓の筋肉が死に、ポンプ作用が止まって脳に酸素が行かなくなります。脳に酸素が行かない状態が3〜5分続くと脳の細胞は死んでしまいます。そこで、骨髄からとった体性幹細胞で血管を再生させようとアプローチしています。こちらもマウスの心臓に直接注射したところ8週間後に血管の再生を確認しました。ちゃんと血液が流れていました。」
■いくつになってもハッピーに!
「マウスでの実験は成功でした。ただ、人間への応用にはまだ遠いのです。なぜかというと、ウイルスを運び屋に使うため、感染による副作用のリスクがあるからです。そこでいま、毒性の少ないウイルスを使う、目的の細胞に到達しやすい運び屋を作る、ウイルス以外の運び屋を使うなどの解決方法を考えています。めざすのは、再生医療で実現する「いくつになっても、うきうきハッピーに!」。そのために日々、がんばっています。」
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再生医療のここが知りたい! 写真4
 ゲストトークの後15分間の休憩を挟んで、質問タイムが始まりました。生活習慣病は市民にとって身近な問題。この機会に聞いてみたいこともたくさんあったようです。質問をきっかけに、藤宮先生と参加者との会話がどんどん進みました。いくつかをご紹介します。
   Q:
ガンになるリスクのお話がありましたが、実験でガンになったマウスはいたのでしょうか?
   A :
心臓ではありませんでした。もともとガンができやすい臓器かどうかも関係してくると思います。
   Q :
再生医療を予防に使えませんか?夫の親が重度の糖尿病患者で、その遺伝子を夫も子どもも持っていると思うので心配です。
   A :
血糖値が高い状態が長いほど臓器の障害は大きくなります。高血糖そのものには自覚症状がないので、とにかく早く知って、すぐ対策を講じることが大切です。やはり予防は運動と食事ですね。早期ならほとんどインスリン注射ではなく経口糖尿病薬ですみます。ただ、若年性の場合は注射が必要になることも多いですが。再生医療は実現してもやはりお金のかかるものです。毎日の生活習慣で健康維持がいちばんです。
   Q :
今日のお話の再生医療が実用化されるまで、あとどれくらい待てばいいでしょう。
   A :
薬品会社など産業界も含め、盛んに取り組んでいます。でも、どれくらいとは言えません。ただ、「一日も早く」という思いで毎日研究しています。
   Q :
膵臓の細胞を肝臓で作るということですが、肝臓は木でいうと葉にあたる部分、すでに分化しているものだと思うのですが。
   A :
実は膵臓と肝臓は、もともと同じところからできたものです。肝臓の中には膵臓にもなれる細胞が眠っているわけです。しかも肝臓はサイズが大きいだけでなく、ガンで一部を切り取っても大丈夫なことからわかるように予備能があるんです。
エール!:
82歳です。心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、狭心症、はしもと病と、それはもう病気の問屋なんです。今日初めて再生医療を知りました。期待しています。がんばってください。
   A :
お元気そうで、励まされます。自分の病を思い煩うことは、免疫力を低下させて病を悪化させることにもなりますから、毎日、おいしく食べて、楽しく過ごしてください。
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ゲストも勇気づけられたカフェでした。
 ゲストと市民の間で活発なやりとりが交わされ、堅めのテーマながらもなごやかな雰囲気のなかで第7回メディカル・カフェは幕を閉じました。ゲストの藤宮先生も「むずかしい話で、いねむりする方も出るのではないかと心配していましたが、みなさん熱心に耳を傾けてくださって感激です。質問も的を射たものばかりで、これからの研究のために、得られたことがたくさんありました」と、カフェで刺激をもらえたようです。ゲストと市民と学生が、先端の情報を共有し学びあっていく、カフェの醍醐味ともいえる一体感に包まれ、学生の力の大きさを改めて実感させられました。後期2回目のカフェは2月8日(日)に開催です。テーマは音楽療法。こちらのレポートもぜひご覧ください。
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第3回メディカル・カフェ「生活習慣病と再生医療〜再生医療の行方〜」

生活習慣病と再生医療 ●日時:
1月31日(土)
14:00〜16:00
●場所:
紀伊国屋書店
札幌本店1階
インナーガーデン
ゲスト : 藤宮 峯子さん
(札幌医科大学 医学部解剖学第2講座教授)
奈良県生まれ。滋賀医科大学卒業(一期生)、同第大学院修了。消化器内科研修医、滋賀医科大学解剖学助手、助教授を経て、2008年6月より現職。専門は「再生医学」「幹細胞研究」「脳と腸の機能相関」。「研究には夢とロマンを追求し、教育には情熱を込め、死ぬまで青春!」がモットー。
タイムスケジュール
13:30〜14:00 受付
14:00〜14:10 開会
14:10〜14:40 ゲストトーク
14:40〜14:55 休憩
14:55〜15:55 質問タイム
15:55〜16:00 閉会
きょうの感想
高橋 札幌医科大学医学部
医学科2年

松田 律史
「リハーサルでいっぱいダメ出しされましたが、いまは無事終えられてほっとしています。そうは見えなかったかもしれませんが、ノミの心臓なんです、本当に。ものすごく緊張しましたが、後半はほとんどアドリブでも、なんとかまとめられてよかったと思います」
小杉山 本学心理科学部
言語聴覚療法学科2年

小杉山 麗里
「今日は受付を担当しました。参加者のほとんどが通りがかりの方だろうと思っていたのですが、外からまっすぐこの受付めざして来てくれる方が多くて、驚きました。新聞で紹介されたときの切り抜きを手にした方もいて、今日のカフェを待っていてくれた人がいたんだと、あらためて責任を感じました」
荒岡 本学薬学部
薬学科3年

遠藤 法子
「司会を担当しました。たくさんの市民の前でマイクを持つのはとにかく緊張しましたが、とっても楽しい経験でした。市民の方からゲストへの質問内容が予想より専門的で、ちょっとびっくりしましたが、興味や関心のある方が集まってくれたということなんですね。次回は受付、明るくがんばります」
参加者のアンケートより(一部)
  • 「再生医療が身近になりました」
  • 「リラックスして参加できる雰囲気がよかった」
  • 「藤宮さんの研究に向けた熱い心が伝わってきました」
  • 「毎月開催してほしい」
  • 「希望を与えてもらいました」
  • 「せっかくの機会なので、もっと長い時間やってもらいたい」
  • 「学生さん、気がきいてよかったです」
  • 「学生さん一生懸命でした」
そのほか、たくさんの励まし、ねぎらいの言葉を頂きました。

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